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第15回(2004.01.12)
あなたはディシプリンを持っていますか? |
◆ディシプリンとは
もし、あなたがこれからプロジェクトマネージャーとして従事するプロジェクトで、何か一つだけやりとおすとすれば何をしますか?
ディシプリンという言葉があるが、あなたのプロジェクトマネージャーとしてのディシプリンは何か?以前、編集後記に書いたことがあるが、ディシプリンという言葉がなかなか適切な日本語が見つからない言葉であり、辞書を引くと
訓練、修養、自制心、規律、しつけ、(学問の)専門
というような単語が並んでいる。使われる文脈にもよるが、ディシプリンという言葉のイメージはこれらを統合したようなものだろう。例えば、トヨタの社員には共通のディシプリンがあると思うし、ソニーの社員にもあると思う。内定な概念なのだが、単に考えるとか、思うとか、感じるではなく、もっと「鍛錬的」に得られるもの。
プロジェクトマネジメントOS本舗が目指しているのは、学習するプロジェクト、自律型組織であるが、この分野では、ピーターセンゲが5つのディシプリンというのを示している。ディシプリンのイメージの参考もなると思うので、簡単に紹介しておこう。
◆学習する組織の5つのディシプリン
(1)個々人が向上心をもち、自己研鑽を図る(パーソナルマスタリー)
(2)組織内のあらゆる人間が共有する事業・企業の将来像、リーダーが個々人と継続的に対話ーを重ねて普及させていく(共有ビジョンの構築)
(3)共有ビジョンの実現のために、意見交換とディスカッションを重ねながら、一致協力してチームの能力向上していく(チーム学習)
(4)人々の間に共有化されている固定的・硬直的なものの見方を是正していく(メンタル・モデルの克服)
(5)様々な事象や問題が、時間・空間を隔てながら相互に関連し合い、システムとして密接に結びついているという前提に立つ思考をする(システム思考)
「最強組織の法則」
つまり、組織(の構成員)が、この5つを規律として行動すれば、学習する組織になっていくという意味でのディシプリンである(日本語では、原則と訳されている)。このように整理してしまえば簡単に見えるが、組織がこのディシプリンを持つには、このディシプリンをマネージャーやメンバーのスキル、心構えに落とし込み、反復的な獲得訓練や鍛錬が必要だ。いろいろな取り組みをして、少しずつ、作り上げていく必要がある。
◆プロジェクトマネージャーのディシプリン
さて、そこで、もう一度、プロジェクトマネージャーのディシプリンである。プロジェクトマネージャーのディシプリンとは、プロジェクトの目的を達成するためのプロジェクトマネージャーとしての行動原則だと考えて欲しい。
著者のディシプリンは非常に単純である。
プロジェクトマネージャーが成功する法則
に書いているが、
「メンバーを動機付け、その動機を維持すること」
である。これは、上にも述べたように、著者のプロジェクト像は自律型組織であることに大きく関係している。自律型の組織を前提にすればこれしかないといってもよいかもしれない。これだけだというと、例えば、著者がしつこく言っているリスクマネジメントはどうなんだ、ヒューマンソフトマネジメントはどうなんだと、いろいろと疑問を持たれる方も多いだろう。この疑問を持った人はもう少し続けて読んで欲しい。
◆ディシプリンを実現するには、
ここで考えなくてはならないのは、「メンバーを動機付けるにはどうすればよいか」という点である。人の動機には、外発的動機と内発的動機がある
リーダーシップ考(3) 動機付け
これだけ考えても、例えば、プロジェクトが成功したときに、十分な金銭的報酬を与えればよいとか、ポストを与えればよいとかといった制度的なものだけではだめなのはすぐに分かるだろう。かといって、慰労の会食をするとかといった人間的な側面だけでもだめだ。最近、ES(従業員満足)というのが盛んに言われるようになってきて、CS(顧客満足)を生み出すためにはESが重要だという考えも出始めているが、一言でいえば、メンバーを動機付け、維持するとは、プロジェクトメンバーとしてプロジェクトに参加してよかったと思えるようにプロジェクトを運営することだ。
すると、例えば、顧客や仕様に振り回されるなんてことはあってはならないし、常に、自分はプロジェクトマネージャーから注目をされており、評価をされていると思わせることも必要だろう。もちろん、徹夜の連続や、ギクシャクした人間関係など、論外である。
◆ディシプリンとスキルの関係
メンバーのESにつながっていく項目は挙げていけば際限なくあるが、ここで考えてほしいのは、プロジェクトマネージャーとしてそれをどのように実現できるかということだ。例えば、メンバーが顧客に振り回されないようにしようとすれば、リスクマネジメントスキル、コミュニケーションマネジメントスキル、ネゴシエーションスキルなど、多くのスキルが必要になる。特に、著者のようにプロジェクトのあり方を自律的だと考えていると、管理系のスキルよりも、マネジメント系のスキルが重要になる。
これがディシプリンとスキルの関係である。著者が感じている問題は、ディシプリンを持たないプロジェクトマネージャーが多いということだ。ディシプリンがなくてもプロジェクトマネジメントの仕事ができないわけではない。「上から命令された」、「顧客から言われている」、「給料を貰っているだろう」など、仕事でやっているプロジェクトであれば当然存在するだろう外発的動機だけに訴えかけてプロジェクトを進めていくこともできるだろう。
ただし、外発的動機だけで進めると、そのこと自体がプロジェクトのリスク要因になることをきちんと認識しておくべきだ。つまり、「顧客が言うことが変わった」、「部長の考えが変わった」などで、結局はプロジェクトの運営方針をコロコロ変えることになる。これは、プロジェクト目的の達成に大きな影響を与えかねないようなプロジェクトメンバーのモチベーションの低下のリスクである。
◆ディシプリンを身につけよう
そのリスクを回避するためには、プロジェクトマネージャー自身がディシプリンを持つ必要がある。プロジェクトメンバーの「決まり文句」の一つに「方針」をはっきりして欲しいというのがあるが、「方針」だと言い換えてもよい。プロジェクトマネージャー自身にとっては、「スタンス」になるものだ。その上で、そのディシプリンを実現するために必要なスキルを見定め、身につけていくことが必要だ。
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