◆プロジェクト成果の質を上げる
プロジェクトの成果について、よく言われる法則がある。それは、
プロジェクトの成果の質は最終的な意思決定者が関わる程度に比例する
という法則である。多くの人が共感している法則だ。
ここでいう最終的な意思決定者とは誰だろう。真っ先に思いつくのは、経営トップであるが、経営トップだけだとは限らない。意思決定の権限を持つ管理者、いわゆるプロジェクトスポンサーはすべて該当する。むしろ、現実的にはプロジェクトスポンサーであることが現実的である。
サントリーで、情報システム部長、事業企画部長、工場長、商品開発研究所長、事業本部長を歴任され、役員にまでなられた、橋本忠夫さんは、
プロジェクトスポンサーが誰かわからないプロジェクトは失敗の確率が高い
と言われているが、この指摘も同じ指摘だと考えることができる。プロジェクトスポンサーが明確でないということは、最終的な意思決定者が経営トップであることになる。このようなプロジェクトは失敗する。
◆プロジェクトスポンサーが関わることの重要性
では、なぜ、成果の質と最終意思決定者の関わる程度が関係するのだろうか?これには2つの理由があるように思える。
最初の理由は、意思決定者との対話によって、プロジェクトのメンバーの発想が解放されることだ。
意思決定者があまり関わらないと、意識は最終責任者の考えに行ってしまい、いかに意思決定者を納得させるかという問題のすり替えが起こる。頻繁な対話を繰り返すことにより、意思決定者と意見を交わしながら、創造性を引き出され、プロジェクトを進めていくことができる。
二つ目の理由はプロジェクトの進め方に関するもので、意思決定者からのフィードバックが速やかに行われるためだ。プロジェクトが行った意思決定に対して、最終の意思決定者のフィードバックの時間がスケジュールを圧迫するケースは少なくない。ゲートチェックのシステムがなかなか機能しないのはこの理由によることが多い。だからといって、フィードバックを形骸化させることがあってはならない。意思決定者がプロジェクトの関わる程度が大きくなれば、即時にフィードバックをすることができる。
◆権限移譲の是非
さて、このような前提で考えたときに、権限委譲をすることにより、意思決定を現場に降ろすという考え方はあるのだろうか。たとえば、製品仕様に関して、プロジェクトマネジャーに全面的に権限委譲し、プロジェクトスポンサーのレビューを受けないとすると何が起こるのだろうか?
権限移譲によって意思決定者がプロジェクトマネジャーになったことにより、意思決定のスピードは上がり、成果物の「品質」は上がるかもしれないが、残念ながら成果の質は下がる可能性が高い。ここにプロジェクトと開発の違いがある。
開発であれば、成果の質は品質に依存する。逆にいえば、開発の範囲しか権限委譲していないのだからうまくいく。
ところがプロジェクトの場合、品質以外にも成果の質に影響を与える要素が多い。たとえば、ターゲットの顧客が適切か、どれだけの収益を生み出すか、戦略に貢献できるかなどだ。これらを現場で判断するのは難しい。
つまり、開発は現場で行うものであるが、プロジェクトは組織で行うものだ。そこに、
プロジェクトの成果の質は最終的な意思決定者が関わる程度に比例する
という法則の意味がある。
◆プロジェクトスポンサーへの働きかけ
では、プロジェクトはスポンサーに対してどのような働きかけをすれば関わって貰えるのだろうか?ポイントは2つあるように思う。
一つは、範囲を限定することだ。一人のスポンサーが同時期に30のプロジェクトを持っているとすれば、すべてに全面的に関わることはできない。その中で、プロジェクトの意思として関わってほしい部分を明確にする。たとえば、成果物の品質はプロジェクトでカバーし、顧客要求との整合性の実現を支援してもらうといった話だ。
プロジェクトには2人の上位管理者がいる。プロジェクトマネジメントをつかさどる上位管理者とビジネスをつかさどる上位管理者である。プロジェクトマネジメントの部分についてはPMOに支援を依頼し、ビジネスの部分をスポンサーから支援を受けるという方法が現実的だろう。ただし、日本の企業はスポンサーがリソースマネジャーになっているケースが多いので、そこは調整する必要がある。
いずれにしても、プロジェクトとしての成果の質を求める限り、いかにスポンサーを巻き込めるかがポイントになるということは認識しておく必要がある。
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