第165回(2007.10.26)
定常業務とプロジェクト
◆「どんな仕事でもプロジェクト」のウソ・ホント

「どんな仕事でもプロジェクト」

という言い方がある。世界最大のプロジェクトマネジメントの業界団体であるPMI(R)(Project Management Institute)では、プロジェクトを

 ・有期性
 ・独自性
 ・段階的詳細化

という3つの特性を持つ業務だと定義している。また、業務は、プロジェクト業務と定常業務に分かれるとしている。プロジェクト業務が有期性、独自性を持つのに対して、定常業務は反復性と継続性があるとされている。


◆プロジェクトと定常業務

ここでひとつ考えてみたいのは、個別生産型の商品である。その代表は情報システムである。個別生産型の商品は一品一品仕様が異なる。従って、その生産は段階的にステップを踏んで行われる。まず、要件を明確にする。要件が決まったら設計を行う。設計が終わったら開発を行う。開発が終わったらテストをするといったステップを踏むことが多い。決して、最初の段階で最終形を決めることはない。これからするとPMI(R)がいうところのプロジェクトということになる。

こういった業務の性格に注目した定義の一方で、組織としてみた場合には、戦略があり、戦略を実現するために必要な定常業務がある。その定常業務で不十分な場合には、業務革新を起こし、新たな定常業務に落としていくという2本柱で戦略を実現することになるという構造がある。

例えば、戦略上、あるセグメントの商品が足らなかったとしよう。すると、新製品開発という業務革新を行い、そこでうまれた商品をラインナップに追加して、生産・販売という定常業務に移していく。そして、定常業務の中で商品もプロセスも改善を重ね、収益性を向上させていく。

ここで問題はラインナップ商品のように、多少の違いのあるものの、あまり変わらない商品を開発する仕事をどのように位置づけるかである。受注業務の中でもこのような性格の受注は多いし、また、そのような受注を増やしていかない限り、成熟した市場では収益の増加は期待できない。


◆定常業務をプロジェクト業務として実施する愚

さて、話は変わるが、プロジェクトマネジメントブームの中で、何もかも、プロジェクトだといいすぎたのではないかという思いがある。例えば、SIの仕事は一つ一つの成果物が全く同じではないので、プロジェクトだという説がある。これは本当に正しいのだろうか?

もちろん、PMI(R)的な定義でいえば正しい。一つ一つの仕事は新たに始められるものであり、スコープの違いによる新規性があるし、段階的詳細化を行っている。つまり、反復性もないし、継続性もないプロジェクト業務であり、プロジェクトマネジメントを行うべきである。という理屈になる。

しかし、上に述べたような組織からの視点でみれば、ほとんどのSIの仕事は定常業務である。


◆プロジェクト業務では増収は期待できない

なぜ、こんな話になるかというと、プロジェクトの定義は、現場レベルの定義をしているに過ぎない。成果物の仕様も違うし、段階的詳細化をしているので、反復性はないだろうという話だ。

しかし、反復性というのはレベルの問題である。プロセスのレベルでみれば反復性があるし、同じプロセスを繰り返している。現に、プロジェクトマネジメントが注目される以前は、いろいろなSI企業は開発プロセスの標準化に躍起になっていた。そもそも、一つ一つを別の仕事として捉えているのが、本当に正しいのかという疑問もある。

なぜ、このような話にこだわるかというと、この問題を解決しない限り、利益が出てこないのではないかと思うからだ。最近、利益率が下がってきたのは、もちろん、市場相場の影響もあるが、プロジェクトマネジメントを導入したからではないかと思う。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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