第25回(2004.06.17) 
物語を語れるプロジェクトマネージャーになろう(1)
 

 前回、コンテクストをマネジメントするという話を書いた。マネジメントの基本はロジカルシンキングであることを考えると、コンテストを細分化し、細分化されたコンテクストに対して何らかのマネジメント行動をとるというイメージを持たれた方もいるかもしれない。しかし、著者のイメージはそうではない。

 実は、コンテクストの話は伏線がある。それは、最近、マネジメントの手法として注目されるようになってきた「物語」である。日経ビジネスAssocieの2004.07.06号に面白い特集記事がある。「物語力」とはという特集である。
 「ついに、来たか」
と思った。この特集の中に、米国で「マッキーストリーセミナー」という有名な講座をやっているコンサルタントロバート・マッキーのインタビューが掲載されている(ちなみに、紹介肩書きは、「脚本養成家」となっている)。

 最初に彼のインタビューの一部を抜粋する。

=====(日経ビジネスAssocie2004.07.06 p91より引用開始)
 「古来、説得法は2種類あります。「レトリック」(論理を使った弁論術)と「物語」です。レトリックは事実、数字、専門家のコメントなどを駆使し、論を組み立てます。典型的なのはPowerPointのプレゼンテーションです。「私の言っていることは正しい。なぜなら、この事実、この数字、この専門家のコメントが示しているから」という具体に進めていきます。聞き手の知性、頭脳に訴えるやり方ですね。
 しかし、レトリックには欠点があります。聞き手には聞き手なりに、自分の事実、数字の分析を持ち、自分の見方をサポートする専門家を抱えています。あなたがレトリックを使えば、聞き手は彼らの事実、数字、専門家を揃え、あなたに反論します。その結果、彼らの説得は難しくなってしまいます。
=====(引用終わり)

このコメントを読んで共感する人は多いのではないかと思う。もう一つ、ぴんとこない人は、専門家のところを「もっとも力のあるステークホルダ」に置き変えてみるとよいかもしれない。

この話のポイントは、ロジカルシンキングというのは、相手の知性に訴えるやり方だという指摘。相手のスタイルが知性重視でなければ(たとえば、体育会系)、説得は、単なる「戯言」になる。

 僕が物語りに注目するようになったのは、まさに、このマッキー氏のインタビューにある点である。意外だと思われるかもしれないが、きっかけは神戸大学のMBAのコースで勉強をしているときだ。恩師である金井壽宏先生のゼミの中で、フィールドワークのセッションがあった。その中で、先生は、雑談っぽく、松岡正剛氏との交友関係を語られ、「経営学の中に物語って必要だよね」という話をされた。これがきっかけだ。

 金井先生は、フィールドワークによって得られる臨床知を非常に重視されている研究者であり、その先生がエスノグラフィーとしての物語を重視されるのは非常によく分かる。また、現在の経営環境において、そのようなアプローチがいかに重要かは、この10年くらいの先生の活躍が物語っていると思う。

 話は変わるが、養老孟司先生の「バカの壁」がいまだに売れ続けているらしいが、養老孟司先生の言われるバカの壁とは

 自分が知りたくないことについては自主的に情報を遮断してしまっている壁

のことで、プロジェクトにおいては、メンバーのバカの壁というのが、明らかに、プロジェクトマネジメントの阻害要因の一つになっている。これなども、臨床知が必要な社会環境になってきているというところに共感を生んでいる理由があるように思う。

 ちなみに、著者は、AllAboutJapanのコラムに、「バカの壁を破るには、エスノグラフィーだ」という記事を以前、書いたことがあるので、興味がある人は読んでみてほしい。

 バカの壁を破るエスノグラフィー
  http://allabout.co.jp/career/swengineer/closeup/CU20031204W/?FM=bg

