第7回(2003.11.30) 
コーザリティ分析で問題の核心に迫る
 

◆プロジェクトで悪循環は致命的
 プロジェクトで発生する問題の中で、致命傷になるのは、悪循環を伴う問題である。簡単、かつ、典型的な悪循環をあげてみよう。

 スケジュールが遅れる 
 → メンバーが長時間労働をする 
   → メンバーが疲れ果て、生産性が悪くなる
     → ますます、スケジュールが遅れる

プロジェクトマネージャーの経験者であれば、一度や二度は誰でも経験したことのある問題だろう。プロジェクトには納期があるので、この手の悪循環にはまってしまうと、解決した頃には納期になっていたということになりかねない。

◆コーザリティ分析
 では、こういう場合にどのような対処をすればよいか。明らかにすべきことが2つある。一つは、悪循環を構成している因果関係のどこに楔を入れれば悪循環が解消するかを発見することである。もう一つはこれと表裏一体であるが、悪循環を引き起こしている真の原因を突き止め、その原因を解消するような問題解決策を講じることである。
 このような分析手法を行うことを「コーザリティ分析」と呼ぶ。

◆悪循環の特定
 コーザリティ分析では、まず、悪循環の具体的な原因を片っ端から洗い出していく。例えば、上の例で「スケジュールが遅れている」原因を洗い出す。すると
 ・メンバーの稼動状況が芳しくない(ほかの仕事に手を取られている)
 ・メンバーの生産性が計画想定より低い
 ・計画していたより、作業が難しかった
といったことがあげられる。ここから、ロジックツリーなどを使ってさかのぼっていくと、「メンバーの生産性が計画想定より低い」理由としては、「士気が低い」ことが分かった。その原因を考えてみると、土日も休みなく働いていることが分かった。さらに、その理由を分析すると、土日に仕事をして遅れを取り戻すというパターンになっていることが分かった。さらにその理由を突き止めていくと、顧客の意思決定が遅く、その時間ロスを手待ちになっていることもしばしばであることが分かった。

◆徹底的に原因を追究する
 さて、顧客にはあまり強くいえないからということで、こういうケースに「要員の投入」という解決策をとることがよくある。この解決策は「問題解決というレベル」では的外れである。そのことによって顧客の意思決定の時間が短くなるわけではないし、新しく入った要員に仕様や今までの経緯を説明するのに手を取られ、最初からのメンバーは一時的に仕事が増えてしまうといった新しい問題を引き起こす可能性もある。
 このような解決策は一時しのぎで、悪循環を一時的にとめても良循環をもたらすことはない。プロジェクトにおけるこの種の問題解決の難しい点は、どうしても納期に目が行くので、一時しのぎに傾いてしまうことである。
 ここで考えなくてはならない課題は、顧客の意思決定の迅速化であり、そのために、例えば、「顧客の意思決定作業のサポートを強化する」といった対策を取らない限り、問題は解決しないだろう。顧客のサポートを強化すれば、顧客の意向を適切に、かつ、前倒しにプロジェクト作業に反映することができ、それにより、プロジェクト作業を段取りよく進めることができ、スケジュールをはやめはやめに進めることができるという好循環が期待できる。

◆プロジェクトマネジメントにおけるコーザリティ分析の使い方
 上で敢えて「問題解決のレベル」ではと書いたのは、この真の原因に対する解決策が取れるとは限らないというのがプロジェクトだからである。問題解決において、有期性というのは極めて大きな制約である。上の例でも、計画時点であればともかく、問題が顕在化してからそのような対応を取ろうとすれば、顧客との調整に長時間かかることが想像される。すると、現実的な解決策として「要員投入」という解決策しかとれないことがある。
 例として敢えてそのような例を選んでいることもあるが、それが現実だろう。そこで大切なことは、計画の段階からそのようなリスクを見越して、対策をしておくことなのだ。
 言い換えると、このコーザリティ分析は、計画時に、例えば、リスクの特定をする際に使ってはじめて意味があるといえるだろう。

◆参考文献
斉藤嘉則「問題発見プロフェッショナル」ダイヤモンド社
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