プロセス7:プロジェクトにおける問題解決(基礎編)

◆なぜ、リーダーシップか

 実は、このプロセスは、構成を決める段階でずいぶん、迷った。それは、プロジェクトの問題解決は実際にはプロジェクトマネージャーや、メンバー個人で行われることが多いが、本来は、チームで行われるべきであり、チームによる問題解決をどのように扱うかに迷ったのだ。
 結局、このプロセスでは、基礎として個人の問題解決を扱い、次のプロセスでチームによる問題解決プロセスを扱うことにした。

 そして、個人による問題解決とチームによる問題解決の間にあるのが、プロジェクトマネージャーのリーダーシップであるので、最後にこの問題について解説し、次回のチーム問題解決につないでいくことにする。

 まず、前回までで、問題発見から、問題解決(計画変更)までの基本的な流れを説明した。今回は基本的にはプロジェクトマネージャーが自ら問題解決を行うことを想定している。その場合、問題解決策(変更された計画)を策定しただけでは不十分である。アクティビティ2の評価の中で、評価の指標として実現性が必要だという話をしたが、実際に実現性があるかどうかは、プロジェクトマネージャーのリーダーシップにかかっているといっても過言ではない。


◆リーダーシップの定義

 ここで、リーダーシップという言葉の意味を定義しておく。リーダーシップというのは、例えばITスキル標準などでもなにげなく使われているが、実は正体のはっきりしない、いわゆる「オバケ」言葉である。ここでは、リーダーシップを

 課題達成のために、他者に影響を与えるプロセス

だと定義する。リーダーシップをスキルだと考えている人も多いが、そうは考えない。リーダーシップはプロセスであり、行動であると考える。

 前回までの話を読んで、なるほどと思った人もいれば、問題解決ではないと思った人もいるだろう。前回までの話というのは、正確に言えば「問題解決策」の決定であり、問題解決プロセスとしては完結していない。決定した問題解決策(つまりは新たな計画)を実行してはじめて問題解決プロセスとして完結することになる。

 策定した計画を実行するに当たって、2つの壁がある。一つは計画を承認してもらうことであり、もう一つは、実際に計画通りに作業を進めていくことである。ここで、プロジェクトマネージャーがリーダーシップを発揮しない限り、計画が承認され、実行に移されることはない。言い換えると、プロジェクトマネージャーは、計画を承認させ、新しい計画に従って作業をさせる必要があるのだ。


◆計画を承認させるためのリーダーシップ

 問題解決の中で、計画を承認させるにはどのようなリーダーシップが必要か?これは、計画(問題解決策)の決定前と決定後に分けて考える必要がある。

 決定前には、

・状況を論理的に分析し、論理的に解決策を策定することにより、計画変更をメンバーに納得させる
・BATNAな問題解決を行い、ステークホルダの利害のバランスをとる

の2つのリーダーシップが求められる。BATNAはあまり聞きなれない言葉かもしれないが、いわゆるWin-Winの関係を築けるような代替案の提案であり、問題解決の中で、ステークホルダの満足度のバランスを考えた解を見出すことである。

 このようなリーダーシップを問題解決策の検討の中で発揮し、なおかつ、問題解決策が決定された後には、

・ステークホルダとの交渉のプロセスを通じで、ステークホルダが享受するメリットを明確にし、ステークホルダにおける計画変更承認を支援する
・問題解決プロセス全般に渡る情報の共有を徹底し、メンバーへの説明責任を果たすことにより、メンバーの計画変更に対する心理的抵抗を取り除く

の2つのリーダーシップが必要である。


◆計画策定におけるコンフリクトの解決

 このような計画をめぐるリーダーシップの中で、特にポイントになるのが、コンフリクト(利害関係の対立)の解消行動である。コンフリクトの解消については、「SNACT」という考え方があり、比較的、容易に実行できるので、ぜひ、試してみて
欲しい。

