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第107回(2006.07.11)
プロジェクトマネジメントはどこに向かうのか(その1)〜過去と現在 |
◆PM(R)標準、出揃う
2006年6月にPMI(R)(Project Management Institute)からプログラムマネジメントと、ポートフォリオマネジメントの標準が発表された。これで、PMIの構想している標準体系がすべて揃ったことになる。
◇プロジェクトマネジメント〜PMBOK(R)
◇プログラムマネジメント・ポートフォリオマネジメント
◇組織のプロジェクトマネジメント能力〜OPM3
◇個人の能力〜PMCDF
の5つである。これらの標準自体の成熟度はまちまちで、好川の感じでいえば、大体、以下のような感じ。
PMBOK(R):レベル4
ポートフォリオマネジメント:レベル3
プログラムマネジメント:レベル2
OPM3(R):レベル2
PMCDF:レベル2
せっかくだから、寸評しておく。すべてのベースはPMBOK(R)であり、そのPMBOK(R)がどんどん進化しているのだから、他の標準はまとめにくいという点を差し引いても、OPM3(R)、プログラムマネジメントは次のバージョン期待といった感じは否めない。PMCDFはフレームワークそのものに疑問がある。そんな感じである。
◆PMBOK(R)の登場から10年
この記事では、PMIの活動を評価したいわけではない。1996年にPMBOK(R)の第1版が出版され、日本ではエンジニアリング振興協会が翻訳し、出版した。それから10年になる。PMBOK(R)は10周年記念版が、ハードカバーで出版されている(英語版のみ)
少なくとも、プログラムマネジメントだとか、あるいは、ポートフォリオマネジメントはプロジェクトマネジメントの1996年と同じレベルにあることは間違いない。そこに、さらに、プロジェクトマネジメントの能力モデルで、OPM3(R)とPMCDFが加わる形になっている。そんな状況で、これから10年、プロジェクトマネジメントはどのような方向を向いていくのだろうか?今回から、戦略ノートでは、このテーマで語ってみたいと思う。
◆古代のプロジェクト
今回は、もう少し、大きな流れを説明しておこう。プロジェクトはピラミッドの時代からあったとされる。プロジェクトというより事業である。ただ、この時代のプロジェクトは現在のプロジェクトとは趣を異にする。制約条件が少ない。莫大な労働力を集め、それをうまく束ねて、成果物を生み出していくという意味では今と変わらない。しかし、コストの制約もなかったし、期限の制約もほぼなかったと言われる。その意味で、現在のプロジェクトとは異なるし、プロジェクト管理にしてもどちらかというと労務管理的色彩が濃い。
現在のような考え方になったのは第一次世界大戦の辺りからである。戦争にも時間の概念がでてきた。相手より、より早く、より強力な兵器を開発した方が戦争を制するようになってきたのだ。テクノクラートと呼ばれる技術官僚が力を持ち出したのもこの頃からである。
◆目標を伴うプロジェクトマネジメント
これに伴って、プロジェクトマネジメントも変わってきた。目標という考え方が出てきた。プロジェクト(チーム)で工期、予算、品質(QCD)に目標を設定し、その目標をクリアするために、人材・資金・設備・物資・スケジュールを調整するという考え方のマネジメントが行われるようになってきた。PMBOK(R)はこのようなプロジェクトマネジメント手法を標準として整理したものである。
このようなプロジェクトマネジメントは、モダンプロジェクトマネジメント(プロシード社の商標)などいろいろな名称で呼ばれるが、PMBOK(R)の普及とともに、プロジェクトマネジメントというとこのようなマネジメントを意味するようになってきている。
第二次世界大戦が終了後、1960年代になると、もっぱら、宇宙開発でプロジェクトマネジメントが使われるようになってきた。アポロ11号で人類が最初に月面着陸したのが1969年であるが、この年にPMI(R)も設立されている。
◆ビジネスへの適用
その後、プロジェクトマネジメントはだんだん、適用範囲を広げ、ビジネスのプロジェクトへ適用されるようになってきた。例えば、今、プロジェクト憲章の中にビジネス要件を書くことが多いが、このような習慣はそんなに古いものではないのだ。ただし、1970年代から80年代にかけてはもっぱら適用対象はプラントエンジニアリング、ビル建設などの大規模でハードなプロジェクトが中心であった。
1987年にPMIはPMBOK(R)の原型になるプロジェクトマネジメント手法をまとめるが、この辺りからプロジェクトマネジメントの適用範囲は急速に拡大されていく。特に、情報システム、医薬品、メカトロニクスなどの技術リスクや投資リスクの大きいプロジェクトを中心に適用されるようになってきた。
◆IT系におけるプロジェクトマネジメント
中でも、成果物が見えにくいソフトウエアにおいては、プロセスマネジメントと同時に、プロジェクトマネジメントを行うことによるプロダクトの品質や、サービスの品質を実現できることから、IBM社や、DEC社、マイクロソフト社など、多くの企業がプロジェクトマネジメントの導入に取り組んだ。中でも、DEC社の取り組みはすばらしく、この時期における一つの完成した姿であったように思う。その様子は
ギデオン・クンダ「洗脳するマネジメント〜企業文化を操作せよ」
に詳しいので、ぜひ、興味のある人はぜひ読んでみてほしい。
◆マルチプロジェクトマネジメント
さらに、90年代の後半になると、自動車を中心に複数のプロジェクトを調整しながら管理していくようなマネジメント手法が導入されるようになってきた。いわゆるマルチプロジェクトマネジメントである。これはプラットホームオリエンテッドな製品開発と深く関係して取られた手法である。これについては、
延岡健太郎「マルチプロジェクト戦略―ポストリーンの製品開発マネジメント」
に詳しいので、これもぜひ読んでみてほしい。
さらに、2000年に入ってからは、エンタープライズプロジェクトマネジメントの必要性が高まってきて、プロジェクトマネジメントの先進企業ではどんどん導入されている。その枠組みとして、プログラムマネジメント、あるいは、ポートフォリオマネジメントなどが使われている。
以上が、プロジェクトマネジメントの50年である。
次回は、このような現在までの流れを背景に、これからプロジェクトマネジメントがどのように進んでいくのかについて考えてみたい。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士 株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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