PMサプリ16:教会を建てているといえる

【PMサプリ16:教会を建てる】

教会を建てているといえることが重要である(ピーター・ドラッカー)


【効用】

・PM体質改善
  リーダーシップ発揮
・PM力向上
  チームをまとめる力の向上、ピープルマネジメント力向上
・トラブル緩和
  モチベーション向上、チームの士気向上


【成分】

◆石切りに訊く

この言葉も「マネジメント」の中に出てくる言葉である。有名な言葉なので、ご存知の方も多いと思う。元になっている石切り工のエピソードがある。

教会の建設地で、仕事をしている石切り工がいる。その石切り工が、何をしているのかと聞かれた。

石切り工1:暮らしを立てている
石切り工2:石切りの仕事をしている
石切り工3:教会を建てている

マネジャーとは三番目の石切り工のことであるというのがドラッカーの主張。ビジョンを持てとか言ってしまうとなんとなく分かった気になってしまうが、要するにビジョンを持つということなのだ。


◆スペシャリストをどう考えるか

実は、ドラッカーのこの議論の中で、リーダーシップよりももっと興味深い議論がある。ちょっと脱線するが、読者の中には深い関係のある人も多いと思うので、触れておく。それは、石切り工2に対する議論である。ドラッカーは、専門技術は組織にとって極めて重要であるが、それを必要以上に重要だと勘違いしてはならないと戒めている。石切りの高度な技術が組織にとって意味があるのは、組織にニーズがある場合に限られる。専門家には、専門性が高いと、石切りの仕事自体が重大な仕事だと錯覚してしまう習癖があると指摘している。これは、ある種のパラドックスである。

プロジェクトマネジメントをやるときにこのパラドックスに陥ることがある。何かの専門家がいる。極めて優秀な人材である。ひょっとするとこのプロジェクトの行く末を左右する存在になる可能性があるが、100%その技術が必要かというとそうとは限らない。半々くらいの確率で、他の技術で代替できる可能性もある。

こんなときに、その専門家の意見が必要以上に強くなってしまうというケースである。その専門家が重要であるのはその技術を使うと決まってからなのだが、それ以前から錯覚により重視してしまう。そして、代替技術を検討することなく、新しい技術を使うことに陶酔してしまうようなケースだ。これは、プロジェクトマネジメントとして最悪だ。


◆プロジェクトの目的は「教会を建てる」こと

さて、本題に戻ろう。プロジェクト憲章を書くときにプロジェクトの目的を明確にする。さすがに石切り工1のような目的を書く人はいないが、石切り工2のような目的を書くプロジェクトマネジャーは結構多い。これが厄介である。
(もっとも、プロジェクトマネジャーに「今、何をしているんですか」と質問をしたら、ひょっとすると5人に1人くらいは1番目のタイプがいるかもしれない)。


◆教会を建てるとはどういうことか〜事例で考える

一つ例を挙げてみよう。ナノサイズの対象を計測できるセンサーを開発するプロジェクトがある。このプロジェクトの目的を書いて貰うと、おそらく、2人に1人はセンサーの仕様をかく。つまり、「***ができるセンサーを開発する」ことを目的に挙げる。間違っているとは言わないが、あまり好ましくない。その先にあるものが見えにくくなるからだ。プロジェクト憲章であれば、背景などの記載項目がある。そこに本来の目的を書くこともできる。これでもかまわない。

背景:1/1000000〜1/10000mmの対象の計測が実現できれば競合A社の顧客の30%をターンオーバーできる
目的:1/50000mmの対象を6σの精度で計測できるセンサーの開発

この例を教会と比較してみるとどうなっているのか

 石を切り、支柱を作る
 = 1ミクロンの対象を0.005%の精度で計測できるセンサーを開発する

 教会を作る
 = 自社のシェアを30%向上させ、競合のシェアを30%下げる

という関係になる。これをみて違和感のある人は、スペシャリストになれても、マネジャーにはなれないかもしれない。実は、この違いは、いわゆる開発マネジメントとプロジェクトマネジメントの違いでもある。

2番目のタイプの目的を設定すると、プロジェクトが混乱してきたときに、進む道を迷うことが多い。あるいはプロジェクトの計画そのものに問題が出てくるケースも少なくない。ただ、プロジェクトメンバーの動機付けという点では、メンバーのタイプによってはタイプ2の目的設定の方がよいケースがある。例えば、メンバーが職人的なケースだ。

SIプロジェクトなどはこのケースが多い。

例えば、そのプロジェクトの成果、つまり、完成したシステムが何に、どのように使われ、顧客にとってどのような効果があるかにはあまり興味を持たない。ひたすら、提案した仕様を実現することに意欲を燃やすようなタイプのチームである。このようなチームの場合、プロジェクトとしての目的に敢えてタイプ3のものを掲げる必要はないかもしれない。タイプ2の目的を掲げた方がチームが一丸になれる。しかし、その場合にも、プロジェクトマネジャーはしっかりとタイプ3の目的を認識しておく必要があるだろう。
 (2006年3月1日号より)
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