第2回(2002.08.28) 
プロジェクトマネージャーに必要なスキルを鳥瞰する
 

◆PMP試験に見るプロジェクトマネージャーの必要スキル
 最初に一つの具体的な例として,世界で最も保有者が多いプロジェクトマネージャー認定資格であるPMIのPMP(Project Manager Profossional)についてその受験資格を眺めてみよう.
 今年から少し変わったが,PMI東京のホームページを参考にしてまとめてみると,まず,カテゴリー1と2がある.これは大卒者と高卒者の違いである.とりあえず,カテゴリー1(大卒者対象)を見ると

 ・過去6年間の間に3年以上のPM経験,PM実施経験が4500時間以上
 ・PM実施経験期間が通算で36ヶ月以上必要
 ・35時間以上のPMに関する教育研修を受けたこと

の3つである.これが高卒者の場合だと,経験時間7500時間以上,60ヶ月以上となる.
 これを見ても,大学で身につくビジネスに対する一般常識と思考/行動スキル,PMの
経験で身につく経験知識,PMBOKで取り上げられている専門知識の4つが要求されていることが分かる.ここで注目したいのは,今年から35時間のPMBOKの研修が受験要件に含められたことである.PMPはもともとPMBOKに基づくプロジェクトマネジメントの知識を問う試験資格であり,試験の趣旨からすればわざわざ研修を受けるというのは不思議である.どういう経緯でそのような資格になったのかは著者は知る立場にないが,普通に考えるとやはり,このことはPMBOKに運用的要素,つまり,手法のノウハウがかなり出てきており,それを体系的に学んでおかないとPMBOKの運用はままならなくなってきたことを意味しているように思える.

◆プロジェクトマネージャーに必要なスキル
 PMPだけではなく,プロジェクトマネージャーの必要能力論争というのは段々ヒートアップしてきている.今回はプロジェクトマネージャーにはどのようなスキルが必要かを整理してみたい.プロジェクトマネージャーへの道のりのマイルストーンが見えてくれば幸いである.
 プロジェクトマネジメントOS本舗のホームページを見ていただくと,promptというスキームがある.promptでは,プロジェクトマネージャーのスキルを3つの階層に分割している.今回はこれをベースにして議論していく.
 promptでは一番上は,プロジェクトマネジメントエンジン,二番目がプロジェクトマネジメントテクノロジーライブラリ,三番目がプロジェクトマネジメントOSである.プロジェクトマネジメントエンジンは,PMBOKに代表されるプロジェクトマネジメントプロセスである.プロジェクトマネジメントテクノロジーライブラリはマネジメントプロセスを円滑に進めていくためのさまざまな手法,知識である.三番目のプロジェクトマネジメントOSは,そのような手法,知識を使いながら,プロジェクトマネジメントプロセスを円滑に運営していくに当たって基盤能力になるものである.promptでは,これを戦略ノートNo.12で解説したように,スキル,ビヘイビア,プロセスコントロールの3つに分けている.

◆プロジェクトの進め方
 さて,このようなアーキテクチャーを考えた場合,それぞれの階層で何を押さえておかなくてはならないのだろう.
 まず,知らないと手も足も出ないのは,プロジェクトの進め方である.プロジェクトのライフサイクル,つまり,プロジェクトの立ち上げ,計画,実施,終結流れの中で,マネジメントは何をしなくてはならないかをしっかり押さえておくことである.例えば,PMBOKに準拠してマネジメントをするのであれば,プロジェクトの立ち上げ,計画,コントロール,遂行,終結という流れを作る.そして,例えば計画であれば,さらにスコープを計画し,要員と資材の計画をし,スケジュールの計画をし,品質を計画し,リスクを計画する.そして予算を策定するという流れである.もちろん,PMBOKでは,それぞれのマネジメント作業をどのような手法を使って行えばよいかまで示しているわけだが,最低限,流れだけ押さえておけば,最低限のプロジェクトマネジメントはできるだろう.

