第6回(2003.11.30) 
トレンド分析でプロジェクトの状態を把握する
 

◆トレンド分析とは
 トレンド分析は、注目するパラメータの時間的な動きを見ながら、その背後に何が起こっているかを見分ける分析方法である。プロジェクトの進捗管理の中で、状況の把握は一時点で行われることが多い。しかし、実際には時間的推移が重要な現象が多い。

◆現象は同じでも、原因が違う
 非常に単純な例だが、EVMSの時に使ったを思い出してみてほしい。1ページ8時間かかるWebページの製作を10ページ行うという例である。
 このとき、仮に8日目が終わったところで6ページしかできていかなったとしよう。1日分作業が遅れている。これは事実である。しかし、現時点では同じ状況でも
   2日目:2ページ
   4日目:4ページ
   6日目:6ページ
の場合と、
   2日目:1.5ページ
   4日目:3.0ページ
   6日目:4.5ページ
の場合には、全然、原因(問題)が違うと考えるのが普通である。前者の場合であれば、たとえば、何らかの理由で7日目以降作業に手がついていないと考えられるし、後者の場合であれば、作業効率の見積もりが間違っているとしか思えないだろう(あるいは、4人で作業する予定のところが3人になったなど)。そして、当然、問題に対する対処の方法を変わってくる。

◆時間的推移に注目するのがトレンド分析
 作業というのは基本的に時間軸に沿って進展していくものであるので、作業状況をある時点で切って、そこだけで何かを判断しようというのは無理があるし、現実に、このようなトラブルが起こったときには、プロジェクトマネージャーは時間的な推移を見て、問題を発見し、「仮説」を見出して、それに対処していっているのだ。
 大切なことはいかに正しい「仮説」を見出せるかである。「仮説」が適切ではないと的外れな対策を打つことになる。そのためには、さまざまなパラメータを時間軸に沿ってグラフ化し、分析してみることが重要である。代表的なパラメータは、予算、工数、作業進捗(遅延)、品質(バグ数)などである。

 さて、では、どのように分析していけばいいのかを少し整理してみたい。

◆ポイント1:グラフの傾き
 トレンド分析のもっとも基本になるのは、グラフの傾きを見ることである。上がっているか、下がっているか。これで、ずいぶん、多くのことが想像できる。たとえば、遅延をグラフ化したときに、

 1日目:0時間
 2日目:1時間
 3日目:2.5時間
 4日目:2.0時間
 4日目:1.5時間

となっていれば、3日目から遅延が減少していることが分かる。すると、4日目で作業に慣れてきたのかもしれない。そうするともう放置しておいても、10日目には予定通り作業が終わっているだろうと予測できる。しかし、もしかすると、作業者が残業をして遅延が減少したいのかもしれない。何が事実かはもっと別の分析をしないと分からないが、傾きから想像できるものは少なくない。

◆ポイント2:傾きの変化
 傾きだけではなく、傾きの変化を見ることによって分かることも少なくない。たとえば、遅延の例で、

 1日目:0時間
 2日目:1時間
 3日目:2時間
 4日目:4時間

だったとすると、3日目から4日目にかけて傾きが変化している。これを見ると、これから指数関数的に遅延が拡大していくことが予想される。

◆ポイント3:面積
 面積を見ることよって更なる情報を得ることができる。たとえば、段取りを先にやって、その後作業にかかったような場合に、

 1日目:8時間
 2日目:4時間
 3日目:0時間
 4日目:−4時間
 5日目:−8時間
 6日目:−8時間

の遅延があったとしよう。すると、プラス(遅延)とマイナス(前倒し)の面積を見れば、最終的に作業が遅延したままで終わるか、前倒しに進むかを判断できる。

◆ポイント4:変曲点を分析する
 どのようなパラメータにしろ、変曲点(傾きの変化ポイント)を見つけたら、それがなぜ発生したのか深く考える必要がある。そこにはプロジェクトの成功を左右しかねない情報が潜んでいると考えておいたほうがよい。

◆ポイント5:あるべき姿との比較
 予算管理では、予算表というグラフを作成することが一般的である。予算表は予算に関して「あるべき姿」になっている。トレンド分析を有効に活用するためには、この予算のように、まず、あるべき姿(プロジェクトマネジメントでは計画)をグラフ化し、その上に実績をプロットしていくのが効果的である。

◆参考文献
斉藤嘉則「問題発見プロフェッショナル」ダイヤモンド社
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