第190回(2008.08.05)
続・プロアクティブとリアクティブ

◆復習

先日、ちょっとしたプロアクティブのプライベートイベントを行った。前回の話に出てきた「先読み力」の本の著者の村中剛志さん、それから、日本で誰よりも早くプロジェクトマネジメントの分野でプロアクティブの重要性を訴えたプロジェクトプロの峯本展夫さん、それから著者の3人で、夕食をとりながら、2時間ほどプロアクティブについて話をした。3人寄れば文殊の知恵ではないが、年齢や立場が違う3人が議論したので、いろいろな視点からの意見が出てきてとても濃密な時間を過ごすことができた。その議論を振り返ってみると、前回書いた3つのプロアクティブが描くシナリオというのが出てきていたような気がする。

前回、3つのプロアクティブについて述べた。簡単に復習しておく。3つのプロアクティブというのは、前向きという意味でのプロアクティブ、付加価値を構築するという意味でのプロアクティブ、そして、プロジェクトの成功を求めるという意味でのプロアクティブである。


◆プロジェクトに失敗すると何が起こるのか?

この議論をするには、まず、プロジェクトマネジメントの原点の問題に戻る必要がある。それは、何のためにプロジェクトマネジメントをするのかという問題である。ニーズとして考えると、(大規模な)プロジェクトを失敗しないようにするという話に尽きるのだと思う。

多くの場合、ここで話が止まっているので、もう少し、突っ込んでみよう。失敗するとどうなるのかだ。大きく分けると2つの側面がある。

ひとつは、プロジェクトマネジャー、その上司、ひいては会社がネガティブな評価をされる。このような側面は間違いなくある。そして、それは従業員満足、あるいは、顧客満足からいえば好ましいことではなく、長いスパンでみれば企業の競争力に深刻な影響を与えることも間違いない。

それ以上に問題なのは、プロジェクトが失敗するということは、戦略が実行できないとことだ。

ここで考えなくてはならないのは、前者の視点からは目標を下方修正してでも失敗しないようにやればよい問題である。しかし、後者の視点からは、それは全く意味のないことである。戦略をすることが目的であって、失敗しないことが目的ではないからだ。

その意味で、失敗しないことに固執することは大した意味があるとは思えない。


◆なぜ、失敗しないことに固執するのか?

にもかかわらず、失敗しないことに固執するのはなぜか?

戦略がないからだ。もっと正確にいえば、戦略はあるのだが他者と差別化できる戦略ではない。つまり、競争がない。言い換えると、経営そのものが非常にリアクティブなのだ。

そのような経営環境の中では、困難を伴うような戦略の策定はしない。誰でもできるような戦略設定をすることが圧倒的に多い。そのような戦略を実行するためのプロジェクトを定義すれば、できて当たり前のようなプロジェクトゴールにしかならない。つまり、リアクティブな経営が、リアクティブなプロジェクトを生み出している。

リアクティブなプロジェクトでは、失敗しないことは何よりも重要なのだ。


◆リアクティブなプロジェクトにはリアクティブプロジェクトマネジメント

さらに、プロジェクトがそのようなものであれば、プロジェクトマネジメントを積極的にやる理由はない。プロアクティブなプロジェクトマネジメントではなく、リアクティブなプロジェクトマネジメントになる。結果として、新しい付加価値は生まれない。リアクティブなプロジェクトだけを延々と続けることになる。


◆プロアクティブがもたらすシナリオ

前回、ペンディングした3つのシナリオは以上述べたことをひっくり返せばよい。まず、スタートになるのはプロアクティブな経営である。つまりは常にベネフィットの最大化を目的とする経営である。それを戦略に落とし込んでいく。ベネフィットの最大化のための戦略は競争をしたり、あるいは成長をする戦略になる。

その戦略を実行するために、プロアクティブなプロジェクトを起こす。プロアクティブなプロジェクトのゴールは必ず、ストレッチゴールになる。ここでリスクマネジメントにおけるプロアクティブアプローチの意味が出てくる。

プロアクティブとはそのストレッチゴールの達成を目指し、リスクを積極的に取ることだ。プロアクティブリスクマネジメントとは、プロジェクトの計画段階でリスクを回避することではなく、リスクをとった上で、早め早めにリスクに対処して、プロジェクトのゴールを達成することである。

そのためには、リスクマネジメントも含めて、攻めのプロジェクトマネジメントをする必要が出てくる。つまり、「やらなくてはならない」ではなく、「何ができるか」を追求する必要があるのだ。これがプロアクティブプロジェクトマネジメントである。

今、もっともひっくり返さなくてはならないコマはここではないかと思う。現場で組織の戦略が云々といってある意味で仕方ない。すべきことは、現場から戦略の起動修正をしていくことだ。そのためには、「上位組織が求める以上」の目標設定をする必要がある。

これを実現するのがプロアクティブなプロジェクトマネジメントである。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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