第5回(2003.11.30) 
ポートフォリオで全体を見る
 

◆ポートフォリオの語源
 ポートフォリオのイメージを掴むには語源を知るのがいいだろう。
 ポートフォリオは書類入れのカバンのことである。このカバンの中にたくさんの有価証券を入れることから、有価証券の一覧表という意味で使われるようになってきた。カバンの中には有価証券は無制限に入れられる(購入できる)わけではなく、当然、限られてくる。つまり、どの有価証券を入れるか、どのくらいの有価証券を購入するかを考えなくてはならない。ポートフォリオとは、多銘柄への分散投資における各証券への投資比率のことをいう。このような組み合わせを最適化する理論がポートフォリオ理論と呼ばれる理論である。理論そのものに興味がある方はここで簡単に説明できるような理論ではないので、金融工学の本を読んで勉強されることをお勧めする。例えば、ちょっと斜に構えた書き方であるが、読みやすいということで、

吉本:佳生金融工学の悪魔―騙されないためのデリバティブとポートフォリオの理論・入門、日本評論社
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4535551871/opc-22

などはどうかと思う。

◆リスクとリターン
 さて、ではどのように判断するかというと、これまた、当たり前の話であるが、リスクとリターンの関係を考える。図のようなプレーンを考えてみてほしい。すると
 (A)ハイリスク・ハイリターン
 (B)ローリスク・ハイリターン
 (C)ローリスク・ローリターン
 (D)ハイリスク・ローリターン
というボックスに分割されることが分かる。それぞれの証券をこのようなプレーン上でどこにあるかを考えていく。ローリスク・ハイリターンの領域になれば、儲け話である。ハイリスク・ローリターンの領域にあれば損をすることは明らかである。この場合の投資行動は問題なく決まる。問題はハイリスク・ハイリターンや、ローリスク・ローリターンのボックスにある証券をどのように評価するかである。これが投資の戦略ということになり、自分の資産状況や将来の計画などを考えて決めることになる。


◆PPM
 このポートフォリオを経営意思決定に応用したのがボストンコンサルティングのプロダクトポートフォリオ(PPM;Product Portfolio Management)である。これは複数ある製品(あるいは事業)を有価証券に見立て、リスクとリターンの分析をするものである。今度は有価証券のケースと異なり、リスクもリターンも経営数値になるので、少し抽象的なものになる。そこで、PPMでは、横軸に相対的マーケットシェアを取り、縦軸に市場成長率(業界の魅力)を取る。すると意味合い的に上の(A)〜(D)の4つのボックスと同じボックスができる。例えば、マーケットシェアが大きく、成長率も大きいボックス(市場)は結果として積極的な投資が求めれ、ハイリスク・ハイリターンになる(これをPPMではスターという)。また、シェアが大きく、成長率が小さい市場はローリスク・ハイリターンとなる(これを金のなる木)という。さらに、シェアも小さく、成長率も小さい市場はローリスク・ローリターンで負け犬と呼ばれる。最後の、シェアが小さいけど、成長率が大きい市場は、ハイリスク・ローリターンの市場になるので、問題児と呼ばれる。

◆ポートフォリオの表現
 PPMの話をするとご存知の方は、例のチャートが頭の中に浮かんでいるかもしれない。ポートフォリオ自身は上に述べたような概念であるので、特に決まった表現はないが、よく使われるのはPPMでも使われているバブルチャートという表現方法である。
 バルブチャートはバブルチャートでは、縦横軸とバブル(円)の大きさにより、3つの情報のポジショニングを表現するものである。例えば、PPMだとシェアと市場成長率の軸に、バブルの大きさで事業規模を表現し、各事業のポジショニング分析に使うのが普通である。



◆ポートフォリオの特徴
 ポートフォリオは意思決定の方法としては単純なことと、汎用性の高いことに特徴がある。特に汎用性という点では、リスクとリターンの関係が問題になるさまざまな分野でポートフォリオ分析は利用されている。例えば、プロダクトポートフォリオ以外にも、技術ポートフォリオ、人材ポートフォリオ、サービスポートフォリオなどは一般的に用いられている。また、プロジェクトマネジメントの分野でも、プロジェクト選定の問題でプロジェクトポートフォリオという形で利用されている。また、リスクマネジメントの分野でもリスクポートフォリオという形で利用されることがある。フィンクの方法などがそうである。これも単純で、一定の有効性があればこそである。
 ただし、単純さが評価軸を2次元に絞り込んでいることによることをしっかりと理解しておく必要がある。例えば、PPMで、負け犬の事業は撤退しかないという結論が得られるが、これは事業間のシナジー(相乗効果)が表現できず、シナジーを考えれば撤退という結論は明らかな間違いであることがままあることは有名な話である。例えば、パソコン事業が負け犬でも、半導体事業がスターであれば、そのような構図になる。この制約をしっかりと頭にいれて利用する必要がある。

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