第1回(2004.03.15) 
営業マネジメントとは?

◆プロジェクトマネジメントにおける営業マネジメントの重要性
 プロジェクトマネジメントの中で、

  プロジェクトが始まっている前に結果が決まっている

というをよく聞く。例えば、受注の際に無理をして受注し、低価格で受注した案件で、いくら(外注)調達マネジメントをうまくやっても結果は見えている、どんな要求でも受けますといって受注してきた案件でいくらスコープマネジメントを一生懸命にやってみても結果は見えているなど、例は枚挙にいとまがない。
 しかし、PMBOK流のプロジェクトマネジメントを導入したプロジェクトがレッスンズラーンドを行ってみてもこの部分は「営業に伝える」という一言で済ましてしまうことが多い。せいぜい、開発部の部長から営業部に申し入れをしてもらうといったことで終わるケースが多い。
 この問題を本質的に解決するには、営業マネジメントにプロジェクトマネジメントの考え方を導入し、開発マネジメントとの整合性を図っていくしかない。具体的な方法としてはスコープの拡張でもよいし、プログラムマネジメントのような考え方を導入し、アカウントベースでプロジェクトを管理していくのでもよい。他にも方法はあるかもしれない。いずれにしても、開発プロジェクトマネジメントとの連携が不可欠だ。

 この連載では、開発プロジェクトや、運用プロジェクトとの整合性を考えた営業のプロジェクトマネジメントをどうするかを考えてみたい。

◆営業プロジェクトマネジメントとは
 営業活動のイメージは比較的はっきりしていると思うが、営業プロジェクトマネジメントといわれると「?」という人はすくなくないだろう。ここでは、営業プロセスを標準化し、その標準どおりに営業活動をマネジメントしていくのが営業プロジェクトマネジメントということにする。
 ただし、ここで考える営業活動は受注までの活動ではないことに注意して欲しい。受注後も営業プロセスというのは続く。大雑把にいえば、開発段階では顧客との調整、開発後はフォローがあり、ここまでできてはじめて営業活動は完結する。
 大切なことは、営業プロジェクトマネジメントのプロセスはベンダー側のマネジメントの進め方ではなく、顧客の購買行動に支配されることである。開発プロジェクトでもある程度そのような要素はあるが、QCDに冠するイニシャティブはベンダー側になる。しかし、営業プロジェクトマネジメントでは顧客側にあり、ベンダー側はそれを前提にイベントドリブンなプロセスを組み立てていく必要がある。
 営業プロジェクトマネジメントはここがきちんと認識できていないとうまくいかない。
 そこで、重要なことはフェーズマネジメントを上手に行うことだ。営業活動のフェーズは
 受注(受注するまで)
 開発(納品するまで)
 フォロー(納品したあと)
の3つのフェーズを設定するとマネジメントしやすい。そして、すべてのフェーズで
 ・企画
 ・計画
 ・コントロール
 ・終結
といった枠組みで活動を整理してみることが先決である。

