第149回(2007.06.26)
顧客の声
前回は、プロジェクトにおける延期アプローチと投機アプローチの話をし、どのようなアプローチがよいかを決める鍵になるのが「顧客の声」だという話をした。

プロジェクトにおける延期と投機


◆顧客の要求=成果物に対する要求+プロジェクトに対する要求

顧客の声とは、一体、なにか?今回はこの話をしたい。

顧客の要求には、2種類ある。ひとつはプロジェクトの進め方に対する要求であり、もうひとつは、プロジェクトの成果物の仕様に対する要求である。

普段、プロジェクト成果物の仕様に対する要求が見えてこなくて困っている人は少なくないだろう。スコープ変更をするプロジェクトの割合が50%を超えているような組織は少なくない。そこで、如何に顧客の要件を定義していくかという話になるのだが、実は、この話、そう一筋縄ではいかない。

例えば、顧客要件があいまいであるという状況を考えてみてほしい。いくつかの状況がありうることが分かると思う。

・顧客側でも議論が不十分であり、詳細が決まっていない
・ベンダーとのコミュニケーションが不十分で十分に示していないし、聞けてもいない
・顧客が何が可能で、何が不可能なのかが分からないので、決めれない
・顧客側は無関心で、とりあえず、ベンダーからなにか出てくるのを待っている
・顧客側のステークホルダの意向がばらばらで、まとまらない
・顧客のビジネス上の都合(例えば、競合の動向)などがあり、今は決めたくない

考えればまだあると思うが、いずれにしても、仕様を決めるためにどんな作業をすればよいかは、どの状況下によって異なる。もうひとつの顧客の要求とはこの進め方に対する要求である。


◆2つ要求の関係

ここで注意しなくてはならないことは、この2つの顧客の声は非常に密接な関係がある。簡単にいえば、仕様に対する顧客の声を如何にうまく引出せるかは、プロジェクトに対する顧客の声を如何に聞いているかにかかっているといってよい。たとえば、マイルストーンの設定はどんなプロジェクトでもやってるだろう。しかし、マイルストーンについて、顧客の声を反映して決めているというプロジェクトは決して多くな
い。納期以外のマイルストーンはプロジェクト側の事情で決めていることが圧倒的に多い。こんなマイルストーンの設定をして、マイルストーンどおりに顧客にプロジェクトアクティビティを望むのは無理である。プロジェクト要件をしっかりと聞き出し、成果物要件との調整を図っていく必要がある。

では、プロジェクトに対する顧客の声を聞き出すにはどうすればよいか。例えば、ツールとしては「顧客ロードマップ」といったツールがある。

 PMの道具箱 第2回 顧客ロードマップ


◆顧客プロセスの理解ができているか

ツールはツールとして、ポイントになるのは、どれだけ顧客プロセスを理解できているかであり、また、ものをどれだけ顧客起点で考えられるかに尽きる。

プロジェクトとは成果物をつくり、それを顧客に検収してもらう一連のプロセスであり、プロジェクトと顧客双方の自身の責任を前提とした活動である

というのは簡単である。しかし、一方で、プロジェクト活動の源流にいるのは顧客であり、下流で成果物の全責任をとるのがプロジェクト(あるいは、その上位組織)にあるという現実がある。

そう考えると、プロダクトアウトモデルではまず成り立たない。マーケットインモデルが必要である。そのためには、顧客プロセスをきちんとしていく部分からコミットしないとよい結果は生まれないだろう。


◆顧客起点でプロジェクトを動かす

勘違いしないでほしいのは、これは、顧客の戦略に口出しをするとか言っているわけではないことだ。そうではなく、顧客が自らを起点にプロジェクトを動かしていくような計画を作って進めていくべきだといっている。その際に、顧客側のプロジェクトリーダーの足らないところは補うようなファシリテーションをしていくのがベンダーのプロジェクト推進者の役割である。

顧客リーダーを見つける、あるいは立てるのが難しい場合もある。そのような場合には、プロジェクト側に顧客の声の代弁するようなリーダーを置く。

さて、もう一度、延期と投機の話に戻るが、このように顧客の声を扱っていくとすれば、プロジェクトの要件に対する顧客の声はプロジェクトとしてのデカップリングポイントを決定する声だといえる。デカップリングポイントはWin−Winの顧客関係のベースになるものであり、このような認識をすることが重要である。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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