第5回(2002.11.28) 
プロジェクトマネジメントはマネジメントである
 
◆プロジェクトマネージャーに業務経験が必要か?
 このシリーズの第1回目に、プロジェクトマネージャーのキャリアパスの話をした。この記事の反応として、「プロジェクトマネージャーに開発経験ははいらないのか、本当に技術がなくてプロジェクトのマネジメントができるのか」という疑問が多かった。この疑問に対する著者の答えはYesである。

 著者は基本的に、たとえば、ITプロジェクトのプロジェクトマネジメントがSIプロジェクトやソフトウエア開発の経験がない人にできないとは思っていない。名選手、名監督にあらずというのとまったく同じで、本質的にプロジェクトの作業者とマネージャーは役割も違うし、ものの考え方、方法論も違うと思っている。

◆実務と実務の管理は違う
 このような考え方の背後には、実務と実務の管理は違うという思いがある。確かに、自らが実務の規範を示し、引っ張っていくのがマネージャーの役割だという考え方もあるだろう。そのこと自体を否定するつもりはないし、そのためには、作業のやり方を知っている必要がある。これも事実だろう。「サーバントリーダーシップ」を推奨しているのはそういう背景がある。

 また、別の状況も考えられる。プロジェクトの作業が予定通り行かないという問題に遭遇したときに、何からの問題解決を行わなくてはならない。いわゆる火消しである。その問題を引き起こしている原因を分析し、その原因を取り除いてやるという方法もある。たとえば、スケジュールが遅れているとしよう。その場合、問題の所在がどこにあるのか?個人の能力なのか、見積もりのミスなのか、仕様の変更なのかということをしっかりと見極め、その原因に対して、適切な対処をしようとするだろう。

◆プレイヤーとし実行する、マネージャーとして実行する
 「プロジェクトマネージャーに実務経験ははいらないのか、本当に技術がなくてプロジェクトのマネジメントができるのか」という問題の論点は上の2つくらいではないかと思う。規範を示したり、問題解決を行ったりすることが実務的経験なしにできるかということである。自分でやることはできない。しかし、マネージャーとしてやることはできる。

◆「俺が俺が」
 感じることが2つある。ひとつは口でなんといっているかは別にして、エンジニアはマネジメントにも正解があると思っている人が極端に多い。もうひとつは責任感が強い。これらがよい方向に回っているときにはいいが、悪い方向に行ってしまうと、よく言われるエンジニア出身マネージャーの特質といわれる「俺が俺が」となる。著者はコンサルタントとして、優秀なエンジニア社長が社内をまとめきれず、ビジョンに共感して集まってきた優秀な人が一人、二人さって行き、家業の域を出れないままになっているベンチャー企業をいくつか知っている。「俺が俺が」が必ずしも悪いとは思わないが、そういう社長の下には自分より優秀な人がでてこないということは論理的な事実として認識する必要がある。プロジェクトでもまったく同じことである。PMが最後は自分がなどと思っているプロジェクトの典型的なパターンは、まず、マネジメントしようとしない。自分のやり方を押し付ける。あるいは、やばくなるまでほったらかしにしておく。総じて言えば、エンジニアとしての経験の方がPMとしての経験より長いPMは、メンバーを実務的(技術的)な優位性で統制しようとする傾向がある。これは職人の世界の考え方である。これが、「俺が俺が」の正体である。

◆「個人最適」と「チーム最適」
 チームで作業を行うときに、一人で作業をする際に最適な方法や、仕様がもっとも最良の結果を導くだろうというのは明らかに誤解である。5人いれば、5通りのやり方があり、その中のどれが、もっともチーム全員に受け入れやすいかを考えるのがマネジメントでもある。

 そのように考えれば、実務経験はない方がむしろよいという考え方もあるだろう。

◆「PM専門知識」はいるか
 ここでもうひとつの問題がある。それは、プロジェクトマネジメントという作業はプロジェクトマネジメントの専門的知識が必要な作業かどうかである。この問題と業務分野の専門知識は深くかかわっている。たとえば、WBSを作ろうと思えば、WBSの作り方というプロジェクトマネジメントの専門知識を持っていると同時に、業務の専門知識を持っている必要がある。だから、業務の専門知識が必要だという話になってしまう。

 昨今のプロジェクトマネジメントブームで、プロジェクトマネジメントに対する関心が高くなったことは喜ばしい限りであるが、どうも、話を聞いていると手法ありきのようなイメージを持っている人がある。つまり、PMBOKを知っていればプロジェクトマネジメントはできるだろう、P2Mを知っていればプログラムマネジメントはできるだろうと考えている人が多い。つまり、「プロジェクトマネジメント技術」の存在を信じている。
この二つを足し合わせると、エンジニアがプロジェクトマネジメントの勉強をしてPMになっていくというキャリアパスができるわけだ。

◆マネジメントありき
 ここにも誤解があるように思える。プロジェクトマネジメントの手法はどこまでいってもツールである。やろうとしていることはマネジメントである。実際に、いろいろなアンケートを見ていても、プロジェクトマネジメントの成功要因の大半は人やコミュニケーションであり、手法だというのは少数派に過ぎない。これは一般的なマネジメントとまったく同じである。プロジェクトマネジメントの研修の最初に、お約束でプロジェクトとはという話がある。有期性、不確実性、・・・というあれだ。80年代ならともかく、今の経営環境では、こんな性質を持たない仕事の方が少ないだろう。だから、エンタープライズプロジェクトマネジメントなんだという考えもあれば、一般的なマネジメントの中でその程度のことは配慮しているという考えもあるように思う。

 プロジェクトマネジメントの手法というのは、マネジメントされている状況で、マネジメントがうまく行かない場合の知恵だった。それは今でも変わっていない。ここを見失ってしまうと、プロジェクトは成功しないだろう。

◆PMではなく、マネジメントの勉強をしよう
 ひとついえることは、プロジェクトマネジメントだけではなく、生産マネジメント、技術マネジメントなども含めたいわゆる「エンジニアリング・マネジメント」がIT時代の業務連鎖により、経営レベルのマネジメントに非常に近くなっていることだ。ここをしっかりと認識しておく必要がある。

 これからプロジェクトマネージャーを目指す人は、PMBOKがどうこうという前に、まず、マネジメントを勉強してほしいと思う。PMBOKの知識領域としてマネジメントを見るのではなく、マネジメントの体系的に勉強してほしい。すると、プロジェクトマネジメントの手法なんか知らなくても、プロジェクトはうまく行くだろう
◆参考文献
好川哲人「IT人材のコンピテンシーは何か?」、ソリューションITにて連載中、リックテレコム
スポンサードリンク
読者からのコメント

■本稿に対するご意見,ご感想をお聞かせください.■

は必須入力です
コメント
自由にご記入ください

■氏名またはハンドル名
■会社名または職業
■年齢

  
このコンテンツは「プロジェクトマネージャー養成マガジン」としてメルマガで配信されています.メルマガの登録はこちらからできます.