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第267回(2011.12.06)
プロジェクトイニシエーター考(1)〜イニシエータという役割の価値を見直そう

◆プロジェクトイニシエータとは

PMBOK(R)の5つのプロセスの最初「立上げプロセス群」と呼ばれるプロセスの英語名称は「initiating process」である。そして、プロジェクトを立ち上げる人をプロジェクトイニシエータと呼ぶ。

プロジェクトマネジメント的な説明としては、

(プロジェクト憲章を)プロジェクトのイニシエーターまたはスポンサーが承認し発行することで、プロジェクト・マネジャーは、人・モノ・金の資源をプロジェクトのために使う権限を持つことができる。

という話になる。プロジェクトマネジメントは現場を中心にものを見ているのでこの表現は間違いではないし、ガバナンス的にも大方の組織(大企業)ではこのような仕組みになっている。少なくともプロジェクトマネジメントの中ではあまり重視されておらず、スポットも当たっていない。


◆そもそも、イニシエータとは

ところで、イニシエータという言葉はプロマネ用語ではなく、一般用語である。ビジネスで使われる場合には、

率先して働く人
創始者
流れを創る人

といったニュアンスの言葉である。「アイデアの99%」という本を書いたクリエイター支援ビジネスを行っているスコット・ベルスキによると、イニシエータは

情熱を持ち、アイデアを出し、それを行動に移す人

という定義をしている。


◆OJTで5千万円の仕事を取ってきた新入社員

このような定義を考えると、本当にプロジェクト憲章ができたところで、イニシエータはお役御免なのかという疑問が出てくる。上に書いたような組織論とか、ガバナンスを無視して話をすればイニシエータはそんな仕事ではない。立場的にもスポンサーとは異なり、どのような職位の人がやっても構わない。

3ヶ月ほど前だが、面白い出来事に遭遇した。僕の知人が部長をしているIT企業のある部で、営業職の新入社員がOJTで5千万の仕事を取ってきた。宝くじに当たったようなものだ。部長はいい経験なので、自分が直に面倒を見ることにして、そのまま続けさせたという。新入社員は張り切り、結構、周囲は大変だったらしい。このようなケースでは、新入社員がイニシエーターである。受注を許可する権限は決まっていても、注文を取ってくる権限を決めている企業はあまりないだろう。

これに対して、スポンサーはプロジェクトに権限を与える立場なので、職位上の制約がある。


◆プロジェクトイニシエータには自分の想いの実現を見届ける義務と権利がある

プロジェクトイニシエータというのは本来そういう仕事である。プロジェクトマネジャーにプロジェクトを渡すというのも正確ではない。プロジェクトスポンサーがプロジェクトの期間を通じてプロジェクトを管理するのと同じく、プロジェクトイニシエータはプロジェクトの最後まで自分がプロジェクトを立ち上げた想いが実現されているかどうかをきちんとチェックする立場にある。

IT企業であれば、現実には、プロジェクトイニシエータは営業職がなることが多い。そしてプロジェクトが立ち上がったのちには、組織職としてかかわっていく。立場的には、契約の完遂の責任を持つからだ。

ただ、それはそれとして、イニシエータとしてプロジェクトの途中まで関わってよいのだと思う。確かに、プロジェクト憲章ができたところが、行動に移したという意味では一つのタイミングである。後は、プロジェクト憲章で与えられた条件に従って計画を作って、計画通りにプロジェクトを進めていけばよいからだ。

だが、このような考えはあまり現実的ではない。プロジェクトマネジャーにプロジェクトを立ち上げた想いが伝わらないことが多いからだ。そこで、大丈夫だと思うところまで、プロジェクトを引っ張っていく。

そして、大丈夫だと思うところで、身を引く。最低でも、プロジェクト計画をつくるところまでは関わる必要があると思うし、場合によってはプロジェクトの最後まで関わってもよいと思う。


◆イニシエータという役割の価値を見直そう

プロジェクトスポンサーは組織的管理、つまり、予算や品質などのプロジェクト目標がきちんとクリアされることの監理責任を負い、プロジェクト目的の達成についてはプロジェクトイニシエータが責任を負うという体制があってもよいわけだ。

プロジェクトマネジャーになり手がいないとか、プロジェクトをやっても面白くないというのは、イニシエータの不在によることが多い。そこに、もう一度、イニシエータという役割を重視してみる価値がある。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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