 SNACTというのは、

 ・Speed:コンフリクトを解決する速さ
 ・Numbers:コンフリクトの数
 ・Ambiguity:利害関係のあいまいさ
 ・Complexity:コンフリクトの複雑さ
 ・Timing:ステークホルダに解消策を提案する時期

がコンフリクトの解決の容易さを決めるファクターであり、

 ・Speed:できる限り、速やかに解決する
 ・Numbers:できるだけ数を減らす
 ・Ambiguity:できるだけ利害関係を明確にする
 ・Complexity:できるだけコンフリクトの構図を単純にする
 ・Timing:できるだけ早い時期に提案する

ことにより、コンフリクトの解決が容易になる。つまり、問題解決案の計画承認が容易になる。「SNACT」は問題解決に当たる際に、常に念頭においていた方がよいだろう。


◆プロジェクト作業をスムーズにさせるためのリーダーシップ

 計画でうまくリーダーシップを発揮できれば、作業をさせること自体はそんなに困難なことではない。計画変更を実行するのが難しい一つの理由は、メンバーの気持ちの持ち方の切り替えである。

 計画を変更されることは以下の2つの点で否定的な印象を持つことが多い。

・今までやってきたことが無駄になる
・この先もまた、計画変更が生じるのではないだろうかと疑心暗鬼になる

メンバーの作業の実行をスムーズに進めるためには、この2つの点をきちんとケアしていく必要がある。これらの感情は、論理的に生まれてくるものというより、文字通り感情的な場合が多い。その点をよく理解して、対応する必要がある。

 特に後者の今後も計画変更が生じるのではないかという思いは厄介である。このためには、問題発見から問題解決として計画変更を行うに至ったプロセス、および、計画変更の内容の決定根拠などを明確にすることが最小限必要である。

 また、このようなネガティブな印象を払拭するために、ポジティブフィードバックを多用するとよい。つまり、変更される前の計画の実行に対して、それぞれのメンバーが如何にコミットしていたかを認めるフィードバックを、個別に行っていく。さすがに、50人以上にメンバーがいるようなプロジェクトになると、プロジェクトマネージャー一人で行うのは難しいが、そのような場合には、まず、グループリーダーに対してポジディブフィードバックを行い、その中で、とのリーダーの受け持つグループに対して、ポジティブなフィードバックを行う期待を示せばよい。「あなたが、よく貢献してくれたのと同じように、あなたのグループのメンバーもよく貢献してくれた。同じ調子で頼むよということを、あなたの方からよく伝えて欲しい」といった感じだ。

 さらに、可能な限り、チームとしてそのような問題解決を行い、プロジェクトの参加メンバー全員が問題解決プロセスの当事者になることが重要なポイントになる。このような形の問題解決を行うには、チーム問題解決の手法が必要になる。そこで、次のプロセス(プロセス8)では、チーム問題解決について解説してみたい。

(2003/12/25号より抜粋)

■アクティビティ1:問題解決の定石を覚えよう
■アクティビティ2:問題解決手法としての計画変更管理
■アクティビティ3:短期的な問題解決と永続的な問題解決を併用する
■アクティビティ4:問題解決型リーダーシップを身につける

> 2003/12/04 アクティビティ1:問題解決の定石を覚えよう

◆問題って何?
◆計画はあるべき姿、問題とはあるべき姿とのギャップ
◆問題解決の手順
◆問題管理のために何をするか


> 2003/12/11 アクティビティ2:問題解決手法としての計画変更管理
◆問題解決の進め方
◆問題の原因を追究する
◆解決策の設定と評価
◆計画変更

> 2003/12/18 アクティビティ3:短期的な問題解決と永続的な問題解決を併用する
◆原因は一つか?
◆「プロジェクト」の問題解決の考え方
◆課題設定
◆プロジェクトマネージャーの判断
◆時間軸の問題

> 2003/12/25 アクティビティ4:問題解決型リーダーシップを身につける
◆なぜ、リーダーシップか
◆リーダーシップの定義
◆計画を承認させるためのリーダーシップ
◆計画策定におけるコンフリクトの解決
◆プロジェクト作業をスムーズにさせるためのリーダーシップ

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