第26回(2004.06.24) 
物語を語れるプロジェクトマネージャーになろう(1)
 

◆物語とはなにか
 前回、物語の語れるプロジェクトマネージャーになろうという話をした。今回は、物語とはなんだろうかということを考えてみる。

 その中で、松岡正剛氏の名前を出したが、日本人で物語といえば真っ先に彼の存在が浮かんでくる。稀代の語り部である。その松岡正剛氏が千夜千冊というWebページをやっている。文字通り1000冊の本を紹介しようという遠大な試みである。決して量でこけおどしをしようとしているのではない。一つ一つの記事は恐ろしく、内容が濃い。
 その577回に1991年に松柏社から翻訳がされたジェラルド・プリンスの物語論辞典を取り上げ、この本の用語を使って、物語とは何かを書いた記事がある。

 http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0577.html

 この中から当該部分の一部を引用してみる。

=====(引用)
 物語(narrative)は基本的には語り手(narrator)が聞き手(narratee)に伝える物語内容(content)と物語言説(discourse)から成り立っている。内容は「何かと誰か」の語り、言説は「いかに」の語りである。
 その内容と言説は物語の複雑多岐性はどうであれ、それなりの物語枠(frame)をもち、物語軌道(narrative trajectry)に乗っている。これが物語の「世界」(diegesis)である。聞き手はこの世界の提示を了解し、これから始まる物語を一貫した出来事の集積であることを受け入れる。つまりその物語には終わり(coda)があることを理解する。
 語り手は多くのばあい、俯瞰的な目をもつ全知的な語り手(omniscient narrator)と、その場その場を遍在的な語り手(omnipresent narrator)の視点を使い分ける。この語りの使い分けでいよいよ物語の展開(story)が始まる。
=====(引用終わり)

◆プロジェクトマネージャーが物語をする意味
 プロジェクトマネージャーが物語を語ることの最初の意味はここにある。プロジェクトマネージャーはプロジェクトの一員であると同時に、時として、第三者である必要がある。つまり、一メンバーとして場面場面の判断を伝えると同時に、すべてのステークホルダを俯瞰し判断をする必要があるのだ。その判断をメンバーに伝える方法として、物語という方法が適している。

 なぜなら、このような発言や行動は「当事者でない」、「人事だと思っている」と受け止められることが多く、説得性にかける。しかし、このような俯瞰することができないとプロジェクトマネージャーという役割はまず、勤まらない。そこで、物語という手法を使って、自分に代わる主人公を仕立てあげ、その主人公を中心にした内容と言説をつくり、俯瞰的な判断を伝えるのだ。言い換えると、自分も含めたチームとしての行動規範を物語という形で表現することができる。これが物語を使うことの最初のポイントである。

 さらに、もう少し、松岡氏の文章を引用してみる。

=====(引用)
 ストーリーは時間的な推移をもつ因果的な筋書きのことで、その ストーリーの中にさまざまなプロット(plot)とエピソード(episode)がある。
 プロットはもともとは「罠」をあらわす言葉だが、このプロットに何を選ぶかによってストーリーは変幻自在な様相を呈する。クレインは「行動のプロット、性格のプロット、思考のプロット」があるとみた。プロットとは別にスクリプト(script)がある。スクリプトは台本を意味するように、特定の場面や人物に与えられた指図のことで、「レストラン」のスクリプトには客、ウェイター、レジ係、マスターなどが指図される。
=====(引用終わり)

◆物語とシナリオ

 物語で伝えられるものは、時間の推移するシナリオである。プロジェクトという物語の中で、プロットはリスクに相当する。つまり、プロジェクトの推移とリスクを物語として語らなくてはならない。ここで、重要なことがある。それは、シナリオと物語りは基本的に異なるということだ。シナリオは状況の描写であり、基本的に自分たちがどのように行動すべきかを表現するものではない。これに対して、物語は、登場人物に託し、スクリプトとしてどのように行動してほしいかを表現できるのだ。ここが物語を使うことの第2のポイントである。

 さらに、物語にはエピソードがある。エピソードは一見周囲の物語事情から自立しているように見えるイベントのことである。エピソードはここぞという場面で、チームをそのように動かすために有効である。

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