第6回(2002.12.26) 
ITスキル・スタンダード
 
◆ITSSとは
 いよいよ、2003年からITSSが本格的に走り出す。今回はITSSについて、プロジェクトマネジメントを中心に紹介する。
 ITSSは経済産業省がまとめたIT産業における人材のスキル体系である。IT Skill Standardである。同種のものは必ずしも今回が初めてではなく、過去にも高度情報処理技術者制度でも知識、スキルの標準はあったが、ITSSの特徴は2つあるように思う。ひとつは網羅的なことである。ITSSでスキル標準を定めている職種は、マーケティング、セールス、コンサルタント、ITアーキテクト、プロジェクトマネジメント、ITスペシャリスト、アプリケーションスペシャリスト、ソフトウェアデベロップメント、カスタマサービス、オペレーション、エデュケーションの11種にも上る。さらに、この中が細分化されており、全部で38種の専門分野がある。また、高度情報処理技術者の区分はある程度、技術分野で専門的区分をしているので必要な人材像と区分が必ずしも1対1に対応していなかったが、ITSSは38の専門分野のひとつひとつが人材像になっている。これはとても実践的だと思われる。
 二つ目の特徴は、レベルのイメージを明確にしている点である。詳しくは後でPMを例にとり解説するが、ひとつの職種に対して、7段階のレベルを設定し、どのレベルにあれば、どういう仕事を任せられるかをきちんと定めるとともに参考報酬レベルを提示し、イメージ作りをしている。たとえば、レベル7だと1500万円、レベル6だと1200万円といった感じである。これは一人歩きする危険性もあるが、たとえば1500万円の報酬を貰うにはどの程度のことができればよいかは企業の中にいれば感覚的にわかるはずである。その意味で、意義深いことだと思う。

 前置きが長くなったがそれでは、実際にプロジェクトマネジメントについてはどのように定められているのか見ていこう。なお、この記事では図は提示しないが、原案の図と比較した方がわかり良いと思うので、

http://www.meti.go.jp/feedback/data/i21018aj.html
 >プロジェクトマネジメント

も参考にしながら読んでいただきたい。

◆専門分野
 プロジェクトマネジメントの専門分野は5つ定められている。
 ・システムインテグレーション/アプリケーション開発/システム開発
 ・アウトソーシング
 ・ネットワークサービス
 ・eビジネスソリューション
 ・ソフトウエア開発
の5つである。システムインテグレーションは、「ITソリューションの設計、開発にかかわるプロジェクトマネジメント」、アウトソーシングは「情報システム環境の改善を通じた情報システムの効果的な運用に係わるプロジェクトマネジメント」、ネットワークサービスは、「データ、画像、映像等の通信環境の設計、導入、および管理に係わるプロジェクトマネジメント」、eビジネスソリューションは「インターネットテクノロジーを使用した業務システムの設計、開発に係わるプロジェクトマネジメント」、ソフトウエア開発は「ソフトウエア製品の設計、開発、改良、および保守に係わるプロジェクトマネジメント」と定められている。

◆レベルの規定
 これらの専門分野に対して、対応可能なスキルレベルが提示されている。
 ・システムインテグレーション:レベル3〜7
 ・アウトソーシング:レベル6〜7
 ・ネットワークサービス:レベル4〜6
 ・eビジネスソリューション:レベル6〜7
 ・ソフトウエア開発:レベル3〜6
となっている。ここがまず、注目の点である。
 レベルの定義であるが、達成度指標ということで提示されている。達成度指標は、
 サイズ
 複雑性、
 責任性
 タスク特性
の4つの項目からなっており、それぞれに規定をされている。たとえばシステムインテグレーションレベル7だと

