第2回(2005.07.15) 「バリバリプロジェクトマネージャーの奮戦記」
〜納期と品質は天秤にかけられるか〜
バリバリ プロマネ塾  小池 浩之
 


** 登場人物紹介 *****************************************************
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* 西 :新米プロジェクトマネージャーとしてプロジェクト推進中                *
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* 須藤:ベテランプロジェクトマネージャー。西の先輩であり師匠               *
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* 神田部長:西、須藤の所属する部署の部長                        *
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「須藤さん」
「おぅ西かどうした?例のA社のプロジェクト、もうつまづいたか?」

「そんな楽しそうに言わないでくださいよ、まだ計画中で、これからなんですから」
「プロジェクト成功の秘訣を教えてもらおうと思って来たんですよ」

「そんなものがあったら、世の中のプロジェクトマネージャーは苦労してないよ」
「大体、そんなことを言ってるようじゃ、確実に失敗するぜ。保証する。」

「そんなこと保証しないでくださいよ。この先が不安で聞きに来たんですから」

「じゃぁ、成功の秘訣を1つ教えてやろう」
「PMは頼られることがあっても、頼ってはいけないということを覚えておくことだ!解るか?」

「いいえ」

「プロジェクト内の全ての事象に対して、自分の意志で動かしていくという強い信念が必要だということさ」
「例えば大抵の場合、俺もそうだけどプロジェクト推進は“PMBOK”を基準に考える。しかし、“PMBOK”の通りには進めてはいけない!」

「えっ?なんでですか?プロジェクトマネジメントの標準ですよ」

「だからさ、今回のA社でのプロジェクトは、標準なのか?」
「“PMBOK”は、基本知識として、やるべきことが記されたツールにすぎない。
“PMBOK”の通りにやれば成功するということなどありえないのさ。基本知識を、どう使っていくのかは自分で決めなきゃならんということさ」

「ところで、さっき、今後が不安だって言ってたけど、何が不安なんだ?」
「最近は、ビックプロジェクトになればなるほど成功事例が少なくて失敗というニュースが目立つじゃないですか。」
「だから、何で成功できないのかと思って成功の秘訣を聞きにきたのですけど、リーダーシップが大事なんだということが解りました。」

「成功要因はリーダーシップだけじゃないけどな。」
「でも、失敗というのはどういう状態のことだと思う?」

「システムが正常動作しないとか、納期遅延、コスト超過、または、機能不足でしょうか」

「西が言ったように“PMBOK”がプロジェクトマネジメントの標準でその標準があるのになぜ、失敗ということが起こるのかわかるか?」

「あるプロジェクトの事例だけど、カットオーバーまで残りの期間が僅かとなり、全体としては順調だったんだけど、一部の機能だけがどうしても品質の向上が図れずかなり遅延していた。
しかし、その機能は、カットオーバーの1ヶ月後に稼動するものであり、プロジェクトマネージャーは、その間で品質向上が図れるものと踏んだ。従って、カットオーバー判定会議での報告内容は、十分キャッチアップ可能なので、予定通りカットオーバー可能とした。」

「それはマズイんじゃないですか」

「そうだよな、しかも、1ヵ月後、その機能の品質向上が図れないまま本番稼動を迎え正常動作せずに大問題となった。」

「なぜ、そんなことをしたんですか?」

「このプロジェクトマネージャーの場合、そのプロジェクトに昇進を賭けてしまっていた。要するに、そのプロジェクトを成功させることが昇進することだと勘違いしてしまったのさ。だから、本人としては、何が何でも納期遅延は許されなかったのさ」

「西だったら、この状況の場合、どうする?」

「やはり、カットオーバーの延期を申し出ると思いますが〜・・・」

「自信がなさそうだな。そこだよ、さっき、西が“マズイ”と言ったように、冷静に考えれば通常はやらないだろうということを、その時のさまざまな状況によって犯してしまうものなのさ」


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マズローの5段階欲求説というのがあります。これは、アメリカの心理学者アブラハム・マズローという方が人間の欲求には次の5段階があり1段満たされると、次の欲求を強くするというもの。生理的欲求、安全の欲求、親和の欲求、自我の欲求、自己実現の欲求。

この例など、自我の欲求ですよね。即ち、自分が集団から価値があり、存在が認められ、尊敬されることを欲求することです。

さて、問題のPMについてですが、自己の欲求を満足させるという目標がモチベーションを維持する糧になっていたとも思えます。それ自身はいいとも、悪いとも言えないのですが、そのことで引き起こされたもう一つの問題・・・

ガバナンスの問題でもあるかもしれませんが、納期と品質を天秤にかけ、納期を優先した点です。

数ヶ月前、脱線事故による大惨事があったと思います。「時間と品質(安全)・・考えさせられます」

こうした人命に関わる業態、または、製造業であれば、品質の悪さは致命傷であり企業の存続にも影響を与えかねません。

IT産業ではどうでしょう。この例のようにPMの欲求もあるでしょうが残念ながら、品質を軽視してしまう傾向もない訳ではありません。


強い意志を持って望むと言うのは簡単ですが、先に触れたガバナンスの問題、企業間の問題もあり、正義感だけでは解決できません。

このような状況にならないようプロジェクトを推進することが大切なのですが、さまざまな背景の中で厳しい選択を迫られることもあると思います

このような状況になった場合、一番重要なのは、事実を共有すること。即ち、発生しうるリスクのインパクトの大きさを鑑みてステークホルダープロジェクトオーナーと十分な調整を行なうことです。

必ずしも全てのプロジェクトが当てはまるわけではありませんが、一般的には、以下のことが言えるでしょう。納期通りに納めたとしてもプラスのインパクトは弱く、後に品質に問題があるとマイナスのインパクトは大きい。また、納期が多少遅延しても、品質が保証できるとマイナスのインパクトは小さいはずです。


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「いいか、西、納期と品質を単純に天秤にかけるなら、品質を重視すべきだと俺は思う、しかし、俺が言いたいのは、どっちを優先するとかしないということを言ってるんじゃないぜ」

「その時の事実に照らして、最適な方法をステークホルダー、プロジェクトオーナーと協議して取り決めるべきだと言ってるんですよね」

「わかってるじゃないか。自我の欲求は別としてな!」
「それまでの信頼関係によって、どこまで、つっこんだ話ができるかにもよるから、普段からコミュニケーションをとっておく必要があるな!」


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「各要員が活動してくれるお陰でプロジェクトが成り立ってるんだぜ阻害要因は早く排除し、モチベーションを維持してもらうことが、おまえの仕事だぞ、いいか?」

「わかりました。問題になりそうだとかいったような、触覚に触れるものがあったら早く原因を追求し、場合によっては自分で最前線に立ち、改善行動を起こすことがプロジェクトマネージャーとして必要だということですね」

「そういうことだ。対応の結果は大事なんだけど、プロジェクトマネージャーが動いたということに意味があるのさ」

「チームを明るい雰囲気に保てれば生産性も向上するはずだ!」


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バリバリプロマネ塾 小池 浩之

 各社の情報システム構築にプロジェクトマネージャーとして携わる他 ITコーディネータとして地域活動を通じIT化を推進、支援。 また、これからのプロジェクトマネージャーに必要な能力を身に付ける 一助として先人のノウハウ継承をすべく
 メルマガ「バリバリプロジェクトマネージャーになろう!」を発行中


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