第36回(2007.05.28)
プロジェクトマネジャーを育てる(4)〜メンタリングとは
 

◆メンタリング豆知識

メンタリングはギリシャの詩人ホメロスの書いた叙事詩『オデュッセイア』に登場する老賢人「メントル」からきた言葉だといわれている。オデュッセイア王が終わりのない旅に出るにあたって、オデュッセイア王の親友メントルは、王の息子テレマコスの教育を任された。メントルは、信頼できるよき理解者・指導者・支援者としてテレコマスを立派に育て上げたことに由来していると言われている。

これに由来し、メンターは、賢明な人、信頼のおける助言者、師匠などで、一般には「成熟した年長者」をさす言葉として使わる。また、支援される側をメンティと呼ぶ。

ここで、ちょっと面白い話しがある。実際に物語に登場するメントルは、女神アテナがテレマコスの苦境で彼を導く為に姿を変えた少々役立たずの老人である。なぜ、これが上のような語源になったのかは興味深い。このあたりに、メンタリングの本質があるのではないだろうか?


◆マネジメントにおけるメンタリング

さて、マネジメントの中でのメンタリングは「個」を対象とした人材育成法として注目されている。仕事に直接関わる知識やスキルを指導するだけでなく、広い意味でメンティを支援し、メンティは仕事面でも生活面でも充実し、成長し、高い成果を出せるようになるという発想がある。

ここでポイントになるのは、『オデュッセイア』の由来にあるように、育てたのが実の親ではなく、その親友だったという点。一般的な組織では、ラインマネジャーは親的な役割を果たすが、一方で、人事権を持つために、育成される側はどうしても依存的関係になってしまう。この問題を排除できると期待されているのがメンタリングである。

それゆえに、企業における戦略実行のためのコア人材の育成・確保の手段として期待されている。

プロジェクトマネジメントにおいては、前回、述べたように、プロジェクトスポンサーがその役割を果たすべきであるが、この部分が若干、混乱している。これについては後述するとして、その前にメンタリングモデルの話をしておこう。

メンタリング・モデルはアメリカの心理学者E.K.クラムが1980年代に体系的に整理した役割モデルのひとつである。クラムはメンタリング行動を「キャリア的機能」と「心理・社会的機能」に分類した。以下にクラムのモデルを示す。

●キャリア的機能

キャリア的機能は、メンティのキャリア開発を目的とする機能であり、以下の6つの機能が含まれる。

・ビジョニング
メンタリングのゴールを明確にして、メンターとメンティが協働でビジョンを描く。

・スポンサーシップ
メンティーが社内や職場の望ましい仕事やプロジェクトに参加できるように支援する
行動。

・推薦とアピール
メンティーの将来のキャリア発達の機会を向上するような仕事に推薦したり、上司にメンティーの日頃の仕事ぶりを報告したりしながら、必要に応じて上層部の人にアピールする行動

・育成とコーチング
メンターとメンティーの間で、仕事に関する知識・アイデアや情報を共有するとともに、メンティーに仕事の結果についてのフィードバックを与え、仕事の目標を達成するための戦略や手法を提案する行動

・調整と保護
メンティーを困らせている人々から守ったり、大きな失敗をしないように心配りをしたりして、メンティーの評判を脅かすような不必要なリスクを削減し、このようなリスクから守るための行動

・チャレンジ
ワンランク上の仕事をさせたり、新しい知識や技能を学ぶことができる仕事を与えたり、その仕事に取り組んだ結果や評価を伝えたりして、仕事における挑戦性を向上させる行動


●心理・社会的機能

・ロールモデル
メンティーが信頼してくれるような人物になるように、またメンティーにとって必要となる適切かつふさわしい態度や価値観を身につけさせるために必要に応じてメンターがモデルを示す行動

・受容と確認
メンティーの良いところを認めたり、共に生き、共に働く仲間として認めたりして、メンターがメンティーを一個人として尊重し、メンティーに対して無条件に肯定的な関心をもっていることを伝える行動

・カウンセリング
メンティーの精神的、心理的ストレスを軽減するために、メンティーが働く上で直面する様々な心配事や悩み事を、メンターに対してオープンに語ることができるような場や機会を提供する働きをする行動

・友好
上司と部下や、先輩と後輩といった権力や命令系統による公式的な関係ではなく、むしろ仕事上で出会ったメンターとメンティーとの間に友情や信頼に基づく相互関係を築くように働きかける行動


◆メンタリングには決まったやり方がある

今回は、豆知識だけで終わってしまった(笑)。これだけではひどいので、ちょっと長くなるが、多少、話を前に進めておく。

日本企業の中ではメンタリングは包括的な支援として捉えられることが多い。上のクラムの定義したロールモデルを見ると、確かにそういう感じである。ただ、同時に言えることは

 ある程度、流儀、作法のあるものであり、属人的に行われるものではない

ことだ。つまり、メンタリングをうまく行うためには、メンターのスキルがポイントになる。今回はここまでにする。

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