第3回(2002.09.26) 
プロジェクトマネージャー自己開発プロセス
 

◆プロジェクトマネージャー育成は個人の問題
 プロジェクトマネージャーの育成というと、役割の性格上、企業の取り組みとして語られることが多い。しかし、プロジェクトマネージャーの仕事を考えてみると、企業で必要な能力を開発できないこともある反面、個人が自ら開発していかなくてはどうしようもない部分が多いことも事実である。そのように考えると、プロジェクトマネージャーの育成は個人が自分に対する責任で、企業の仕事とと折り合いをつけながら行うことにより始めて実施できるものであると考えることができる。
 今回は、個人が自身をプロジェクトマネージャーとして開発していくにはどうすればよいだろうかという点を議論したい。
 プロジェクトマネジメントOS本舗では、各個人がどのようにプロジェクトマネジメントオペレーションシステムの獲得に取り組むかという観点から、
 ステップ1:プロジェクトマネージャーとしてのビジョンの設定
 ステップ2:自己開発戦略の策定
 ステップ3:自己開発課題の分析
 ステップ4:自己開発計画の策定
 ステップ5:自己開発サイクルの実践
という5つのステップからなるプロセスを提案している。以下では、この一つ一つのステップを説明していきたい。
 このプロセスは、プロジェクトの中でプロジェクト活動の経験を積んだ人が、プロジェクトリーダー、あるいはプロジェクトマネージャーを任されたときに困らないような準備するということを想定したものになっている。従って、例えば、プロジェクトに参加した経験がない、あるいは、経験はあるがプロジェクト活動のイメージが希薄な方については、まず、プロジェクトに参加し、プロジェクトとは何かを体験的に理解していただくことが先決となることを最初にお断りしておく。

◆ステップ1:プロジェクトマネージャーとしてビジョンの設定
 自身にとってのプロジェクトマネジメントの「あるべき姿」、あるいは「プロジェクトマネージャーとしてのあるべき姿」を描く。ここは、目標を決めるという意味で、最も重要なプロセスである。
 「あるべき姿」は「顧客に信頼される」、「メンバーとフラットに付き合う」いった抽象的なものでもよいし、「ソフトウエア開発の分野で、100人月程度のプロジェクトの管理」といった定量的なものでもよいだろう。
 「あるべき姿」は、過去に参加したプロジェクトのプロジェクトマネジメントが規範になることもあるかもしれないし、そのプロジェクトの中で自分ならこうするということを考えてきた思いの集約になるかもしれない。また、過去に参加したプロジェクトマネージャーがそのままロールモデルとして「あるべき姿」になるかもしれない。
 何よりも重要なことは、このステップはある日突然、思い立って、立ち止まって考えるという性格のものではないことである。日々のプロジェクトの中で、常にこのことを頭に置き、実施をする必要がある。

◆ステップ2:自己開発戦略の策定
 「あるべき姿」が見えてきたら、次に、戦略策定を行う。自己開発戦略は、あるべき姿に到達するための道筋であり、プロジェクトマネジメントOSでは、自己開発戦略の策定は6つの視点から策定することを推奨している。
(1)プロジェクトマネジメントの経験によるノウハウの蓄積
 プロジェクトマネージーになっていくのに、何よりも大切なことは経験である。プロジェクトリーダーあるいはプロジェクトメンバーとしての経験を積んでいく必要がある。ただし、留意すべきことは、意識付けのない経験は経験にならないということである。つまり、プロジェクトの中で言われたことを漠然と実行しているだけでは経験にならない。重要なことは、自分の「あるべき姿」を常に念頭において自分の意思で行動することである。プロジェクトマネジメント作業はプロジェクトマネージャーだけが行う作業ではなく、プロジェクト全体のコラボレーションである部分が多い。コラボレーションを行う際に、自分の意見を出して行き、その結果を経験として蓄積していく必要があるだろう。
(2)新規プロジェクトの企画への参加
 プロジェクトマネジメントの中でメンバーが見えにくいのは、PMBOKでいう立ち上げプロセスである。具体的な計画になるとある程度メンバーに分担が課せられることも多く、自然に経験できるが、立ち上げプロセスに参加するには、自主的に新規プロジェクトへの参加を希望するなどしないと経験するのは難しい。社内の人事制度、公募制度などを活用して、参加していけばよい。
(3)レッスン・ラーンドによるフィードバック
 レッスン・ラーンドの際に、プロジェクトチームとしての視点だけではなく、個人としてどうであったかという視点を持っておくことが重要である。そのためには、ただ単に、自分の判断だけではなく、プロジェクトマネージャー、プロジェクトチームの共同作業者などからの評価を受ける必要があろう。また、評価を受けたら、通常のレッスン・ラーンドと同様に原因の分析を行うことが大切である。
(4)学習とトレーニング
 前回に説明したとおり、プロジェクトマネジメントにはかなりテクニカルな部分がある。誤解を恐れずいえば、プロジェクトマネジメントによって採算を確保するのはテクニカルな手法であり、利益を生み出すのが経験である。
 テクニカルな部分は、専門書を読む、セミナーを受けるといった手段で獲得していくしかないだろう。幸い、プロジェクトマネジメントの書籍は研修はたくさんあるので、うまく選んでいけばよい。
(5)シミュレーション
 プロジェクトマネジメントの本を読むとかならず、「身の回りのプロジェクト」という説明が出てくる。プロジェクトというのはある意味ではものの味方の問題であるので、日常生活の中でもプロジェクトはたくさんある。結婚は人生最大のプロジェクトかもしれないし、子供を育てるのは壮大なプロジェクトである。また、2泊3日の家族旅行でも立派なプロジェクトである。
 このような身の回りの活動を、プロジェクトマネジメントという意識で行っていく。これは現実的であり、プロジェクトマネジメントのセンスを身につけるよい方法であろう。
(6)メンター
 プロジェクトマネージャーとしての第一歩を踏み出したら、プロジェクトマネージャーとしてのプロジェクトマネージャーになるにはメンターの役割が非常に大きい。プロジェクトマネジメントはリスクのマネジメントであると言われるくらい、リスクマネジメントは重要である。厄介なことはリスクマネジメントはいくら本を読んでもおそらくできるようにいならないことである。臨場感や経験がかなり重要な役割を果たす。ところが、リスクの経験の中には、成功だけではなく、失敗経験が重要である。そのときに、プロジェクト全体で辻褄が合えばよいというスタンスでプロジェクトマネージャーの判断を支援してくれるメンターの役割は大切である。もちろん、メンターには、判断に対する助言をするという機能もあり、その意味でも重要なことはいうまでもない。

