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第241回(2010.12.24)
ビジネスとマネジメント

◆はじめに

今年は史上空前の「マネジメント」ブームだった。小説のスタイルをとっているとはいえ、ドラッカーの「マネジメント」をテーマにした本が200万冊近く売れるというのは、冷静に考えると、ちょっと考えられない話である。ビジネス書のミリオンセラーというと、2007年に刊行された水野敬也さんの「夢をかなえるゾウ」が記憶に新しいが、こちらは自己啓発の本なので、まだ、想像の範囲内であった。

そんな1年の締めくくりにというわけでもないが、深田和範さんという自称「リストラされ、求職中」のフリーランスのコンサルタントが「マネジメント信仰が会社を滅ぼす」という本を出版された。マネジメントは本当に有益なのかというのは、興味深いテーマなので、戦略ノートでも少し、議論してみたい。

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深田さんの指摘は、マネジメントが不要だというのではなく、ビジネス不在のマネジメントに意味があるのかという指摘だ。この問に関する結論は明確である。不要だ。昔から言われている管理のための管理、マネジメントを目的化することのナンセンスさをマネジメント信仰と揶揄している。


◆プロジェクトの運営体制

プロジェクトにもビジネスとマネジメントのシナジーが高い成果をもたらす構造がある。プロジェクトにおけるビジネスとマネジメントのクロスポイントは、プロジェクトマネジメントチームの活動である。もう少し、狭く考えるとプロジェクトマネジャー自身である。

プロジェクトは少なくとも2つの上位組織を持つ。ビジネスに関する上位組織と、プロジェクトマネジメントに対する上位組織である。前者がプロジェクトスポンサー(あるいは事業部門)であり、後者がプログラムマネジャー(あるいはPMO)である。

言い換えるとこれまではプロジェクトスポンサーとプログラムマネジャーは同一の組織マネジャーが担当していた(その活動がプロジェクトマネジメントと呼べるものかどうかは怪しいし、また、仮に呼べたとしてもビジネス優先であった)。そのため、必然的にビジネスを中心にした調整ができた。

ところが、プロジェクトマネジメントが導入されることによって事情が変わってきた。
組織マネジャーのプロジェクトへの関わりは限定的になり、プロジェクトスポンサーとしての関わりになってきた。

と書くほど、プロジェクトマネジメントの制度が徹底している企業は多くないが、例えば、プロジェクト完了(納期)が遅れても、マネジメント上の制約をクリアしなくてはならないという「ルール」をつくっている企業は少なくない。例えば、顧客がどれだけ早期着手を求めようと、計画書の社内審査をパスするまでは着手してはならないというルールがそうだ。

従来であれば、プロジェクトスポンサーとプログラムマネジャーが同一であったので、この種の状況では顧客の要望を優先することができた。しかし、プロジェクトマネジメントの導入によって(規則上は)できなくなった。

実はこの議論がこれからのプロジェクトマネジメント定着における最大の課題である。
今のところ、上のような状況であれば、顧客を優先するという判断をするマネジャーが多い。しかし、プロジェクトマネジメントは今後、オーナーシップを設定する企業が増えてくることは想像に難くない。具体的な形態でいえば、CPO(Chief Projectmanagement officer)を設置する企業が増えてくるだろう。

著者が知っている範囲でも、品質管理のチーフオフィサーを設置し、そこにプロジェクトマネジメントのオーナーシップを与えている企業がいくつかある。

このようにオーナーシップが確立されると、プロジェクト計画の承認を受ける前に実質的な活動を始めることは、社内承認を得ないで購買をすることに等しい。PMOは購買における資材部門と同じ位置づけになるわけだ。

そんな状態になったら仕事にならないと思うプロジェクトマネジャーは少なくないだろう。しかし、それは本末転倒である。たとえば、今、購買において、競争入札をしない企業は少ないと思う。20年前は競争入札などしていたら、思ったところからモノや人の調達ができないので、仕事にならないと堂々といっていたが、結局、そうはなっていない。むしろ、調達によって業務の品質は上がっている。競争入札を前提にして、自らの業務プロセスを改善したからだ。

これとまったく同じ理屈で、プロジェクトマネジメントにオーナーシップを設定すると、ビジネスのやり方を全く変える必要が出てくることは間違いない。そこには、「顧客の便宜が・・・」、「競合が・・・」といった理屈は存在しない。もちろん、ないがしろにしていいということではない。今以上に大切にしなくてはならない。そのようなビジネスの方法を考える必要がある。これは、誰かが考えたマネジメントをそのまま引っ張ってきても実現できない。自らのビジネスを踏まえ、自らの頭で考える必要がある。

深田さんは、本の中で「真似ジメント」という言葉を使われている。プロジェクトにおいてもそうで、PMBOK(R)の「プロジェクト真似ジメント」ではそこにたどり着けない。

そのためには、プロジェクトマネジャーは、ビジネスとプロジェクトマネジメントの摺り合わせ役を担わなくてはならない。もちろん、プロジェクトスポンサーやPMOの手を借りながらである。

その際に勘違いしてはならないのは、ビジネスとは技術的活動ではないということだ。設計や開発はビジネスの手段に過ぎない。それらの手段を駆使して、収益を上げる、競合に勝つ、顧客を満足させる、社会に貢献をするといったことがビジネスである。技術とビジネスを混同してはならない。

マネジメントに興味がないというプロジェクトマネジャーの多くは、実はマネジメント以前に、ビジネスに興味がないケースが多い。ビジネスに興味を持てない人材にプロジェクトマネジャーを任せるべきではない。逆にマネジメントのスキルはなくとも、ビジネスに興味を持てる人材にプロジェクトマネジャーを任せるべきだ。そのような人材は

ビジネス−技術−マネジメント

のトライアングルによいバランスを作れる。

そろそろ、そんなプロジェクトマネジャーを求める時期に来ている。


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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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