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第27回(2005.10.11)
プロジェクトの業績をどう評価するか(後) |
◆誰が評価指標を決めるのか
次の問題は、では、その評価は誰が決めるのかという問題がある。
これについてはチームが自ら、自分たちが目標を設定するためには何が必要なのかを考え、評価指標を選んでいく必要がある。しかし、決定という意味においては、チームが独断で決めることはできない。マネジメントにより、経営戦略、あるいは事業戦略との整合性が判断されることが必要になる。
たとえば、経営戦略として、「アウトソーシングによる経営のスリム化」を掲げている企業があったとしよう。商品開発に関しても企画機能以外は外部資源の活用を前提
にしている。このような場合には、当然、プロジェクトの目的は既定の経営戦略の中で達成されなくてはならず、要員調達の効率を評価指標として取るのは無理があるし、別の切り口で生産性の向上を実現していかなくてはならない。
その意味で、指標に対する最終的な判断は、経営戦略との整合性を見ながら、マネジメントが行っていく必要がある。もちろん、その判断基準のひとつに、チームが知恵を出したプロジェクトの目的達成が折り込まれていなくてはならない。
◆プロジェクトマネジメントにおける評価指標
さて、では、実際にプロジェクトにおける評価指標がどうなっているかを見てみよう。
プロジェクトにおける評価指標を設定するのは、広い意味でプロジェクトマネジメントの役割である。多くのプロジェクトでは評価指標として計画が使われる。一般的に言えば、評価指標には、SQCD(スコープ、品質、コスト、スケジュール)に関する計画が当てられる。これは、プロジェクトとしての成果目標でもあり、マネジメントからプロジェクトに与えられる課題から、プロジェクトの目的が決められ、それが指標化されて、目標としての計画となるものである。
たとえば、マネジメントから課題として、「この商品分野で、競争力を強化する」といった課題が与えられたとしよう。そこで、プロジェクトでは上で例にあげた「業界初の機能を持つ商品を競合企業より先に市場に出す」といった目的を設定する。そして、具体的に
・新規機能と品質
・商品コストと販売価格
・スケジュール
・開発コスト
・販売量(シェア)
・収益性
といった目標を掲げる項目を決める。これらの指標に対して、具体的な数値を設定した計画が、成果に関する評価指標となる。
ここで注意したいのは、ずっと述べてきたように、この目標はストレッチされた目標になるのがプロジェクトであり、プロジェクトに対する期待である。
そこで、これらの成果に関する評価指標だけではなく、プロセスに関する評価指標をおく。プロセスに関する評価指標を設定する際にまず行わなくてはならないことは、プロジェクトの目的と目標の達成のためにどのようなスキルやコンピテンシーや経験、人脈を持ったメンバーが必要かということの洗い出しである。プロジェクトマネジメントの中ではこれは人的資源管理として行われる。さらに、プロセスを円滑に進めていくためには、どのようなコミュニケーションが必要かという面も指標化される。
これはコミュニケーションマネジメントとして行われる。このあたりまでが、PMBOKなどのプロジェクトマネジメントの手法の中で取り上げられいることである。
しかし、現実を言えば、これだけでは必ずしも、プロセスが十分に回らないことがあるために、他にもさまざまなプロセス評価の指標を掲げることがある。これらの指標はプロジェクトのマネジメントというよりも、「プロセス」、あるいは「ひと」のマネジメントの意味合いがある。表1にその指標の例をあげる。
もうひとつ重要なことは、プロジェクトマネジメントでは、生産性の向上のために「ムダの削減」に対する指標としてリスクを掲げることがある。つまり、リスクを指標化することにより、誤った道に突っ込んでいき、そこの手戻りでムダに時間やコストを使い、生産性を下げるという事態を防ごうとする。リスクに関する評価指標の設定はリスクマネジメントとして行われる。
このようにプロジェクト計画では、プロジェクト成果とプロセスについて計画という形で業績評価指標を与えている。
◆能力や個人業績の評価
最後に、冒頭にふれた個人の評価の問題について考えておきたい。
いくらチームの評価指標を設定してみても、その評価指標に対して、プロジェクトマネージャーやメンバーが達成の意欲を持たない限り、意味がない。そこで、重要なポイントがどのように個人の業績を評価するかという問題である。
