第4回(2003.03.10) 
目的なくしてプロジェクトなし
 
プロジェクト内容


 X社は中堅のSIベンダであるが、センサーメーカY社より、情報化の相談を受ける

登場人物 Lさん Y社の営業マネージャー
     Aさん X社のプロジェクトマネージャー
     Dさん X社の営業

<仕様打ち合わせの場面>

Lさん「最近、ライバルのN社とコンペで負けることが多くてね。今年度の重点目標で顧客を取り返すっていうテーマが決まったんだ。それで調べてみたところ、N社に顧客を取られだしたのが、彼らが営業マネジメントシステムを入れてからだというのが分かってきた。Z社さんの仕事らしい。これに負けないシステムを作りたいんだ。予算は5000万円確保してある」

Dさん「分かりました。具体的に、今の営業の仕方の問題だとか、あるいは理想像だとかありますか」

Lさん「それがあれば、お宅に声をかけない。お宅もZ社とはライバルなんだろう」

Dさん「わかりました、力を併せて、ぜひ、よいシステムを作りましょう。電話で大体のお話は伺っていたので、今日はこのプロジェクトを担当するAをつれてきました」

Aさん「Aです。よろしくお願いします。システムに疎くて、紙に書いただけでは分かりにくいということをDの方から伺っていますので、とりあえず、イメージできるようなプロトタイプのシステムを作って、そこから話を始めたいと思うんですが、よろしいでしょうか?」

Lさん「よろしくお願いします」

<プロトタイプ完成後の打ち合わせ>

Aさんがプレゼンをした後で

Aさん「われわれはこんなイメージなのですが、如何でしょうか?」

Lさん「悪くないけど、何か、違うような気がするね」

Aさん「どのあたりでしょうか」

Lさん「たとえば、このシステムだと営業マンがだいぶ時間をかけて日々の活動をコンピュータに入力していかないといけないね。こんなことが本当にできるんだろうか?うちの営業マンの中には、いまだにパソコンに触るのを嫌がっているのがいるよ」

Aさん「難しいですか?もし、だめならここでもっと営業マンの負担を減らす方法を考えないといけないですね。次はそこを検討して、また、案をお持ちしたいと思います」

Dさん「この辺で、そろそろ、契約をしてからということにしてもらえないでしょうかね?」

Lさん「ああ、いいよ。実は、おたくを指名したのはうちのP社長で、おたくのQ社長とはゴルフ仲間らしい。もう、社長の承認も取れているんだ」
このプロジェクトの結末  この調子で、ああでもない、こうでもないということで進んでいき、工数だけを食っていった。結局、当初の予算だった5000万円を原価ベースで使いきったところで、X社はさじを投げ、適当にシステムの形を整えて終わろうとしたが、そこでP社長からQ社長へ泣きが入り、結局、営業事務作業の支援に使えそうな部分だけを切り出して、2500万円のシステムとして引渡し。Y社は営業事務の省力化により営業マンの時間を浮かし、人海戦術という営業スタイルへ。X社は2500万円の損失。
問題点 ・プロジェクトの目的があいまいなまま、プロジェクトを発進させている
・プロジェクトマネジメントフェーズで考えると、企画プロセスの完了の前に、計画プロセスに入り、さらには実施プロセスに入っている
処方箋 ・プロジェクトマネジメントプロセスのマネジメントをきちんと行い、企画プロセスが完了するまで、計画プロセスに進まない
・諸般の事情でそれが難しい場合には、フェーズ分割を行い、まず、目的を明確にするフェーズ(要件分析)と、そのためのシステムの開発のフェーズを分けて進める
解説  ソフトウエアプロジェクトの難しい点は、成果物に対するイメージが難しいことである。これはプロジェクトにさまざまな影響を与える。そのひとつが、どういうソフトウエアを作れば、問題が解決するのかが明確にしにくく、プロジェクトに関与する人全体が共有できるイメージを持つことが難しいことである。つまり、目的は明確だけど、手段が決まらないというプロジェクトがソフトウエアプロジェクトである。
 そのために、このケースのように、何をやるのかを明確にできないまま、プロジェクトが走り出し、場合によっては最後まで決まらないというケースもまれにあるし、また、ビジネスとして考えた場合、契約時点では決まっていないといったケースは結構多い。
 このような状況を避けようとすると、フェーズマネジメントをきちんとするのがよい。そして、それぞれのフェーズでの成果物を明確に定義し、その成果物が得られるまでは次のフェーズに移行しない。
 ソフトウエアプロジェクトのフェーズは、開発方法論に依存することが多い。たとえば、ウォーターフォールモデルだと、要件定義で1フェーズ、設計〜開発で1フェーズ、テスト〜運用で1フェーズというフェーズの取り方をすることが多い。また、最近、流行の兆しがあるXPに代表されるイタラティブな開発では、イタラティブをひとつのフェーズとして考える。システムの機能に注目してフェーズを定義していくため、プロジェクトにとっても顧客にとっても分かりやすいのが特長である。
 ここで、プロジェクトマネジメントとして考えなくてはならないことは、契約をどのタイミングで行うかである。ウォーターフォールの場合、望ましいのはフェーズごとに契約を行うことである。これは最近では一般的になりつつある。イタレーションを行う場合には、イタレーションの回数をベースにして契約をすることが多い。
ワンポイント 目的なくして、プロジェクトなし
参考文献:
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