プロセス8:チームによる問題解決(基礎編)

◆良構造と悪構造

 まず、最初のポイントはその問題が悪構造か、良構造という点である。ちょっと難しい言葉だが、あえてこの言葉を使う。良構造問題とは問題の原因が何であるかを明確にできる、あるいはどのように対処するかについて合意できるような問題である。
 例えば、「メンバーのAさんが過労で倒れ、スケジュールが遅れている」という問題が発生したとする。この問題は原因は誰に聞いてもAさんがダウンしたこというだろう。対策についても、例えば、メンバーの補充をするということで合意可能だろう。

 ところが、そうではない問題もある。例えば、「プロジェクトメンバーの士気が下がってスケジュールが遅れている」とする。この場合は、原因は聞く人によって異なる可能性が高いし、また、結果として対策もみんなが納得できるような対策は出てこないだろう。このように原因が明確に特定できない、解決策が合意できないような問題を悪構造問題という。悪構造問題の中には、「問題かどうか」すら、明確にできないような問題もある。

 スケジュールが遅れているかどうかは計画と比較すれば分かる。しかし、コミュニケーションがうまく行っていないというのは、どのような状況を指しているかは難しいだろう。つまり、その問題が発生しているかどうかについても、合意ができないの
だ。


◆問題解決に与えられる時間

 二番目のポイントは、問題解決に与えられる時間である。プロジェクトで発生する問題の特徴は、問題解決の時間を計画的に設定していかなくてはならないことだが、その中でも、即断しなくてはならない問題と、解決までに若干の猶予のある問題がある。

 例えば、「スケジュールが遅れている」という問題の解決は、解決に時間をかければかけるほど、解決策の自由度が小さくなるので、発見されたところで即刻対応する必要がある。これに対して、「システムの設計仕様に顧客が満足していない」という問題が生じたとすると、ある程度の時間をかけてさまざまな意見を聞いて解決することが可能だ。


◆解決策の有効性の評価

 三番目のポイントは、解決策の有効性について主観的に納得すればよい問題と、客観的な裏づけが必要な問題がある。

 例えば、プロジェクトマネージャーがメンバーの士気が下がっているという問題を感じたとしよう。この問題の解決策の有効性は、プロジェクトマネージャーやメンバー自身が納得すればよい。例えば、気分転換のサッカーゲームをすることに決めたとする。それが問題をどの程度解決するかどうかは大きな問題ではなく、納得すればよい。

 ところが、スケジュールが遅れているという問題があったとする。これに対して、予算追加と要員追加投入をするという解決策を決定した。この場合には、その予算追加と要員投入が妥当なものであることを定量的に証明する必要がある。

 以上の3つのポイントに注目すると、問題の性格に応じて、プロジェクトマネージャーが取るべき、問題解決行動が決まってくる。


◆プロジェクトマネージャーの問題解決行動

 プロジェクトマネージャーを見ていると、プロジェクトマネージャーの問題解決行動には3つの種類があることに気づく。

 (1)一人で決定する
 (2)メンバーの意見を聞き、それらを参考にして最終的には自分自身で決定する
 (3)チーム問題解決を行う

 では、どのように使い分けているのだろうか?あるいは、使い分けるべきなのか?これが問題の性格に依存する。

 まず、構造に注目した場合、良構造問題については、(1)のタイプの問題解決行動が取られる場合が多い。良構造問題は過去に経験のある問題の場合が多く、特に、ベテランのプロジェクトマネージャーの場合、(1)の問題解決行動で十分である。ところが、悪構造問題の場合には、(2)、または、(3)の行動を取るべきである。(2)と(3)を分けるとすれば、(2)は問題ははっきりしているが、原因がはっきりしないような場合に有効である。問題すらはっきりしない場合には(3)の行動が望ましい。

 次に、問題解決に許容できる時間を考えた場合、即決しなくてはならない場合には、(1)の行動を取らざるを得ない。このためには、プロジェクトマネージャーは仮説検証型思考のような思考方法が必要になる。時間的に余裕のある場合には、(2)、または、(3)の問題解決行動を取ることができる。もちろん、他のポイントにおいて、(1)で十分であればあえて(2)や(3)を取る必要はないが、必要があれば(2)や(3)が可能である。

