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第264回(2011.08.23)
主任・係長のプロジェクトリーダー抜擢で問われるもの

◆主体性を期待する部課長と、補佐意識の主任・係長のギャップ

濱田秀彦さんという方の書かれた「主任・係長の教科書」という本を読んでいたら、面白いことが書いてあった。係長・主任とその上司である課長や部長との間には、いくつかの意識のギャップがあるという。

一つ目のギャップは、主任・係長は「上司をフォローし」というが、上司は「リーダーとして先頭に立ち、周囲を引っ張る」ことを期待している。

二つ目のギャップは、主任・係長は「期待に応えて」というが、上司は「自ら問題を発見する」ことを期待していること。

三つ目のギャップは、主任・係長は「育成をサポートする」というが、上司は「指導者として育成する」ことを期待している。

一言でいえば、上司は主体性を期待しているのに、主任・係長は上司の補佐で動く役割になろうとしている。



◆上司の丸投げと嘆くプロジェクトマネジャー

IT業界などで、主任・係長クラスがプロジェクトマネジャーになると、かなりの確率で「丸投げ」という不満が出てくる。ずっと意味が分からなかったのだが、この本を読んでみたら、なるほどと思った。

たとえば、プロジェクトリーダーが上司に対して持つ不満の一つにメンバーの配置に関するものがある。

事情を聴いてみると、まず、指名に応えてくれないという不満。これは、不満を持つ方がおかしい。メンバーの配置ですべてのプロジェクトマネジャーの指名に応えることは不可能である。まあ、これは申し出る方も、ダメ元の部分があるので、よしとしよう。

二番目は、人が足らないといえば、適切な人を当てがってくれるという期待を裏切られたという不満。上司のためにやっているのに、要員もよこさないのはけしからんというわけだ。

要するにプロジェクトリーダーと言いながら、上司の「名代」という意識が極めて強いのだ。実際に、あるIT企業で、三人に一人くらいのプロジェクトマネジャーが、「本来はプロジェクトマネジャーは課長がすべき仕事である。しかし、課長一人では到底、課のプロジェクトをすべて管理はできないので、我々がプロジェクトマネジャーをやらされている」と言っていた企業がある。そのときは、かなりびっくりしたが、確かに、そう思っている係長級プロジェクトリーダーはどこの企業でも少なからずいる。


◆プロジェクトリーダーへの本当の期待

主任・係長がプロジェクトリーダーになるとそのように思いたくなる理由はわからないでもない。主任・係長は管理職ではない。したがって、バジェットは持たないし、人事管理をする部下も持たない(育成対象の部下らしき人は持つことがある)。

彼らは、いわゆる監督職であり、管理職の補佐として一般職の業務を監督する立場である。

しかし、これはあくまでも建前というか、公式のルールであり、上司が何を期待しているかは別の問題である。特にプロジェクトリーダーには権限委譲をしているのだから、なぜ、一般的な主任・係長に対してより一層、リーダーとしてふるまうことを期待している。

濱田さんが書いているように、主任・係長のうち、課長になるのは4人に1人である。課長になれる人は、上司の期待に応えられる人である。職務上の補佐役を恙無くこなしても、期待に応えられない人は課長になれない。


◆部下にプロジェクトリーダーを命じる訳

そう考えると、逆に部課長が主任・係長にプロジェクトリーダーをさせる意味もよく分かる。平たくいえば、課長になってもやれるかどうかを、プロジェクトという疑似的な場を与えて、観察しているのだ。そして、うまくやると実績になり、課長に引き上げる材料になる。

ところがプロジェクトリーダーは、その認識が薄い。上のギャップの通りだ。主体的に動こうとしない。このようなプロジェクト運営しかできないような主任・係長は四分の三になる運命にある。


◆プロジェクトリーダーの心構え

プロジェクトリーダーに任命されたら、それは、課長への昇進試験だと思って、

「リーダーとして先頭に立ち、メンバーを引っ張る」
「自ら問題を発見し、プロジェクトに課題として取り込む」
「指導者としてメンバーを育成する」

の3つの期待に応えるとよい。間違っても、上司が責任を取りたくないので、丸投げしているとは考えない。仮に、できの悪い上司が、そのような意図で丸投げをしているとしても、それを逆手にとって成果を上げることに全力を尽くす。

この意識を変えるだけで、プロジェクトマネジメントは大きく変わるだろう。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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