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第298回(2012.11.06)
プロジェクトにおける真のチームの効用


◆プロジェクトにおけるチームとは何か

戦略ノート296で、

【戦略ノート296】日本人は真のチームを作れない

という話をした。この記事に、個人的にコメントをもらったので、今回はこの話をもう少し、深く考えてみたい。貰ったコメントは、そもそも、プロジェクトマネジメントにはチームマネジメントはあるが、チームであることを前提にしてしないのではないかというコメントだ。

最初に考えなくてはならないのは、そもそも、プロジェクトにおけるチームというのは何だという話である。もちろん、いろいろな側面があるが、基本的には広い意味での問題解決を行うものだ。

プロジェクトはメンバーを集めてグループを作る。そして、プロジェクトマネジメント計画として、WBSとOBSを作り、ワークパッケージ(要素成果物)ごとに担当(一般には複数)を決める。さらに、RAMを作って、担当の中での責任分担を明確にする。

従って、プロジェクトがうまくいっていれば、実はチームというのは、あまり、役に立たない。もちろん、問題解決以外に、チームワークがよくなれば生産性が向上するとか、モチベーションがあがるとか、諸々のメリットがあるので、まったくの無駄というわけではないことは言うまでもない。


◆問題を解決しながら前に進むのがプロジェクト

しかし、問題の起こらないプロジェクトなどない。むしろ、問題を解決すれば前に進むのがプロジェクトだといってもよい。したがって、問題解決におけるチームというのは、極めて重要な意味を持っている。

日本人は専門性に対して謙虚である。自分の専門以外のことに対しては、専門家の言い分を無条件に信じるし、逆に、自分の専門に対して口出しされることを好まない。
従って、異なる専門家が混じったチームで仕事をすることを好まない。

日本の製造業、特に自動車産業の強みに、部品の「摺合せ」というやり方がある。できた部品をうまく組み合わせ、性能の高い製品をつくるという素晴らしい方法である
が、摺合せも裏を返せば、チームとして仕事をしていないことの証である。最初から、いろいろな専門家が一緒に仕事をし、ゴールを共有して、意見交換をしながら、部品から作っていけば、摺合せは必要ない。逆に、摺合せではできないことができる可能性がある。

ポイントはここだ。グループで仕事をする場合、多様性には限界がある。自分たちの問題を解決するために他の分野の知恵は入ってこない。こういう例がある。


◆システム的な問題解決のためにはチームが不可欠

SGIのレゴ・システム(ワークステーション)の開発で発生したASICのバグ(予想外の処理遅れ)によりシステムのハングが起こった。ハードウェアの設計チームは問題になったチップを4週間の時間と20万ドルの費用をかけて、再設計した。ところが、再設計したチップはまた、別の問題を引き起こす。ここで、話はハードウェアの設計チームでは納まらなくなり、プロジェクト全体の問題になった。ソフトウェアのチームから、実行遅延し、タイミングを取るというアイデアがでてきて、当初の問題は解決した。

もし、ハードウェアとソフトウェアがチームだったらどうなっていただろう。4週間と20万ドルを失うことはなかったに違いない。

この例は非常に単純で、トラブルにおける問題解決という局所的な例であるが、ここから学びたいことは、ハード、ソフトという範囲ではなく、システム的な解決をしようと思えば、チームが不可欠だということだ。


◆サシミとスクラム

プロジェクトの実施においては、グループではなく、チームを作ることが重要である。トラブルだけではなく、設計や、試作などの問題解決においても同様の効果が期待できる。設計などに別の視点が入ることにより、よりよい成果物を作ることができる。

チームは、上の例のように技術的な多様性を実現するチームがよい場合もあれば、工程の多様性を持たせることがよい場合もある。それは、プロジェクトでどのような問題が出てくるかを想定して決めるとよい。

たとえば、ITのように生産が目的のプロジェクトであれば、工程の多様性のあるチームを作るのがよいだろう。上流工程に、製造の視点が入ることになり、製造の際に、より、ユーザの要求にこたえやすい設計が可能になる。日本の製造業の特技であった「サシミ」だ。

こういう書き方をすると、専門的な知識のコラボレーションがチームの目的だという誤解を与えるかもしれない。もちろん、そこにも目的の一つはあるが、それだけではない。むしろ、専門家の専門外の分野での意見が重要である。もっと重要なことは、専門家が専門の垣根をとって、問題解決に当たることである。チームとしてこういう状態ができれば、サシミが「スクラム」に変わり、イノベーションが起こりやすくなる。

こういうプロジェクトは強いし、成果物としてシステムを生み出すことができるのだ。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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