第17回(2003.08.28) 
プロジェクトワークプレイス
 

◆ワークプレイス=仕事場?
 プロジェクトワークプレイス(プロジェクトの作業場所)といえば、プロジェクト室を設置し、そこを基地として進めていくというスタイルが目に浮かぶ。しかし、ご存知の通り、今はそのような時代ではないだろう。80年代にCALS(Commerce At Light Speed)の流れの中で、ボーイング社がワールドワイドにネットワークで連携されたCADのシステムを導入して、ボーイング707の開発を離れた場所での共同作業でやっているという話を聞いたときにはずいぶん感銘を受けた覚えがあるが、今はそれが当たり前の時代だ。

 そこで注目され、なおかつ、プロジェクトの実行に重要な影響を与えるのがプロジェクトワークプレイスである。ワークプレイスはハードウエアからソフトウエアに変化してきている。ワークプレイスはいまや、単なる仕事場所というイメージを超えている。ネットワークされた環境が当たり前だといっても、単にCADで共同作業ができるといっただけではないのが、今のワークプレイスである。もっとソフトな環境の提供が行われるようになってきているのだ。

 ここでは、プロジェクトマネジメントの一貫として、プロジェクトワークプレイスとしてどのような機能提供が必要かということを考えてみたい。

◆ファシリティ
 まず、物理的な面(ファシリティ)では、プロジェクトの場合、従来の固定的なオフィススペースに変わって、可動性のあるオフィススペースが必要になる。問題は可動であることのイメージだが、まず、一義的には複数のオフィススペースの中の移動である。例えば、人が今日は10階にあるプロジェクトAのオフィス、明日は20階にあるプロジェクトBのオフィスという風に動いていく。4〜5年前からLANコンセントのような技術が出てきて、作業場所の固定性はなくなった。今であれば、無線LANでもっと便利にこのような形態のワークプレースが実現できるようになってきた。

 ただし、求められるオフィススペースは、従来のように一つのビルや企業に限定されない。異なる場所で働くメンバーとシームレスなオフィススペースが持てることが必要になる。また、異なる企業のメンバーともシームレスなオフィススペースが持てることが必要になる。このようになってくると、人が動くことはナンセンスである。人の作業場所は固定して、バーチャルなオフィススペースを作っていくような仕掛けが必要だ。現在のレベルだと、テレビ電話と通信でなんとか実現できるというレベルだが、シームレスな環境にはまだ距離がある。シームレス化の重要なポイントは、離れた相手の空間にあるものに働きかける機能である。一種のバーチャルリアリティの機能だが、ここに到達するまでにはもう少し、時間がかかりそうだ。

◆プロジェクト組織のソフトウエアの構築サポート
 ファシリティも重要だが、今後、プロジェクト組織のソフトウエア構築への重要性がだんだん、高まってくるだろう。つまり、プロジェクトのメンバーに望む行動をプロジェクト組織、あるいはプロジェクトの母体の経営組織の中にソフトウエアとして定着させていく支援である。これは、レッスンラーンドの支援機能でもあるし、チームビルディングの支援機能でもある。

 そのもっとも基本的なものは、社内外の情報へのポータル機能である。プロジェクトチームを作ろうとすると、専門家を探す必要がある。まず、この種の人に対する情報ポータル機能が求められる。また、営業するには過去の提案書、顧客情報、設計をするには過去の設計情報、技術情報といった具合に、課題に対してまず、使える情報を探すという組織行動が発生してくる。

 さらにプロジェクト作業だけではなく、プロジェクトマネジメントそのものの情報ポータルも必要だ。コスト、工数の見積もりと実績、プロジェクトリスク、品質マネジメントの方法、コミュニケーションマネジメントの方法などである。今、一部の進んでいる企業では、すでにプロジェクトの属性を入力するとWBSの自動生成を行うといった情報の共有が行われている企業もある。今後、プロジェクト計画全般に対して、過去の事例と実績データに基づき、計画の自動生成を行うような支援機能ができるのも時間の問題だろう。これらの機能がプロジェクトワークプレイスの機能として提供されるようになるのだ。いわゆるナレッジマネジメントの機能であるが、ナレッジマネジメントをサポートしていく機能がワークプレイスには必要になる。

◆問題解決支援機能

 同時にナレッジで課題が解決しない場合には、問題解決の支援機能が必要になるだろう。この問題解決の支援機能の第一の役割はもちろん、目の前の問題を解決することだが、もう一つの重要な役割として組織学習をマネジメントしていくという役割がある。つまり、ある状況で問題が発生した。それはその組織では未知の問題であり、バーチャルスペースでみんなが経験に基づく知恵を出し合って解決した。そしてそこで生まれた問題解決策は新たな知識となり、組織で共有される。次に、同じ問題に直面した人は、その情報を探し当て、問題解決プロセスを起こすことなく、答えを手に入れることができることが重要だ。 さらに、このような問題解決のプロセスそのものを共有する機能も重要である。今のナレッジマネジメントがうまく機能しないのは問題解決プロセスの共有が不十分だからだ。このプロセスの共有で、組織に問題解決による組織学習を行うという文化が根付いてくる。
個人に対するサポート
 さらには、個人に対するサポートも重要である。個人に対するサポートはeラーニングということになる。ここで重要なポイントはジャストインタイムのサポートを行うことだ。eラーニングのツールでは学習履歴を管理するものが増えているが、ジャストインタイムの学習で大切なのはアウトプットの管理だ。この点も含めて、いわゆるジャストインラーニングのサポートの機能が必要になる。

◆ポイントは「学習」
 このように組織レベルでのナレッジマネジメントによる組織学習、個人レベルでの学習サポートを進めていくことにより、何が実現されるかがポイントである。組織が学習していくということは、プロジェクトマネジメントとして考えれば、どんどん、成熟度を増していくということに他ならない。つまり、プロジェクトワークプレイスには、組織成熟度を向上されるための仕組みが必要なのだ。
 もちろん、その仕組みは成熟度の向上が目的ではない。上に述べたように、計画作業の支援、問題解決の支援、個人の学習の支援などが第一義のシステムであり、その結果として成熟度の向上につながっていくのだ。
 夢物語に近いと思うかもしれなないが、この仕組みの基本の部分は、日常のプロジェクトにおけるレッスンラーンドである。その延長線上にある仕組みだ。現に近いものを実現している企業もある。例えば、IBMのICM(Intellectual Capital Management)だ。そろそろ、こういう仕組みを考えていく時代になっている。そして、このような仕組みを取り入れることによって、プロジェクトマネジメント自体変質していくことになるのは間違いない。

参考文献:
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