 三番目の解決策の評価が主観か、客観かというポイントに注目すると、主観的な場合には、(1)、または、(2)の問題解決行動を取るべきである。しかし、客観的な評価が必要な場合には、評価のための情報収集や作業が膨大になるケースも少なくない。そのような場合には、チーム全体でチーム問題解決を行い、作業を分担して行う必要がある。

 以上が、問題の性格に注目した場合の望ましい問題解決行動であるが、もちろん、問題の性格だけで行動が決まるわけではない。実際には、まず、プロジェクトマネージャー自身がどれだけの問題解決能力を持っているかが大きな判断要素になる。プロジェクトマネージャーの問題解決能力がメンバーと比較し、相対的に高ければ、ほとんどの問題に対して(1)の行動をとることが望ましい場合もある。

 後のアクティビティで触れるが、この議論はリーダーシップ論でもあるので、その点にも注意しておいてほしい。


◆なぜ、チームによる問題解決が必要か?

 以上より、チームによる問題解決が必要な理由として

 ・悪構造問題に対処する
 ・問題解決策の評価を客観的に行わなければならない

といった理由があることが分かった。

 これらもチームにより問題解決が必要な大きな理由であるが、何よりも大きな理由は、問題解決策の「実行」をスムーズに進めるためである。冒頭に述べたように、プロジェクトの実行中の問題解決は、単に策を考えるだけではなく、実行することまで含まれる。その場合、大切なことは、メンバーによる「自己決定(感)」である。

 つまり、問題解決のプロセスにプロジェクトメンバーが参画し、自分たちの考えで問題解決の方向を決定したと感じる。これが、実際に実行する場合に難しくてもやり遂げようとする大きな動機になる。場合によっては、解決策の実行中のフィードバックにより軌道修正をし、問題解決を進めていくことが必要になるが、そのように考えることができるのも、自分たちで決定した解決策であればこそだ。

 これらの行動をスムーズに進めるために、チーム問題解決は不可欠である。プロジェクトの問題はプロジェクトマネージャーが解決し、必要があればチーム問題解決を行うというスタンスのプロジェクトマネージャーが多いが、むしろ、逆に考えた方がよい。つまり、基本的にプロジェクトの問題はチームで解決するが、事情が許さないものについてはプロジェクトマネージャーが自らの責任で解決するというスタンスだ。

(2004/01/08号より抜粋)


■アクティビティ1:チームによる問題解決の必要性
■アクティビティ2:チームによる問題解決はなぜ失敗するのか
■アクティビティ3:チームによる問題解決の進め方とグループ行動
■アクティビティ4:チームによる問題解決の手法

> 2004/01/18 アクティビティ1:問題解決の定石を覚えよう

◆再び、問題解決とは何か?
◆問題の性格はいろいろある
◆良構造と悪構造
◆問題解決に与えられる時間
◆解決策の有効性の評価
◆プロジェクトマネージャーの問題解決行動
◆なぜ、チームによる問題解決が必要か?


> 2004/01/15 アクティビティ2:問題解決手法としての計画変更管理
◆チーム問題解決の前提
◆共通する失敗要因
◆問題解決プロセスの問題
◆スキルの問題
◆リーダーシップの問題
◆グループシンク


> 2004/01/22 アクティビティ3:短期的な問題解決と永続的な問題解決を併用する
◆グループディスカッションの問題点
◆メンバー全員がアイディアを出す進め方
◆個人が考えをまとめる
◆すべてのアイディアを出す
◆アイディアを再構成する
◆議論をする
◆アイディアを合成する
◆最終案まとめる


> 2004/01/29 アクティビティ4:問題解決型リーダーシップを身につける
◆問題解決のポイントは、解決策の選定
◆ピーターの法則
◆すべてが終わるまで終わりではない
◆意思決定の際の留意点
◆選択手順
◆選ばれたオプションでよいか?
◆メンバーを選択・実施作業に参加させる
◆プロジェクトマネジメントは問題解決である

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