プロセス14:プロジェクトマネジメントクリニック
ケース4:メンバーの問題行動

■相談5:(Mさん、SI企業の業務変革、プロジェクトマネージャー、45歳)

今、私がプロジェクトマネジメントを担当している業務改革プロジェクトのリーダーで、若干、取り扱いに困っている人がいます。彼はプロジェクトの中では顧客満足度向上のプロセスを担当しているリーダーAさんです。非常によくできるということで職場からの推薦があり参加している人なのですが、部下に任せることができないようで、部下の仕事をかなり、細かくチェックしています。

現在、彼の担当パートは4人のメンバーで、加えて大きな作業が発生する際には外部から作業要員を確保してきて進めています。メンバーの仕事はもちろん、外部作業要員の仕事もチェックする徹底振りです。このチームはもともと彼とは組織的な関係のない連合チームですので、メンバーの中には、チェックが面白くなくて、腐っている人もいますが、一向に意に介する様子はありません。私から見ている分にはその分成果物の品質が上がっているかというとそうは見えず、むしろ、メンバーの貴重な意見が彼のレビューで消えてしまっているケースも少なくないと感じています。

また、そのような仕事をしているため、彼自身の労働時間はだんだん長くなってきており、その中でメンバーとの打合せをするために、メンバーも深夜まで付き合うというパターンで、彼のグループの工数が突出して大きくなっています。進捗はなんとかクリアできていますし、予算的な問題もないので、管理上の問題は今のところありませんが、いつまでこのようなやり方で持つか不安です。

さらに、まずいことに、特定の顧客にはヒヤリングをしているのですが、メンバーに任せたヒヤリングの結果に満足できず、再調査をお願いして、営業を介してクレームが来ている顧客もあります。これについても本人はまったく気にしている様子はなく、彼らのためになるんだからいいじゃないかという感じです。

このリーダーにどのように対処していけばよいでしょうか?

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◆好川哲人の見立て
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いわゆる「問題社員」問題である。

◆問題行動

まず、最初に問題社員のパターンをいくつかに整理してみよう。問題社員の問題行動
には
 ・反抗
 ・サボる
 ・他人への配慮がない
 ・スキルがない
 ・オーバーワーク
 ・問題行動に気がつかない
 ・不安定である(精神的、キャリア的)
 ・最近、組織に対して謀反を起こした
 ・私生活で問題を抱えている
といったようなパターンがある。まず、こういう傾向が見られるメンバーには注意が必要である。同時に、どのようなパターンの問題社員かによって、あなた自身の対応を変えていく必要があるだろう。


◆問題行動への対処パターン

反抗の場合には、あなた自身の問題がある場合も少なくない。できるだけ単純な問題でメンバーが反抗してきたものから、自分の意思決定や行動を振り返るのがよいだろう。その際に重要なポイントは、あなたが相手の立場であれば、してほしい行動をしているかという視点で振り返ることである。あなたの意思決定や行動が100人いれば100人があなたが正しいと支持をするとしても、その伝え方や伝えるタイミングに問題がなかったかという振り返りはすべきだろう。

サボるとか、他人への配慮がないといったケースでは、まずは、あなた自身が彼と一緒に動いて、彼の行動を矯正していくような努力をしてみるのがよい。それでどうしようもなければ、彼の上司に知らせ、調整してもらうのがよい。今回のケースは異なるが、ラインでプロジェクトを組んでいる場合には、この2つは同じことになる。

次のスキルの問題については「相談2」で話題にしたので、ここでは省略する。

オーバーワークの場合には2通りの原因であることが多い。ひとつは、これも相談2で触れたが上司(その人のリソースマネージャー)がきちんとリソース管理をできていない問題である。相談2のケースはこれだけではないが、もっとも基本的な理由はこれだといえる。この場合には、リソースマネージャーと交渉をするしかないだろう。
もうひとつのケースは自身がワークロードを勝手に増やしている場合である。勝手という表現は少しきついかもしれないが、プロジェクトスコープ外の作業をしているケースは以外と多いものだ。たとえば、作業のサポートツールの開発をベースラインWBSに入れていないのに、やっているといったケースがそうだし、ある意味で過剰品質を求めているケースなどもよくある。今回のA氏のケースはこれに当たりそうだが、この場合は、目標管理などの個人の業績プログラムと結びつけて、より、高い業績を上げる方法について話し合いをするしかないだろう。

問題行動に気がつかない場合には、フィードバックが有効である。具体的なフィードバックの方法については、「プロジェクトマネージャー養成マガジン」の
「ヒューマンソフトマネジメントスキルシリーズ」

を参考にしてほしい。

不安定さがある、組織に対して反乱を起こした、私生活に問題を抱えているといったもののついては、これまでに説明してきたものよりも、深い話である。したがって、プロジェクトマネージャーとしてもうかつに踏み込めない側面がある一方で、何らかの影響を与えることができる切り口を探していく必要があるだろう。


◆今回の相談へのお答え

さて、Aさんのケースに戻ろう。Aさんのケースはこれらの原因のうち、いくつかの要因が絡んでいる。最後の3つについてはこの相談文面からは有無が明確ではないが、少なくとも

 (1)他人への配慮がない
 (2)オーバーワーク
 (3)問題行動に気がつかない

の3つの問題ははらんだ行動だと思われる。

まず、(1)の「他人への配慮がない」については、上に述べたように、最初は一緒に仕事をしていく中で、問題点を指摘していくのがよい。とはいえ、Aさんの場合リーダーなので、なかなか一緒に仕事とするというわけにはいかないかもしれないので、むしろ、メンバーへの指導的活動の中に入り込み、矯正をしていくのがよいだろう。

(2)のオーバーワークだが、これは(1)の問題が解消されればある程度、解消していくことが期待できるだろう。その意味で、直接取り組むのではなく、メンバーの労働時間という切り口からAさんのやり方を矯正しつつ、結果としてAさん自身の労働時間も減らしていくという方向でよいだろう。

(3)も基本的には(1)の取り組みの中で対応できると思われる。

もちろん、(1)への取り組みの中で、あなたのアドバイスをAさんが気持ちよく受け入れてくれる保証はない。ここにはテクニックが必要だろう。特に、Aさんの主張を注意深く聞き、まずは、Aさんとメンバーの間のコミュニケーションの成立に全力を尽くすべきだ。Aさんの上司は少なくともAさんを評価している。その上司がどういうタイプの人かは分からないが、一般論としてAさんが、あまりにもエクセントリックな人材であればそのような評価をされることもないと思われる。その意味で、Aさん自身の問題だと決め付けるより、メンバーとのコミュニケーションをファシリテートし、その中でもう一度、事実確認をした方がよいだろう。その上で、Aさんとメンバーのコミュニケーションが成立しても同じ状況であれば、Aさんの行動を修正していくフィードバックをかけていくことが必要だ。


 (2005年4月28日号より)
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