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第272回(2012.01.17)
なぜ、プロジェクトマネジャーになりたがらないのか?

◆なぜ、プロジェクトマネジャーになりたがらないのか

プロジェクトマネジャーの育成の課題の中に、なぜ、プロジェクトマネジャーになりたがらないのかという問題がある。よく指摘されるのは

・先輩のプロジェクトマネジャーの仕事を見ていて報われない
・十分なインセンティブ制度がない
・専門家であることへのこだわりがある
・マネジャーの仕事にやりがいを感じない

といったことだ。多くの組織は、こういった指摘を解消しようといろいろな工夫をしている。が、あまり成果は出ていないようだ。どこの企業にいっても、みんながプロジェクトマネジャーになりたがっているので案件がなくて困っているという話は聞かない。案件数が減っても相変わらず、プロジェクトマネジャーが足らないといっている。

いつか、この記事を書こうと思っていたのだが、1000号で、これからは、メルマガの視座を

「プロフェッショナルとしてのプロジェクトマネジャー」

から、

「(ビジネス)リーダーとしてのプロジェクトマネジャー」

に移していると宣言したので、そろそろ、立ち位置をはっきりとしておこうと思う。


◆プロジェクトマネジャーではなく、リーダーになりたがらない

われわれもプロジェクトリーダーも含めて、リーダー育成に関わっているが、この認識少し変える必要があるのではないかと考えている。確かに、プロジェクトマネジャーにインタビューをして、なぜ、プロジェクトマネジャーになりたくないかと聞くとこんな答えが返ってくる。ただ、問題の本質は別のところにあるのではないかという気がしている。

まず、これらの答えに共通するのは、「他責」だということだ。もう、これだけでこれらの答えの信頼性は差し引いて考える必要がある。もっと、根本的な理由だと思うのは、プロジェクトマネジャー云々ではなく、

リーダーになりたくない

という心情があることだ。プロジェクトマネジャーに限らず、マネジャーに対しても実は「報われない」という感覚を持つ人は少なくない。

こんな答えをしたら、大抵の企業ではかなり、大きな×がつくと思う。リーダーとしてトップに立ち、引っ張っていくということを好まない。現場主義というと聞こえはよいが、要するに現場で一生懸命やるが、トップに立つのは勘弁してほしいという人が圧倒的に多い。

◆専門性と協調性の共存

このような態度をとる人が多い背景は、出る杭は打たれるとか、全体の和を大切にするとかいろいろとあると思うが、その中の一つに成功体験があるのではないかと思う。戦後の高度成長は、リーダーシップによるものではない。確かに、何人か、突出したリーダーがいたとは思うが、現実的な推進力になったものは、一般的には共存しにくい専門性と協調性の共存である。個々が専門性を高め、協調すれば、多くの問題は何とかなるとみんなが知っていた。これ自体はすごいことだと思う。

ただし、このようなやり方が通用したのは、キャッチアップだったからだ。言い換えると欧米の先進国に追いつけ、追い越せというビジョンが社会的なコンセンサスとしてあった。この20年ほど、この方法が通用しなくなってきたのは、ビジョンがなくなったからだ。もはや、だれかがビジョンを示さない限り、ビジョンを持つことができない。だから、リーダー待望論がある。

しかし、リーダーになってビジョンを示そうという人材はあまり出てこない。政治の世界でいえば、橋本徹大阪市長のような人材をみんなが待っている。その橋本市長が面白いことをやっているなと思ったのは、区長の公募である。現実的なご利益もいろいろあるが、要は大阪市という組織のリーダーを公募したわけだ。マネジメントには弊害が出てくることはあると思うが、リーダーシップを求める方法としては面白い試みだと思う。1200人を超える応募があったというので、日本人のリーダーシップも捨てたものではないのかもしれない。


◆現実的ではないからリーダー

プロジェクトというレベルでも同じだ。プロジェクトのビジョンを打ち出し、それを実現していくリーダーが求められている。今のプロジェクトを見ていて、絶対に変えなくてはならないと思うのは、プロジェクトの目的が与えられるとか平気でいっていることだ。

・顧客はこんなことをしたい
・上位組織は、こんなことを望んでいる

ここまではよい。問題はだから、プロジェクトはどうするかだ。

・要求の優先順位

を踏まえて、自分たちは何をするのかがビジョンである。もっといえば、リーダーであれば、まず、自分たちのやりたいことがあってもよい。その中で、顧客や組織の要求を位置づけて応えていく。

こんなことをやりたいと思う人が少ないのだ。リーダーになりたくない人が決まっていう言葉がある。そんなことは「現実的な」発想ではない」。

現実的ではないから、リーダーが必要なのだ。軽々に現実的という言葉を使うべきではない。


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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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