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第282回(2012.03.27)
プレイングマネジャーとしてのプロジェクトマネジャー
◆新しい管理職のあり方

慶應大学大学院の教授、高橋俊介さんが、新しい管理職のあり方という提言をしている。それは、中堅(45歳くらい)を迎えるプロフェッショナルに、管理職と同じ権限を与え、その活動を支援する。そして、必要に応じて、管理職の役割を分解して、負わせる。たとえば、若手の指導育成の役割を求める。一方で、管理職の仕事の中で、メンタルヘルス、コンプライアンス、ダイバーシティ、キャリア支援などについては、社内プロフェッショナルに任せるといったものだ。(「プロフェッショナルの働き方」、PHP出版、2012)

そして、組織としてみれば、意欲のある中堅社員に権限を与え、プロフェッショナルに育てていくマネジャーの存在。この2つが両輪となると指摘する。

このモデルは、まさに(組織的)プロジェクトマネジメントのあるべき姿を示している。マネジャーはプロジェクトスポンサー。プロフェッショナルなプレイングマネジャーがプロジェクトマネジャーである。

◆プロジェクトマネジャーはなぜ、プロフェッショナル化しないのか

プロジェクトマネジャーには、プロジェクトマネジャーを腰かけの仕事だと考えている人が意外と多い。プロジェクトマネジャーはつらいが、マネジャーになるために頑張る。マネジャーにはなりたくないと思っている人も、プロジェクトマネジャーをずっとやりたいと思っている人は多くない。

たとえば、IT業界では10年近く前から官が、ITスキル標準という施策を打ち出し、プロジェクトマネジャーも含むすべての職種のプロフェッショナル化を目論んでいる。底上げという意味では確実に施策効果が上がっていると思われるが、プロジェクトマネジャーに関してはプロフェッショナル化の効果はもう一つだ。理由は二つあるのではないかと思う。

一つはプロジェクトマネジャーに十分な権限が与えられていないこと。ITスキル標準の記述をみれば分かるが、最上位の2レベルに関しては管理職(おそらく、シニアマネジャー)、あるいは執行役員相当の権限を与えない限り、成り立たない。ところが、現実にはそのような運用はされない。

その理由になっているのが、もう一つの理由である。それは、中根千枝先生のいう「タテ社会」だからだ。中根先生は、「タテ社会の人間関係」の中で

「日本社会は自己完結的なタテ社会なので、出世しないと非常にみじめな思いをしなくてはならなくなる」

ことを指摘している。ちなみに、中根先生の「タテ社会の人間関係」は1969年の本であるが、今も、この指摘は本質的に変わっていない。なぜ、みじめになるかというと、出世しない限り、権限を持たないからだ。

逆にみれば、管理職は若いときから苦労してやっと手に入れたタテ社会での序列を失いたくない。だから、権限を委譲しようなどとは思わない。

また、欧米はタテ社会のように見えるが、実はヨコ社会が階層化した組織になっていると指摘している。ヨコ社会だと自分と同じクラスの結びつきが強く、結びつきがパワーを生み出し、みじめな思いをすることはない。


◆プロジェクトはヨコ社会の手法

ここで頭に留めておきたいことは、プロジェクトは中根先生のいうところの、ヨコ社会を前提にしていることだ。タテ社会でプロジェクトをやるとどうなるかは、典型的な日本企業をみれば分かるように、プロジェクトはタテ社会の末端の存在になる。その原因の一つが権限の問題である。権限を委譲しているようにみえて、タテ社会なので実は委譲されていない(ここでは議論しないが、バリューゾーンにもっとも近いプロジェクトがそのような存在になるのは別の観点からもゆゆしき問題である)。

たとえば、要員配置の問題を考えてみてほしい。ヨコ社会であれば、プロジェクトマネジャーというクラスの結びつきがあるので、プロジェクト間で調整すればよいことだ。ところが、タテ社会であればそうはいかない。別のプロジェクトのメンバーを引っ張りたいときには、相手のプロジェクトのスポンサー、自分のプロジェクトのスポンサーの了解を得なくてはならない。つまり、プロジェクトマネジャーに全く権限はない。

プロジェクトにおいて、本当に委譲できない権限は予算権限だけだと思われる。予算は経営業績に直結するからだ。ところが、タテ社会では、予算権限を委譲しているケースは珍しくない。自己完結していれば、部門の予算がひっ迫してくれば、プロジェクトコストに手を付ける。その意味で運命共同体で、逆に予算に余裕があればコストオーバーは実質的にプロジェクトマネジャーが判断しても構わないという発想になる(もちろん、ガバナンス上の問題があるので、手続きは必要だが)。

このように考えると、タテ社会の中では、プロジェクトマネジャーの制度は矛盾に満ちている。だからといって、急速にヨコ社会になるとは思えない。


◆プレイングマネジャーとしてのプロジェクトマネジャー

そこで、注目されるのが、高橋さんのいう、新しい管理職、あるいは、プレイングマネジャーとしてのプロジェクトマネジャーである。

マネジャーと同等の権限を与える。そして、プロジェクトマネジメントだけではなく、組織の問題に対して、マネジャーと同等の責任を負う。ただし、一人で背負い込むのは無理があるので、プロジェクトスポンサーや経営スタッフ部門のプロフェッショナルが支援する。

そのようなプロジェクトの新しい体制ができるのではなかろうか?

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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