第3回(2005.08.24) 「バリバリプロジェクトマネージャーの奮戦記」
〜コミュニケーションの基本は聴くと訊く〜
バリバリ プロマネ塾  小池 浩之
 


** 登場人物紹介 *****************************************************
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* 西 :新米プロジェクトマネージャーとしてプロジェクト推進中                *
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* 須藤:ベテランプロジェクトマネージャー。西の先輩であり師匠               *
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* 神田部長:西、須藤の所属する部署の部長                        *
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「須藤さん」
「どうした?また問題発生か?今度は要員の問題か何かか?」

「その通りなんですよ。でもよく分かりましたね?」

「プロジェクトチームが動き始めて数ヶ月もすれば、人間関係の微妙な問題もでるころかと思っただけさ。で、どうした?」

「Aチームなんですけど、須藤さんは、小谷さんというSEをご存知ですか?」

「あぁ、知ってるよ。女性の小谷さんだろ?、SEとしては非常に優秀な人だぞ。」

「その小谷さんには、Aチームのリーダーを、お願いしていたのですがご家族の事情で海外へ行く事になってしまったということで退職したいということなのです。」

「そうか、残念だな、優秀な人なのに。今の工程は、あと3ヶ月だったよな、それで、退職希望はいつなんだ」

「来月末です。」

「あと2ヶ月か、で、その後はどうするんだ?」

「Aチームは、Bチームと関係が強いし、BチームのリーダーはAチームが行っていることもよく理解してるので小谷さんの後を引き継いでもらいBチームの体制は、順番に上位の役割を担ってもらうように、2週間前から新体制で動き始めているのですが・・・」

「別の個所に歪がでたか?」

「ええ、実は、次工程で中心にしようと思って参画させていたBチームの若手が、先日、辞めたいと言って来ました」

「理由は?」

「他のメンバーに比べると、自分には十分な内容の説明もしてもらえず、情報提供量も少ないのは、不公平であり、それにも関わらず、成果物の不備であるとか、進捗遅延を会議の場で指摘されては、後輩、または、協力会社要員のメンバーからの信頼が保てないので、このような状況でこの先進められないというのです。」

「まぁ、西の話だと、小谷さんの件を含め、人的資源のマネジメントはされているようだけどコミュニケーション計画についてはどうなんだ?」

「連絡、報告、各種資料、会議体など、プロジェクトで必要とする事項については、完全ではないかもしれませんが、概ね計画され管理しているつもりです。」

「Bチームのリーダーとその若手の関係は良好なのかな?
その若手が、指摘されることに納得がいかないと言ってる位だから、それほど良好な関係ではなさそうだけど、リーダーの話は聞いたのか?」

「そんなことはないと思います。このリーダーは、もともとオープンな性格ですし、多少、口の悪いところはありますが、同じ年代の連中に対しては、同等に扱っているとのことで、特別意識してることはないとのことでした。
連絡、報告等の意思伝達についても、プロジェクトのルールに基づいて、行っているとのことです。うそではないと思います。」

「そうか、俺もリーダーがうそを言ってるとは思わん。
その若手についてはプライドが優先されてしまっている気がするんだが、リーダーにしてもその若手にしても、自分の役割が理解できているのなら人に伝える、聴く、という基本的なコミュニケーションスキルに問題があるのかなぁ?」

「で、西、おまえは、どうしたいんだ?」

「そりゃぁ、短い期間かもしれませんが、ここまでやってきたんだし、ここで続けて二人もプロジェクトから離脱されたら先の計画にも支障があるから思い留まらせたいですよ」

「俺はどっちがいいのか考えちまうけどな。どっちにしても、プロジェクトマネージャーである西が正確に状況を捕らえて結論を出すしかないだろうな」


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プロジェクトに於けるコミュニケーションに問題があるとすれば、次の3つの何れかに該当します。

1.情報伝達のルール・・言語、ツール、書式等の問題
2.情報の内容・・・・・信憑性、情報の鮮度、信頼性等の問題
3.情報を活用する人・・伝達能力、理解力等の問題


PMBOKで言っているように、プロジェクトは有期性であるという特徴から人間関係、組織的関係もまた有期であるのですが、人間関係については、同一企業に所属しているメンバーまたは、ライン職と部下の関係であれば、必ずしも有期性だからと割り切ることができないのが現実です。