●サイズ
 □管理する要員数500人以上、または、年間契約金額10億円以上
●複雑性
 □システム要件の複雑性(パフォーマンス要件、セキュリティ要件、など)
 □システムデザインの複雑性
 □アプリケーション要件の複雑性
 □プロジェクト体制
 □複雑な契約条件・完了条件
 □国際的なプロジェクト
●責任性
 □上記サイズ、複雑性のプロジェクト全体/全工程に対する総責任を持ち、プロジェクトを遂行した経験・実績を有する
●タスク特性
 □上記サイズ・複雑性のプロジェクトに対するプロジェクト対象の熟度、最適解の選択、プロジェクト終了までの責任
 □上記サイズ・複雑性のプロジェクトに対する期待される資源と期間内でのプロジェクト遂行、およびプロジェクト管理
 □プロジェクト終了時、顧客の経営層への満足感、プロジェクトメンバめの達成感の提供
 □後進育成、PM学会等外部団体のPMコミュニティ活動/論文執筆/講演活動等のプロフェッショナルとしての顕著な貢献/実績

と定められている。レベル6になると、この内容が変わってくる。たとえば、もっともわかりやすいサイズについていえば、

 管理する要員数50人以上500人未満、または年間契約金額5億円以上

となる。

◆スキル領域
 これらのレベルの内容を構成するスキル領域は以下のように定められている。専門分野に共通の職種共通スキルとしては
 ・統合マネジメント(プロジェクト計画策定、実施、変更管理)
 ・スコープマネジメント
 ・タイムマネジメント
 ・品質マネジメント
 ・組織マネジメント
 ・コミュニケーションマネジメント
 ・リスクマネジメント
 ・調達マネジメント
 ・リーダーシップ
 ・コミュニケーション
 ・ネゴシエーション
が規定されている。また、このほかに専門分野固有スキル項目があり、たとえばシステムインテグレーションだと
 要件定義・設計、ソフトウエア開発、システム構成管理、収支計画管理
があげられている。

◆熟達度
 では、どうなれば、そのレベルにあると認められるか?ITSSでは、「スキル熟達度・知識項目」という基準を準備している。スキル熟達度では、たとえば、システムインテグレーションのでは

 レベル7:要員数500人以上、または年間契約金額10億円以上のプロジェクトの責任者として、プロジェクト策定計画、計画実施、変更管理を行い、プロジェクトを成功裡に遂行することができる。また、当該テーマについて、学会や講演等で発表することができる

レベル6:要員数50人以上500人未満、または年間契約金額5億円規模のプロジェクトの責任者として、プロジェクト策定計画、計画実施、変更管理を行い、プロジェクトを成功裡に遂行することができる。

などと定められている。これがどのレベルにあるかの評価基準になる。また、知識項目としては、計画策定、プロジェクト計画の実施、統合変更管理、ソフトウエアエンジニアリング、文書作成、コミュニケーション、IT知識といった知識が並んでいる。

◆どのように使えばいいか
 そもそも論をいえば、ITSSの策定目的は産業育成、あるいは産業支援であるので、基本的にはこれに基づいて、育成サービスのビジネスが立ち上がり、そのサービスを利用することによって、業界に属する人がスキルアップを図っていくという、高度情報処理技術者と同じスキームである。そのため、スキル成熟度にしても、会社が従業員を評価する視点で作成してあり、個々人が自分のキャリア形成をもくろむために使うといったものではないと思われる。よく、プロフェッショナルとしての自らのキャリアアップやスキルアップの「指針」となるといったことが言われているが、少なくともプロジェクトマネジメントに関していえば、規模や要員数といったものが大きな役割を占めているので、そのような目的には使いにくいだろう。たとえば、パブリックコメントの段階であるが、「リーダーシップ」のスキル成熟度レベル7の規定は

要員数500人以上、または年間契約金額10億円以上のプロジェクトの責任者として、指揮命令し、全工程を実施することができる

というものである。これは評価の基準に使えるが、育成の基準としてはあまり有効に機能しないだろう。そのように考えると、個人レベルで何かに有効に使えそうなスタンダードではない。ただし、ITSSを導入すれば、企業が個人に何を求めているかははっきりをわかるようになるだろう。その点で、従業員満足度の向上には寄与すると思うし、また、それが引いては個人のスキルアップの意欲や、スキルアップにつながっていくことは間違いないと思われる。

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