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第251回(2011.04.19)
プロジェクトリーダーの役割と責任

◆はじめに

春先は、新しいプロジェクトが増え、また、人事異動などの影響で新任のプロジェクトリーダーが増える時期でもある。今回の戦略ノートは、基本に立ち返り、プロジェクトリーダーの役割について考えてみたい。

まず、プロジェクトメンバーとプロジェクトリーダーはどう違うのかについて、いくつかの視点から考えてみよう。


◆プロジェクトリーダーとメンバーの違い(1)〜問題解決

まず、問題になるのは問題解決の方向性である。プロジェクトメンバーというのは、エレガントさにこだわる傾向がある。エレガントさこそ、自分自身の専門性の証明だと考える。その中からいろいろな進歩が生まれるので、いいことである。しかし、プロジェクトリーダーがこだわるべきは、「実用性」である。プロジェクトリーダーにとっては、エレガントであることよりも、確実にできることの方が重要である。


◆プロジェクトリーダーとメンバーの違い(2)〜専門性

次に、専門性である。メンバーは何かのスペシャリストであるべきだが、プロジェクトリーダーはジェネラリストでなくてはならない。プロジェクトリーダーに専門性が必要かどうかは難しい問題である。よく誤解されるのは、ジェネラリストは専門性を持たないわけではないことだ。ジェネラリストとは広範囲の知識を持ち、業務を推進していける人である。T型人材、π型人材というのをスペシャリストのあり方として論じることが多いが、見方を変えると、ジェネラリストのあり方でもある。

ジェネラリストであるためには、専門性は有用である。しかし、スペシャリストであることを求められるわけではない。高い専門性が有用な理由は、アナロジーが効くためである。「一芸に秀でる者は多芸に通ず」という言葉があるが、これだ。逆にいえば、中途半端な専門性であればない方がよい。あれば、その分野は口出しをしたくなるが、多芸に通じるわけではないからだ。

メンバーより高い専門性を使ったプロジェクト作業の遂行(たとえば、設計レビューなど)がプロジェクトリーダーの仕事ではないことは肝に銘じておくべきだ。後にも述べるが、プロジェクト作業のフォローアップが忙しくて、上位組織への報告が遅れたなどというのは、プロジェクトリーダーとして論外である。

忘れてはならないことは、プロジェクトリーダーの仕事は、モノや技術を扱うことではなく、人を扱うことである。


◆プロジェクトリーダーとメンバーの違い(3)〜評価

次は評価について。

プロジェクトメンバーは個々の努力が評価される。しかし、プロジェクトリーダーはチームの努力でしか評価されない。このことを忘れてはならない。

「残念なプロジェクトマネジャー」は、何か問題が発生したときに自分のせいではなく、メンバー(のスキル)のせいだという傾向がある。本人は責任を転嫁しているつもりだろうが、プロジェクトリーダーの上司が有能であれば、チームとしての成果がでないのは、メンバーの問題ではなく、リーダーの問題だと評価する。

つまり、プロジェクトメンバーは個人の目標を目指して仕事をすればよいが、プロジェクトリーダーが追及しなくてはならないのはプロジェクトやチームのゴールである。
この点だけを考えてみても、自分が専門性のある分野で問題が起こったときに、問題に介入することがナンセンスであることがよくわかるだろう。

これらの役割だけを考えてみても、プロジェクトメンバーからプロジェクトリーダーに変わることは難しいことである。人によっては、専門的な実務を採らないことに抵抗をする。しかし、中途半端に行うことは自身のためにも、メンバーのためにもならない。

プロジェクトリーダーになったからには、自分の時間の5〜10%を個々のメンバーのために割くくらいのつもりで行うとよい。


◆プロジェクトリーダーのレスポンシビリティ(1)〜コミュニケーション

次にプロジェクトリーダーのレスポンシビリティ(実行責任)について考えてみよう。プロジェクトでは、メンバーの一人一人にレスポンシビリティが割り当てられるが、プロジェクトリーダーも例外ではない。ただし、プロジェクトリーダーのレスポンシビリティはマネジメントにかかわるものである。

プロジェクトリーダーのもっとも重要なレスポンシビリティは、情報管理である。つまり、プロジェクトの状況に関する情報の収集、情報の配布、パフォーマンスの報告などだ。

プロジェクトマネジャーがコミュニケーションにおいて意識すべきことは、パイプになることであって、バリアになることではないことである。

ここで重要なことはパイプという意味である。パイプになるとは、組織からの情報をメンバーにそのまま流したり、あるいは、メンバーの要望を組織にそのまま伝えるこ
とではない。

優れたプロジェクトリーダーは、情報の要約をしたり、フィルタリングをしたりするものである。また、プロジェクトスポンサーやチームメンバーの間で情報の翻訳をするものだ。

また、プロジェクトリーダーはミーティングマネジメントに注力しなくてはならない。
会議の時間は、プロジェクト全体の成否を支配すると考え、会議の時間を可能な限り短くし、会議の成果を最大化しなくてはならない。このスキルとは、コミュニケーション計画を作り、メンバーが効率的なプレゼンテーションを行えるようにすることである。


◆プロジェクトリーダーのレスポンシビリティ(2)〜メンバーの動機づけ

二つ目のレスポンシビリティは、メンバーの動機付けである。優れたプロジェクトリーダーは、自分のリーダーシップスタイルがプロジェクトチームのパフォーマンスに大きな影響を持つことをよく知っており、メンバーの一人一人に仕事と一緒に権限を与えることによって、メンバーの動機づけをする。

ポイントになるのは、メンバーに対して「権限によらない」影響を与えることである。このためには、プロジェクトリーダーはコーチングやメンタリングのスキルを駆使する必要がある。


◆プロジェクトリーダーのレスポンシビリティ(3)〜計画と期待の理解

三番目のレスポンシビリティは、計画を作ることである。計画を何のために作るかは意外と理解されていないが、プロジェクトの状況を「情報」に変換するためには計画が必要である。計画との差によってのみ、プロジェクトの状況は可視化される。

最後のレスポンシビリティはプロジェクトの成果を活用する人たちのニーズと期待を理解することである。これは、主にプロジェクト要求の収集を通じて行う。また、プロジェクトスポンサーやステークホルダの期待を理解しておくことも必要である。

これらの理解に役立つのは、予算である。予算には、ユーザやスポンサー、主要ステークホルダの期待が反映されていると考えておくとよいだろう。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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