プロジェクトでマネジメントするコミュニケーションは、情報を必要とする人と提供する人が、効率よく、正確に流通させる手段、方法を確立・管理することです。

そして、コミュニケーションで重要なのは、情報の鮮度、正確性を保つ為、ステークホルダー(プロジェクトメンバー)のコミュニケーションスキルということになります。

PMBOKでは、コミュニケーションマネジメントを、“情報の発信者は受信者が情報を正確に受け取ることができるように、情報を正確で、あいまいさの無い、完全なものとする責任、及び、情報が正しく理解されたことを確かめる責任がある。受信者は情報を完全な形で受け取り確実に正しく理解する責任がある”としています。

その通りなのですが、情報提供者は、情報の提供内容について、その説明のレベルを相手に合わせる必要があります。また、受信者は、提供された情報を理解する為に不明点があれば整理し自ら聞き出す基本姿勢が必要です。

この例では、リーダーとしては、平等に指示、説明をしていたのかもしれません。しかし、受信者である若手には、十分に理解できていないということからすると若手の理解度について確認ができていなかったかもしりません。

また、若手としては不明点を解決する努力をしていなかったのではないでしょうか。もしかすると、この若手は他メンバーを意識するあまり、訊くことができなかったかもしれませんし、リーダーのオープンな性格からすると、皆の前で叱られるのを躊躇ったかもしれません。

ただし、設計フェーズであれば、全てを説明した上で、作業を指示するということは、まず考え難いものです。作業を進めていく中でその都度発生する疑問、問題点を相談していくべきでしょう。

プロジェクトマネージャーは、コミュニケーションスキルの差をなくすようにチームを育成していくことが必要になります。そして、この例ではどちらかというと、若手のコミュニケーションスキル不足と、叱られ慣れていないことから、気持ちの上で壁を作ってしまっているのではないでしょうか。

プロジェクトで若手を継続させていくには、若手のコミュニケーションスキルを向上させる必要があります。人の話を聴く(聞くではなく相手の言っていることを理解するということ)、自分の考えを人に伝えるという基本的な事が未熟であり、今の雰囲気を作っている根本原因は本人にあるということを認識させ、訓練させる必要があるでしょう。

プロジェクトマネジメントに於いて、コミュニケーションがポイントであるとか、難しいと言われます。確かにその通りだと思います。
プロジェクトチームを円滑に運営していくのは、人と人の信頼関係です。
プロジェクトコミュニケーションは、人の話を聴く(傾聴)、分からないことを訊く(尋ねる)ことです。

また、上に立つ者としては、叱るということも大切です。
「叱る」についてはこちらを参照してください
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「若手には、PMである西が、コミュニケーションスキルの向上が必要であり、人間関係等に関する感情的なものも、自分自身がそのような関係にしているということを認識させた上で、意思を再確認して判断するべきだろうな。ただし、訓練は時間がかかるかもしれないぞ」

「判りました」
「リーダーと若手のお互いのコミュニケーション改善内容を話し合った上で若手の今後の取組み姿勢について本人の考え方を確認します。
また、全リーダーとも、コミュニケーションについて、意見交換をしておこうと思います。」

「ところで須藤さん、さっき、俺なら考えちゃうって言いましたけど、須藤さんならどうしますか?」

「俺は、彼らを知らないからな。西は怒るかもしれんが、客観的に考えてプロジェクトとしては、まだ先のスケジュールに別の要員を育てる余裕もあるだろうし、その若手はモチベーションが下がっていることを考えると本人への指導をした上で、まず、プロジェクトからは、はずすと思う」


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バリバリプロマネ塾 小池 浩之

 各社の情報システム構築にプロジェクトマネージャーとして携わる他 ITコーディネータとして地域活動を通じIT化を推進、支援。
 また、これからのプロジェクトマネージャーに必要な能力を身に付ける 一助として先人のノウハウ継承をすべく
 メルマガ「バリバリプロジェクトマネージャーになろう!」を発行中


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