第22回(2004.05.27) 
プロジェクトは誰のもの?
 

◆プロジェクトは誰のもの?
 1週間前に、「プロジェクトマネージャーへの道」にプロジェクトマネージャーをキャリアアイデンティティにしようという話を書いた。この記事への直接のフィードバックは少なかったが、この1週間の間にお会いした方からはいろいろなコメントを戴いた。
 コメントの中で多かったのは、キャリアアイデンティティだと考えるようになると、今でも勝手にやっているのがますますひどくなるのではないかというものだ。この考えの根底には、

 プロジェクトは誰のものかが整理されていない

ことがある。つまり、ガバナンスの問題だ。

◆ラインマネージャーとプロジェクトマネージャーは違う
 ということで、プロジェクトは誰のものかといわれるとあなたはどう答えるだろうか?きっと、プロジェクトマネージャーなのか、PMOのスタッフなのか、ラインマネージャーなのかで違う。
 ライン組織のマネージャーの場合は、昔からよく言われるように、まず最初は前任者の方針を引継ぎ、継続性を持たせる。その中で、前任者の行ってきたことの評価も含め、自分としての方針を見定め、準備をする。2年目で方向の打ち出しと足固めをし、3年目に自分の色をつけて後任者に渡す。そうすると、後任がもう1年は自分の方針でやってくれ、3年間自分のやり方で業務が実行され、うまくできていれば成果がでる。
 どんな組織でもさらに上位者がいるので、厳密な議論はともかく、その組織のガバナンスはマネージャーにあると考えてよい。
 問題はプロジェクトマネージャーの場合だ。理論的にはすっきりしている。プロジェクトというものがあって、プロジェクトマネージャーもステークホルダなのだ。ここを見落として、ラインマネージャーと同じに考えている人が多い。実際のところ、プロジェクトマネージャーとラインマネージャーが重なる場合が多いのも一因になっているのだろう。しかし、ラインマネージャーは組織の長として、組織に対する一定のガバナンスは持つが、プロジェクトマネージャーはプロジェクトのガバナンスを持つわけではない。
 つまり、プロジェクトマネージャーが一国の主として振舞っているとしたらそれは明らかな錯覚である。

◆プロジェクトマネージャーは社長に似ている
 企業組織の中で、プロジェクトマネージャーの立場に最も近いのは社長(やボードメンバー)である。もちろん、株式公開をしている企業に限った話であるが、社長はガバナンスを持っているようで、実質的にはあまり持っていない。むしろ、株主やメインバンクのマネジメントにマネジメント業務の中心がおかれる。
 もちろん、社長もプロジェクトマネージャーが、会社やプロジェクトの意思決定の最高責任者であることは間違いない。問題は、その背景である。ラインマネージャーであれば、ミドルマネージャーが株主の利益までを考えて意思決定することは珍しいし、それが組織の仕組み上よいことだとも思えない。したがって、純粋に、自分は何をしたいか、顧客にとってどうか、どうすれば成果が最大化できるか、といったことをよりどころに、純粋に業務上の判断で意思決定できる(現実にはヒラメと揶揄されるようなマネージャーも多いが、、、)。しかし、社長の意思決定になると、株主がどう考えるか、銀行がどう考えるか、証券会社がどう考えるかといった方がより重要な問題になる。また、ボードが業務組織に対して指揮命令系統を持っている企業は少ない。

◆プロジェクトマネージャーの経営的役割
 プロジェクトマネージャーはラインマネージャーになったようなつもりで、自分のやりたいやり方で成果を出せばよいと考えるが、そんなことはない。EPMを導入している企業ですら、メンバーに対する指揮命令系統を与えている企業はまれであるし、評価を含めた人事権を与えている企業はほとんどないだろう。そのような中で、目標を達成しなくてはならないのがプロジェクトマネージャーなのだ。
 この立場はボードと酷似している。プロジェクトマネージャーのプロフェッショナルになろうというのは、一匹狼的に、常に自分のやり方でプロジェクトの成功請負人になろうと言っているわけではない。自分に与えられた環境をきちんと分析し、その場に適したやり方でプロジェクトを成功させることのできる人になろうといっている。
 以上が前回の記事のフォローであり、また、冒頭に述べたコメントを戴いた方へのメッセージである。なお、ガバナンスの問題は最近重要さを増してきているので、少しずつ、戦略ノートと、pmstyle.com でお話していきたい。

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