◆手法
 ただし,マネジメントをより適切に,より合理的に,より高度に行うためには,やはり手法が必要になる.例えば,PMBOKのプロセスであれば
 ・WBSを使って,必要な作業を漏れなく洗い出す
 ・OBSを使って,組織を計画する
 ・PERTを使って最適なスケジュール計画を立てる
 ・類似見積もりや係数見積もり,ボトムアップ見積もりといった見積もり手法を使って適切な見積もりを行い,適切な予算を作る,
 ・ファンクの方法といったリスク評価手法を用いて,リスクの見積もりをし,適切なリスク対策計画を策定する
 ・EVMSを使って,進捗状況を評価する
などである.

◆ツールを使うために
 手法にはピンからキリまであるが,とりあえず,最も基本的なのは上に示した程度であろう.逆にこのくらいは理解しておく必要がある.これらの手法で出てくる処理や計算はツールを利用すれば自動的にやってくれる.その意味であまり意識しなくて使うことができるが,使いこなすためにはやはり手法を知っておく必要がある.例えば,MS Projectを使うとすれば,上に述べた手法の概要や意味は知っておく必要がある.

◆ノウハウと種類
 さて,事態をややこしくしているのは,これらの手法の利用にもノウハウがあることである.例えば,WBSを使ってスコープの定義をするとしよう.これは一見誰にでもできるが,WBSのワークパッケージの取り方で,マネジメントの精度も変わってくるし,マネジメントコストも変わってくる.これを最適化するというのは,ノウハウの領域の話になる.
 さらに,ここでもっとややこしいことは,われわれが普段ノウハウという一言で片付けているものの中には,実務経験に依存して獲得できるものと,実務経験では獲得できないものがあることだ.特に,不確実性のある環境の中で計画を立て,進めていくという作業では,後者が大きな比重を占める場合が多い.

◆ノウハウを獲得するには経験
 経験で獲得できるノウハウを獲得するには,当たり前の話であるが,経験を積むしかない.メンタリングを実施するなど,単に盗んで覚えるのではなく,学習的配慮をすることにより,経験を積む速度を速めるといった工夫は可能であろうが,座学で身につくものではない.ただし,この類の知識はいずれは手法(スキーム)になる可能性はある.
 また,最近の風潮として,ナレッジマネジメントが学習と密接に連携するようになってきている.つまり,誰かのノウハウを,ナレッジとして共有し,それを他の人が学習するということが真剣に考えられるようになってきた.一種のメンタリングだが,組織として同じノウハウを獲得できる点が興味深い.このような仕組みができれば,これを使ってもノウハウの獲得はできるようになるだろう.

◆経験では獲得できないノウハウ
 問題は経験では獲得できないノウハウである.従来はこれは先天的なものとして考えられてきたが,コンピテンシーなどの研究の成果で最近では必ずしもそうでもないと認識されるようになってきている.つまり,トレーニング可能なものだと認識されている.これらを構成する正体は,一つは思考スキルである.これは問題解決,思考力や問題発見などのトレーニングをすることにより身につく.二つ目はリーダーシップやコミュニケーションといったビヘイビアである.これもプログラムが存在する.三番目は指導力,あるいはメンバーに対する支援能力である.これも最近ではコーチングやプロセスコンサルティングのスキルとして身につけることが可能だと考えられている.

◆標準化とノウハウ
 もちろん,このようなトレーニングによって経験では獲得できないノウハウがすべて身につくとは思えない.しかし,身につかない部分は,「個人差」として片付くようなレベルに収まる可能性は高い.なぜなら,マネジメントプロセスや手法を標準化していれば,ここだけが残された個人差で,それは極めて小さいと予想されるからだ.そして,この個人差は優劣ではなく,おそらく,プロジェクトのタイプによって求められるプロジェクトマネージャーの特性の違いに対応する個性になるのではなかろうか.

◆PM資格を受験される方のための入門書
(PMP)
プロジェクトマネジメント国際資格の取り方,生産性出版

(P2M)
めざせ!P2Mプロジェクトマネジャー,日本能率協会マネジメントセンター
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