 何が何だか分からなくなってきたかもしれないが、もう少し、話を膨らませる。

 話は戻って、金井先生が松岡正剛氏の話をされたときに、経営学のグルの一人で、経営戦略論に強烈は批判をし続けているヘンリーミンツバーグの

 マネジャーの仕事

という本を紹介された。この本は、マネジャーの仕事の綿密なフィールド観察を行い、理論とのギャップをあぶりだし、ギャップをなくす提案をしている本である。ラインマネージャーについて書かれた本であるが、PMBOKは使えないといっているプロジェクトマネージャーにこそ、意味のある本かもしれない。

 この本と、どれとは言わないが、最近、増えている物語風に書かれているプロジェクトマネジメント本を一冊読み比べてみれば、いかに、物語が重要かがわかる。

 物語を使うとは、自分の主張の表現のレトリックにとどまらない。というか、そのような目的で書かれた物語は、「臭くて」読めない。論理だけが鼻につくからだ。

 著者の好きな建築家ミース・ファン・デル・ローエの言葉に「神は細部に宿る(God is in the details)」という有名な言葉がある。ローエの名前は知らなくても、この言葉はものづくりやネットワーキングの経験のある人なら聞かれたことがあるだろう(この言葉はローエのものではないという説があるくらい、一人歩きしている)。この細部を語るにこそ、物語なのだ。

 マネジメントの本質もここにある。大筋を見誤らないことは大切だし、大局観も大切だ。これらはいずれもロジカルシンキングで可能だ。しかし、細部をうまくマネジメントしない限り、「実行」できない。著者が、物語に興味を持った理由は、「実行」、「行動」のマネジメントのツールとしてである。細部をマネジメントするには、物語が必要だ。マッキーが述べているとおり、ロジカルシンキングでは限界がある。日経ビジネスAssocie流の言葉でいえば、「物語力」を持つことが必要だ。

 言い換えると、「計画」するにはロジカルシンキングが必要だ。「実行」するには、物語が必要だ。プロジェクトマネジメントというものの性格を考えると、ロジカルシンキングと物語の両方を合わせた問題解決力を身につけないとプロジェクトマネージャーとしては成功できないだろう。

 長くなってきたので、今回は、ここまでにする。以下、次回に続く。

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読者からのコメント
示唆に満ちたアイデア、いつも参考にさせていただいています。

「物語力」、日経アソシエを見たとき私も「ついに来たか!」と半反射的に躍動感が走りました。プラントエンジニアリング会社に勤めて丸10年の仕事の中で、常にストーリーを作ることを意識して来ました。特にプロジェクトマネジメント部門に移ってからはその意識がより強くなり、日々研鑚を重ねています。
日本、欧米、東南アジア、中国・・・人種が違えば文化・価値観が異なり論理も異なります。無理に理詰めで説得する手法は返って軋轢を生むことも多々ありです(苦い経験多々あり)。しかしストーリーで語る際、主張がスムーズに受け入れられ、双方ともに目標に対するモメンタムが高まることが分かって来ました。
公私を問わず、好んで「ストーリー」・「説明能力」という言葉を使っています。そしてつい最近になってこの2つの言葉は道義であることに気付きました。相手に分かりやすい説明をして、目標・目的を正確に理解した上で仕事をしてもらえるように導く能\力はストーリー作成能\力と同じです。
相手ばかりではありません。駆け出しプロジェクトエンジニアである私が仕事に対する理解度を高め、プロジェクトを成功に導く主体となるためには、目標・目的を達成するまでの各ステップをストーリーとして自分に語りかけて、納得させる能\力が必要です。
(自分に対してストーリーを作ることは、相手に対して行う場合よりも格段に難易度が高いと感じています。ごまかしが効きませんから)。
「物語を語れるプロジェクトマネージャーになろう」・・・まったく同感です。私もそうなりたい。今後も貴殿のアイデアを参考にさせていただき、仕事に活かします。

追伸
近藤哲生さんの本、大変面白く読みました。
社内・外を問わず、数多の利害関係者の協力を集めるには「物語力」は絶対的に必要な要素ですね。
りょう(34歳・プラントエンジニア)

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