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第295回(2012.10.02)
変わる!ステークホルダーマネジメント

◆変わるプロジェクトの成功の定義

この10年間くらいの間に、プロジェクトの成功の定義が変わってきた。改めていうまでもないが、プロジェクトは上位組織から与えられたQCDの制約の中で、求められる成果物を実現する活動であり、これができればプロジェクトは成功したと言える。
このため、プロジェクトマネジメントはQCDの制約をクリアしながら、定めたスコープを実現すべく、プロジェクトを進めていく活動として位置付けられる。

ところが、最近ではQCDの制約をクリアできればプロジェクトは成功したとは考えられなくなってきた。成果物が生み出す価値が問題にされるようになってきた。

この背景にはプロジェクトを取り巻く環境はプロジェクト期間中は変わらないという前提がある。たとえば、ある商品を開発するのに、競合の動向や、技術動向、ビジネスの動向などは基本的にその期間は変わらない。つまり、プロジェクトを開始する時点と、製品の開発が終了した時点で変わらない。したがって、計画を立ててしまえば、その計画通りにプロジェクトを進めれば価値は保証されるという前提が成り立たなくなっていることがある(実際にその商品が売れるかどうかは別の問題である。価値とはその商品が持つポテンシャルである)。

ところが、現実にはそうはいかなくなってきた。開発リードタイムの間に市場に状況がガラッと変わってしまうようなケースは珍しくなくなった。


◆スコープ本位から価値本位へ

そうなってくると、計画の意味合いも変わってくる。折角、プロジェクトで計画通りに開発を行っても、成果物に当初計画していただけの価値はなくなる。

価値を維持しようとすれば、計画を頻繁に見直し、計画を変えることによって、価値を保証することが求められる。言い換えると、スコープ本位から、価値本位になる。

もちろん、ここで制約は無視してもいいという話にはならない。価値とQCDの両立をさせるのがプロジェクトマネジメントの役割ということになる。

さて、プロジェクトの成功の定義がこのように変わってくると、プロジェクトマネジメントはどのように変わっていくのだろうか。これは、価値とCQDはそのような違いがあるかという話でもある。


◆ステークホルダーマネジメントの変化

もっとも大きな違いが出てくるのは、ステークホルダーの関わり方である。

価値の実現はそもそも、ステークホルダーの領域の話である。顧客価値はもちろんであるが、ROIのような経済的な価値についても、プロジェクトが実現できるものではない。たとえば、製品開発のプロジェクトにおいて、プロジェクトの成果物の価値を決めるのは、マーケティングであったり、チャネルであったりする。

この意味で、価値が成功基準に含まれるプロジェクトでは、ステークホルダーとの関係を変えざるを得ない。従来のように、ステークホルダーをプロジェクトチームの外部の存在として、影響を小さくし、プロジェクトの思い通りにできるような状況を作っていくようなステークホルダーマネジメントでは不十分である。

ステークホルダーをプロジェクトの内にいる存在として、プロジェクトの意思決定に関与してもらう必要がある。特に、成果物の仕様(プロダクトスコープ)について、価値という観点から意思決定を求めていく必要がある。ある意味で成果物構築の作業を担うメンバーよりも重要な存在だといえる。


◆価値実現のベースラインが必要

プロジェクトは総体として価値本位になる。その際、マイルストーンの多くは、スコープで定義されるのではなく、価値実現で定義されるようになるだろう。そして、マイルストーンに対して、ステークホルダーが強く関与するようになる。言い換えると、プロジェクトはステークホルダーを中心に動かしていく必要が出てくる。もちろん、QCDの制約がなくなるわけでないので、プロジェクトマネジメントは価値のベースラインと、QCDのベースラインを計画し、実現していかなくてはならない。そして、スコープはマネジメントの手段になる。

このようなプロジェクトマネジメントをすでに行っているのがアジャイルプロジェクトマネジメントである。アジャイルでは、ステークホルダーをプロジェクト内に入れ、スコープと価値の関係性の判断をステークホルダーに行ってもらう。アジャイルに限らず、ローリングウェーブのプロジェクト進行では、このようなステークホルダーマネジメントが求められるようになってくる。


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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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