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第4回(2002.10.24)
プロジェクトマネージャーに必要なコンピテンシー |
◆PMは知識からスキルに
前回、自己開発計画の話をした。自己開発の対象は一つは第2回で説明したような知識やスキルであるが、もう一つはコンピテンシーである。プロジェクトマネジメントのプラクティスも、ツールの発達により、知識よりスキルに重心が移ってきており、そのスキルを支えるのが経験と同時にコンピテンシーであるという位置づけを考えて貰えばよい(ただし、スキルとコンピテンシーに厳密な意味で境界線を引くことは難しい)。
◆PMコンピテンシー
そこで、今回はプロジェクトマネージャーに必要なコンピテンシーの話をする。「PMコンピテンシー」というのが注目されるようになってきたが、これはプロジェクトマネジメントに必要な能力のような意味合いが大きく、プロジェクトマネジメントOS本舗の概念でいえば、promptと呼んでいるプラットホーム全体を指している場合が多い。
もちろん、プロジェクトマネージャーはそれを習得する必要があるのだが、今回議論したいのは、もっと狭い意味でのコンピテンシーで、行動規範、行動特性である。
◆プロジェクトマネージャーの活動をどう捉えるか
プロジェクトマネジャーの活動の典型的な捉え方は、PMBOKにある 「立ち上げ→計画→コントロール←→遂行→終結」の5つのマネジメントプロセスである。この5つのプロセスで、それぞれ、9つの知識領域の知識を用いてマネジメントする。それをうまく行うために、それぞれでプロセスで必要なコンピテンシーがある。これが、プロジェクトマネジメントとコンピテンシーの関係である。つまり、コンピテンシーはプロジェクトマネジメントプロセスに依存すると考えられる。
われわれは、プロジェクトマネジメントプロセスはコンセプチャライズ、プラニング、コントロール、クロージングの4つから構成されると考えている。内容的にはPMBOKのプロセスに対応していると考えて欲しい。
◆プロジェクトマネージャーに求められるもの
コンセプチャライズプロセスでは、オーナーが何を求めているかを察知すること、受注するに当たっては、社内的な調整が必要になってくるので、ビジネスとしての採算性の判断や社内の説得などの役割が求められる。
プラニングプロセスでのプロジェクトマネージャーの役割というと、いうまでもなくプロジェクト計画を作ることである。このときに重要なポイントは、プロジェクトの将来を見越した計画を策定することと、ステークフォルダーとメンバーの間のバランスの取れた計画を策定することである。
さらに、プロジェクト作業を実施する段階に入ると、プロジェクトマネージャーは万障を排して、プロジェクトの目標にたどり着く先導役になる必要がある。そして、その障害になるものは、メンバーと協力し排除していかなくてはならない。また、何らかの理由でプロジェクトが苦境に陥った場合には、プロジェクトメンバーの心の支えになるよう、あわてず、プロジェクトメンバーを平常心に引き戻し、その苦境を乗り越えるための指示をしていかなくてはならない。
クロージングプロセスでは、そのプロジェクトで起こったことを漏れなくレビューし、それがどういうことであったか、何が起こったかをきちんと整理し、どうすれば次のプロジェクトでは起こらないかを徹底的に分析する必要がある。
プロジェクトマネジメントプロセスの中でプロジェクトマネージャーに求められる役割を整理してみると以上のようになる。
◆プロジェクトマネジャー全般的に必要なコンピテンシー
このようなマネジメント業務を行い、役割を果たすために、プロジェクトマネージャーに求められるコンピテンシーはどのようなものであろうか?