◆ステップ3:自己開発課題の分析
 戦略が見えてきたら、その戦略に則り「あるべき姿」に到達するために自己開発の課題を設定する。前回説明したように、プロジェクトマネジメントOSではプロジェクトマネージャーの必要な能力を知識、スキル、行動と分けている。3つに分類することは「あるべき姿」に関わらず、一般的であると思われるので、それぞれについて考えていけばよいだろう。
 実際問題として、この分析は相当難しい。この分析ができるのであれば、すでにプロジェクトマネージャーが十分に務まるといってもよいかもしれない。従って、実際の行動としては、ステップ1で「あるべき姿」が固まった段階で職場の周囲のプロジェクトマネージャーに相談してみるといった工夫が必要になるだろう。また、社内でスキルマップ、コンピテンシーなどの取り組みがあれば、そのような制度をうまく利用することも必要である。

◆ステップ4:自己開発計画の策定
 課題が明確になったら、その課題に取り組み計画を作る。計画の策定に当たって最も重要なことはリスクの見極めである。特に個人の計画は、勤務先の都合がリスク要因になる傾向がある。また、個人の計画はいかにも融通が効くような錯覚に陥りがちであるが、逆である。緩衝材になるものがないからである。これらの点を中心にきちんとリスクを計画することが重要である。

◆ステップ5:自己開発サイクルの実践
 開発計画に従い、実際に取り組んでいく。重要なことはステップ4で策定した計画に基づいて進捗管理をきちんと行うことである。同時に、自分自身の環境が変わるなどの理由で計画を変更する必要もあるかもしれない。また、計画がうまくいかないリスクも考えなくてはならないだろう。そのようなことを踏まえながら、PDCAのサイクルを回していく必要がある。

◆最も重要なこと
 ここまで来るとお分かりだと思うが、最も重要なことは、このプロセスの目標は一人前のプロジェクトマネージャーになるという目的に向けた「プロジェクト」であるということを理解しておくことである。
 従って、この自己開発のプロセス全体がプロジェクトマネジメントのトレーニングになるということであり、うまくこのプロセスを実行できたとすれば、その段階でプロジェクトマネージャーとしてはかなり高いレベルにいる。もっといえば、このプロセスは、自己開発の戦略課題の一つ一つをプロジェクトとするマルチプロジェクトマネジメントのプロセスでもあり、マルチプロジェクトマネジメントの経験にもなる。
 その点をしっかりと意識して取り組んでいけば、間違いなく成果を挙げることができるだろう。

◆宣伝
 プロジェクトマネジメントOS本舗では、このステップに基づくプロジェクトマネージャー自己開発支援サービスを行っています。ご興味のある方は、プロジェクトマネジメントOS本舗 好川(info@pmstylejp)までお問い合わせください。

◆参考文献
熊平美香、加島禎二「リーダーシップを磨くための4つのステップ」、Think! No,2, p106-112(2002)
スポンサードリンク
読者からのコメント
2003年末にあたり、2004年のMBO設定に向けて本記事を再読してみました。「プロジェクトマネージャー育成については個人の問題」としてマネジメントするべき「プロジェクト」であるという点には全く同意します。これまで漠然としていたステップ1〜5を具体的にして実施すればいいでしょう。ただし、このプロジェクトのステークホルダーとして、自分が参加しているプロジェクト・メンバー、勤務先もうまくマネジメントしないと成果は得られないのではないでしょうか。 Cnookz(28歳・医薬品開発)
おっしゃるとおりだと思います。 好川哲人

■本稿に対するご意見,ご感想をお聞かせください.■

は必須入力です
コメント
自由にご記入ください

■氏名またはハンドル名
■会社名または職業
■年齢

  
このコンテンツは「プロジェクトマネージャー養成マガジン」としてメルマガで配信されています.メルマガの登録はこちらからできます.