この問題に対する基本的な考え方を提示することはそんなに難しくない。プロジェクトチームである限り、まずはチームの業績があり、その業績によってまずは評価される。そして、その業績に対して、プロジェクトマネージャーをはじめとする各メンバーがどのような貢献をしたかによって個人の業績は評価される。つまり、
個人の業績=チームの業績×個人の貢献度
である。これに対して、ラインの業績評価の基本は、個人の評価が先にたつ。これは、目標は課業であり、下回るということはあってはならないし、計画以上の業績をあげることもないという前提に基づいている。ラインにおける個人の評価は、課業の目的だけではなく、さまざまな視点から行われる。たとえば、企業のブランドイメージの貢献に寄与したといった要素さえも入ってくる。そのような業務環境の中での個人の評価は複雑きわまる。課題の与え方の適正さ、過去からの実績、ポテンシャルなどさまざまな要素を含めて考えないと公平性のある評価ができないためだ。
この話は野球にたとえるとわかりやすい。優勝チームで2割5分の成績を残したバッターと最下位チームで三冠王をとったバッターのどちらを高く評価するかという話を考えてみてほしい。チームとして機能させたければ、当然、前者を高く評価しなくてはならない。
さて、チームの業績は業績評価指標により計測可能だとしても、個人の貢献をどのように図るかは難しい問題である。野球でいえば、ヒットを打って塁に出て、後続のバッターのタイムリーヒットでホームインしたバッターと、タイムリーを打ったバッターのどちらが評価が高いかというような問題が出てくるからだ。
この問題を結果オーライではなく、ある程度の合理性を持って解決しようとすれば「役割に見合っているか」という視点を持ち込む必要がある。たとえば、ヒットで出塁したバッターが1番で、タイムリーを打ったのが4番であれば貢献度は等しく評価されるべきだろう。しかし、4番バッターが出塁し、タイムリーを打ったのが5番バッターであればタイムリーの方が評価されるかもしれない(典型的な考え方の監督ならばであるが、、)
チームの中でもまったく同じで、結果としてどれだけ成果に貢献したかではなく、どれだけ役割を果たすことができたかを問題にすべきである。そのためには、個人の貢献の評価指標を、各人の役割に応じて、プロジェクトチームの評価指標を用いて表現できる必要がある。
たとえば、設計が担当のメンバーであれば、設計時間と品質以外に後工程での設計変更箇所数といったものを貢献度の指標にする。テスト担当のメンバーであれば、テスト時間とテスト件数以外に、最終的な問題の発見率などを貢献度の指標にする、といった考え方を設計すればよいだろう。
◆まとめ
プロジェクトを成功に導くために不可欠なプロジェクトチームの業績評価について述べた。プロジェクトマネジメントでは多くの部分をカバーしているが、明らかに不足している部分もある。本稿で述べたような考え方でそれらを補い、プロジェクトの目的を達成する業績評価を実現していく必要がある。
本稿で触れなかったもっとも複雑な問題は、このような業績評価を従業員の報酬にいかに反映するかである。賃金実務という雑誌の性格を考えるとこれがメインテーマになるかもしれない。これについては、各組織におけるプロジェクトの位置づけやプロジェクトマネジメントの位置づけを考えないと議論できない問題である。その中で、もっともポピュラーな方法が、一定の割合のインセンティブ給を準備し、そこをチームの評価をベースにした個人の評価で埋めていくという方法であることに触れておく。
※ 本記事は、「賃金実務」2005.09.01号に掲載された記事を編集したものです
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参考文献:
[1]PMI「プロジェクトマネジメント知識体系ガイド」,Project Management I
nstitute(2004)
[2]クリストファー・メイヤー「多機能チームを活性化させる業績評価システム」
、ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー、1994年9月号
[3]ヘンリー・リンドバーグ(今井義男訳)「クロスファンクショナルチームの基
礎」、日本規格協会(2003)
[4]山口生史編「成果主義を活かす自己管理型チーム」、生産性出版(2005)
[5]ジョン・R. カッツェンバック、ダグラス・K. スミス(吉良 直人、横山 禎徳
)「「高業績チーム」の知恵―企業を革新する自己実現型組織」、ダイヤモンド社(
1994)
[6]チャールス・C. マンツ、Jr.,ヘンリー・P. シムズ 「自律チーム型組織―高業
績を実現するエンパワーメント」、生産性出版(1997)
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