第10回(2003.06.231) 
m&tコンピテンシーモデル
 
◆ITプロジェクトのフェーズ
 コンピテンシーモデルの説明をする前に、ITプロジェクトの流れを整理してみよう。ITのプロジェクトは企業やケースによって異なるが、プロジェクト制で組織全体を運用している場合の標準的には以下のように考えられる。

 特定の情報システムのライフサイクル全体のサポートをひとつの大きなプロジェクトであると捉え、3つのフェーズに分けてみる。

 一つは受注までのフェーズである(フェーズ1)。これはタイプとしては企画型プロジェクトになる。

 次に開発プロジェクトである(フェーズ2)。これは実施型のプロジェクトである。

 最後が運用プロジェクトであり、これも一種の実施型プロジェクトになるが、ここで新しい提案がなされ、新たな情報システムについてサイクルが回りだす。(フェーズ3)

◆プロジェクトの概要とタイプ
 フェーズ1では、プロジェクトマネジメントの役割はもっぱら、提案営業フェーズのマネジメントにあるといえる。つまり、今、営業担当者と顧客の関係がどの状況(フェーズ)にあるかを理解し、そのフェーズでの適切な手を指示していくようなマネジメントである。また、マネジメントスタイルも計画によるマネジメントよりはむしろ問題解決型のマネジメントになるケースが多い。

 フェーズ2はもっともなじみのある開発マネジメントである。ここでは、計画をすることと実施管理をすることの2つがプロジェクトマネジメントの役割である。計画はスコープ、コスト、スケジュール、品質、リスク、組織、コミュニケーションなど広範にわたって行われ、プロジェクトマネージャーがその計画の立案の中心になる。また、実施管理では進捗状況を把握し、問題解決を行う。

 フェーズ3もやはり問題解決型のマネジメントである。

◆プロジェクトマネージャーの役割
 フェーズ1では、顧客が何を求めているかを察知し、営業担当者の情報からいつ次のフェーズに移るかを判断することが最も重要な仕事であろう。同時に、受注するに当たっては、社内的な調整が必要になってくるので、ビジネスとしての採算性の判断や社内の説得、顧客の説得などの役割が求められる。

 フェーズ2でのプロジェクトマネージャーの仕事というと、まず思い浮かぶのは調整であり、そのための調整能力がもっとも重要な能力と考えられることが多い。また、次に思い浮かぶのがメンバーを動機付け、動かしていく能力である。

 ところが、周囲から「できる」と認められているプロジェクトマネージャー(高業績者)を見ていると調整に割いている時間は以外に少なく、また、本人たちに聞いても調整より、計画の重要性を説くことの方が多いようである。

 確かに、このことは理屈の上でもある程度分かる。プロジェクトマネジメントは「変更」のマネジメントであるというくらい、計画の変更が多く、計画変更の際には顧客をはじめとするステークホルダの間の調整が必要になってくる。プロジェクトにおける多くのトラブルが計画変更をめぐって起こることも事実である。だから、変更のマネジメントとして、顧客、メンバー、上司などの調整が不可欠になるわけである。しかし、このことは逆にいえば計画時における「ヨミ」の問題でもある。もちろん、勘とかいったものだけではなく、情報(事実)に裏打ちされた計画を立てることができれば、変更は少なくなると考えられるし、少なくならないまでも変更による影響は確実に小さくなるであろう。

 この点も含めて、もうひとつ実施の中で重要なのは、リスクを予見した行動をすることである。

 フェーズ3での役割は、運用上のトラブルがあった場合の対処である。責任者としての顧客対応、問題解決などをしなくてはならない。

◆共通的に必要なコンピテンシー
 このような業務を行うために、プロジェクトマネージャーに求められるコンピテンシーはどのようなものであろうか?

 まず、フェーズに関わらず必要なコンピテンシーの最初にあげることができるのは「自信」である。このコンピテンシーがない限り、プロジェクトマネージャーはできないと言ってよいであろう。自己の責任を明確にし、結果に対して責任のある行動を取る能力(「アカウンタビリティ」)、メンバーを強制的に動かすのではなく、メンバーが自発的に動くように動機付けたり、導いていく「リーダーシップ」、適切な仮説に基づき必要な情報を収集する「情報指向性」、リスクをきちんと認識し、それを踏まえてものごとを考えたり、あるいは行動を取る「リスク管理能力」といったものであろう。

◆フェーズ1で必要なコンピテンシー
 フェーズ1では、これら能力に加えて、顧客の関心事に常に興味を持って、顧客を大切にしていく「顧客志向性」を欠くことはできないだろう。また、プロジェクトマネージャー自身が顧客と接する場合はともかく、一般的には営業担当者を介することになる。この場合、実施フェーズに較べると状況の把握が難しい。例えば、お客さまから信頼を勝ち得ることがある段階では成果物になるように、プロジェクトの成果物が必ずしも見えるものであるとは限らないためである。これを克服するには、「対人理解力」のようなコンピテンシーが重要になる。さらに、顧客に対してプロジェクトとして魅力のある提案をしていくためには、営業担当メンバーだけではなく、プロジェクトマネージャーの持つ「創造力」が極めて重要な役割を果たすと考えられる。

◆フェーズ2で必要なコンピテンシー
 フェーズ2にはさらに2つに分かれている。それは計画段階とプロジェクト作業の実施段階である。計画段階では、計画クラスターのコンピテンシーはすべて重要であるが、中でもリスクも含めて先々のことを予見し、戦略的な目標設定をする能力(「戦略指向性」)が重要である。実施フェーズでは、プロジェクト作業の実施に伴い発生する問題を解決する「問題解決能力」、さらにはそれを直ぐに実行に移していく「実行力」といったコンピテンシーが重要であろう。

◆フェーズ3で必要なコンピテンシー
 フェーズ3も基本的には問題解決であるがフェーズ1と異なることは展開が読めず、なおかつ長期にわたり顧客に安心感を与える必要があることである。したがって、「問題解決能力」というコンピテンシーが重要であるが、このほかにも、顧客に直接接する担当メンバーだけではなく、プロジェクトマネージャーにも熱心な態度で顧客に共感を覚えさせる「共感力」というコンピテンシーも必要になってくる。
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