まず、プロセスに関わらず必要なコンピテンシーの最初にあげることができるのは「自信」である。不確実性が大きければ大きいほど、「自信」がないとプロジェクトマネジメントはできない。リスクがとれないのだ。このほかに、全般を通して必要なコンピテンシーには、自己の責任を明確にし、プロジェクト成果に対して責任のある行動をする「アカウンタビリティ」、メンバーを強制的に動かすのではなく、メンバーが自発的に動くように動機付けたり、導いていく「リーダーシップ」、他のプロジェクトでのレッスンラーンドを現在担当しているプロジェクトで発揮する「アナロジー思考力」であろう。
◆コンセプチャライズプロセスで必要なコンピテンシー
コンセプチャライズプロセスでは、では、これらコンピテンシーに加えて、オーナーの関心事に常に興味を持って、オーナー大切にしていく「顧客志向性」を欠くことはできないだろう。また、単にオーナーのいうことを聞くだけではなく、説得していくということも重要である。情報システムのように、プロジェクト完了後の運用一つでプロジェクトの成果の価値ががらりと変わっていくようなプロジェクトでは、特に説得ということは重要になってくる。このために、「対顧客説得性」のコンピテンシーが必要になる。さらに、プロジェクトオーナーに対してプロジェクトとして魅力のある提案をしていくためには、営業担当メンバーだけではなく、プロジェクトマネージャーの持つ創造力が極めて重要な役割を果たすと考えられる。
◆プラニングプロセスで必要なコンピテンシー
プラニングプロセスでは、計画クラスターのコンピテンシーはすべて重要であるが、中でもリスクも含めて先々のことを予見し、戦略的な目標設定をする「戦略指向性」が重要ではなかろうかを思う。もちろん、そのリスクをきちんと認識し、それを踏まえてものごとを考えたり、あるいは行動を取るリスク管理能力、ステークフォルダの利益のバランスのとれた計画をつくる「バランス感覚」も重要である。
コントロールプロセスでは、プロジェクト作業の実施に伴い発生する問題を解決する「問題解決能力」、さらにはそれを直ぐに実行に移していく「実行力」といったコンピテンシーが重要である。また、どんなことがあっても動じない「自己統制力」のコンピテンシーも大変重要になる。
◆クロージングプロセスで必要なコンピテンシー
クロージングプロセスでは、レッスンラーンドに必要なコンピテンシーが中心になる。プロジェクトで発生した問題を漏れなく洗い出して、体系的に整理していく「徹底確認力」、起こった問題を振り返り、きちんと検証する「現象観察力」、問題の因果関係を分析し、原因を追及するとともに、その原因を解消するような対策を考え、原因と対策の間の関係をきちんと分析する「分析思考力」などが求められる。
◆コンピテンシーの意味はこちら
個々のコンピテンシーの意味合いについては、「IT企業のためのコンピテンシーサイト」に「IT人材のコンピテンシーディクショナリ」というメニューがあるので、こちらを参考にして戴きたい。
◆コンピテンシーのディクショナリとスケール
プロジェクトマネージャーに求めらるコンピテンシーは以上のようなものであるが、実際に適用する際には、これらを対象企業の業務に沿ってそれぞれのコンピテンシーがどのような意味であるのかを明確にする必要がある。例えば、上の例で示したリスク管理力というコンピテンシーの源泉を考えてみると、「予見性に優れており、リスクに対して戦略的なコントロールを行い、リスク管理能力が高い」、「徹底確認力に優れ、行動が慎重であり、リスク管理力が高い」、「現象観察力が高く、ものごとを多角的に眺めることができるためにリスク管理力が高い」、「論理的思考力に優れていてリスク管理力が高い」、「アナロジー思考力が高く、経験を生かしてリスク管理をうまく行える」などいろいろなパターンが考えられる。どのような意味でのリスク管理力が必要であるかはプロジェクトマネジメントの分野、クライアント、自社の価値観などによる。
さらに、これらの意味がはっきりしたところで、スケールを明確にしてやる必要がある。つまり、行動指標を示すのである。一つの典型的なコンピテンシーレベルを「IT企業のためのコンピテンシーサイト」に掲載するので参考にしていただきたい。
(次回の「プロジェクトマネージャーへの道」は11月28日配信予定です)
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◆参考文献
好川哲人「IT人材のコンピテンシーは何か?」、ソリューションITにて連載中、リックテレコム |
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