 今回はこれまでにする。次回からは、まず、受注フェーズのそれぞれのプロセスでどのような活動をすべきかについて検討する。
読者からのコメント
プラント・エンジニアリング業界のように、プレプロジェクトプランニングのような慣行があればまだ救われる可能性が高いが、受注型のソフトウェア開発では、それを望んでも実現ははるか先のように思っています。
本来、プレプロジェクトプランニングは受発注者相互に利益をもたらす手法であり、採用される可能性はあるはずなのですが、如何せんスコープに反映すべき顧客の品質要求が曖昧であるため時間がかかってしまうのと、やはりスコープの変更を必ずしも減らすことへ繋がらない可能性が高いため採用されていないというのが現実ではないでしょうか。
小職もPM教育をコンサルタント業の傍らで行っていますが、今回のような質問は必ず出てきます。
小職が準備している回答は単純明快なのですが、1プロジェクトマネージャの立場ではなかなか実現のイメージが湧かないようです。
自社の持つコアコンピテンシーに基づくソリューション提供(範囲は契約までとは考えていません)の成功を目的とするプロジェクトとして捉えてくださいという説明をいつもしています。
「何が欲しいですか?」というのはもっての外で、「FRPに参加できることになりました」と言うのも時既に遅しと言うことなのですよと。
競合とならないようなアプローチを取ることが重要だと思っています。
企業によっては、RFP必須というところもありますが、RFPの評価項目を自社のコアコンピテンシーに有利となるように作り上げるところから入れなければ、待っているのは価格競争のみということになるのは明らかです。
顧客のニーズに対応するような顧客との関係性ではなく、コアコンピテンシーに基づいて作り上げたソリューションが適応できる顧客はどこか、というような関係性にシフトしていかなければ、実際にはなかなか営業プロジェクトマネジメントの効果は出てきにくいのではと思っています。
もし、自社だけのコンピテンシーでは売り物にならないと言うことであれば、他社とのアライアンス等で売り物にできるようにすることも必要ですが。
もちろん、1案件だけではなくアカウントとして捉え、最初はきつくても次には・・・ということも可能\かとは思いますが、そのように対応するためには、企業規模が必要になってしまい、どこでもというわけには行かないように思います。
営業プロジェクトマネジメントの必要性は十分認識しているつもりです。
そのときの企業としての心構えとしてどうしたら良いかということを書いたつもりですが、つらつらと長い文章となってしまいました。申し訳ありませんでした。
スギウラ(41歳・プロジェクトマネジメント導入コンサル)
早速、ご意見ありがとうございます。商品力がないと、いくら営業マネジメントをしても成果に結びつかないという貴重な指摘だと思います。このポイントは、セールスの方とエンジニアの方、コンサルタントの方で意見の違いが生じやすいポイントだと思います。ぜひ、他の方の意見もお聞きしたいです! 好川哲人
スタート時点で負け戦が確定している事はよくあり、苦しい思いをしています。やはり受注までに営業と開発側の連携が重要であると思います。また、価格(受注金額)とコスト(開発にかかる全ての)の差が発生した場合、その差をどの様に埋めるのかの検討が真剣に行われない事もデスマーチ化へ拍車をかけていると思います。 PMPビギナー(31歳・IT系リーダ職)
「商品力」の有無が営業上の成果に大きな影響をもたらす事は間違いありません。
しかし、コンサルタントの立場での経験から思うに、「コアコンピテンシー(=商品力)」自体を把握できていない事の方が多いように感じられます。
さらに言えば、今後どのようなコアコンピテンシーを身につけるかまでは全く考えられていなかったり・・・。
どちらにしても、受けの営業では営業プロジェクトマネジメントは適用できても、最終的な成果を生み出せる確率にバラツキが発生してしまうような気がします。
攻めの営業ができるのであれば、営業プロジェクトマネジメントはかなりの効果が期待できるのではないでしょうか。
そして攻めの営業をするならば、営業・コンサル・エンジニア・サポートによるクロスファンクショナルチームは必須であり、受注前後でのギャップの発生を押さえたり、あらかじめギャップへの対応を準備しておく(リスクマネジメント)ことも可能になると考えられます。
ただ、営業以外のチームメンバーには別に本業があり、営業活動に割ける時間はおのずと限られるため、クロスファンクショナルチームでの活動が効率的にできることが前提になると思われます。
スギウラ(41歳・プロジェクトマネジメント導入コンサル)
クロスファンクショナルチーム=プロジェクトだと考えてよいのでしょうか? 好川哲人
クロスファンクショナルチーム=受注することを目的としたプロジェクトのチームの位置付けで良いと考えます。もう少し戦略的に考えるのであれば、ある業界向けのソ\リューションを構\築し、営業を支援するプロジェクトのチームでも良いかもしれません。
小職の所属先では、コンサルタントをリーダーとした、営業、製品サポートの3〜4名の公式なチームを作っています。
特定の業種をターゲットにした市場調査、提案書雛型作成、デモストーリー作成、デモデータ作成、広告用資料作成などが主な活動になります。
具体的には、パイプライン構成、スクリーニング、ビトレターの送付、訪問、営業提案、コンサル提案というようなWBSを構築し、その手順で実際に営業を進めています。提案書については、営業・コンサル・サポートがそれぞれチェックしているため、受注後の齟齬はありません。(サービスの値引きについては、コンサルが与えられている権限内で判断をしています)
まさにある業界に対してお客様になっていただくというプロジェクトを実施している状況です。
現在では、個々の作業ごとに次へ進むか否かの明確な基準が無いため、明確化しようというところまで来ています。
スピードの速い時代においては、引合いがあってから準備していたのでは間に合いませんし、良いものはできません。もし受注できたとしても、短時間での提案によるリスクがあることは否めません。
ただ、小職が説明した内容については、どのような企業においても概ね実施されている内容だとは思います。
スギウラ(41歳・プロジェクトマネジメント導入コンサル)
コンセプトに合ったクライアントを見つける、というのが、とても役立ちました。 吉岡
(26歳・会社員)

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