第9回(2004.11.06) 
専門技術を抽象的に考えることができる
 

◆専門スキルはPMに必要か
IT系プロジェクトマネジメントにおいて、専門知識やスキルは、「諸刃の剣」的なところがあり、結構、扱いが、厄介である。
高い専門スキルがあればプロジェクトマネジメントを行い際の強力な武器になる半面に、使い方を間違えるとそのプロジェクトを崩壊させかねない危険がある。また、IT系プロジェクトには小規模なものが多く、そのようなプロジェクトではプロジェクトマネジメントの専従スタッフは置くことができず、エンジニアがプロジェクトマネジメントを行うことが多い。このことがいっそうこの問題を複雑にしている。

◆ITSSでは
ちなみに経済産業省の策定したITスキル標準(以下、ITSS)では、プロジェクトマネジメントという職種のスキルとしては、いわゆるプロジェクトマネジメントスキルを職種共通スキルとして定め、それ以外に専門分野固有スキルというスキルの存在を認めている。
ITSSでいう専門分野とは、
 ・システムインテグレーション/アプリケーション開発/システム開発
 ・アウトソーシング
 ・ネットワークサービス
 ・eビジネスソリューション
 ・ソフトウエア開発
の5つであり、それぞれの分野で、専門的な知識が必要だとされている。

◆専門スキルのポイントは問題解決とリスク
では、なぜ、このように専門知識が問題になるのか?そのポイントは2つある。一つはプロジェクトにおいて必ずといってよいくらい出てくる問題解決と、もう一つはリスクマネジメントであろう。

 まず、最初に問題解決というのを考えてみよう。プロジェクトマネジメントは計画と問題解決だといってもよいくらい重要な活動である。また、計画作業そのものにも、資源の制約などの理由により問題解決が含まれてくる場合が少なくない。

 このときに、問題解決のスタンスは2つに分けることとができる。一つは技術的(専門的)な問題だと捉えて問題解決に当たるというスタンスである。もう一つは組織的な問題解決を図るというスタンスである。

 たとえば、目標性能が実現できないときに、自らが技術的方向性を決定し、その中でプロジェクトメンバーを動かしていく。これが前者である。これに対して後者は、プロジェクトチームを問題解決チームとして動かすことより、技術的な方向性の決定も含めてプロジェクトメンバーにやらすという方法である。これらはいずれも権限委譲をしているわけではなく、その局面の打開は自らの責任として主体的な立場で取り組んでいるという点に注意を要する。

◆リスクと専門スキル
 もう一つのポイントは問題解決と表裏一体であるが、リスクである。リスクをどのようの識別するかというところで、専門性が必要かどうかが議論になる。リスクの識別のスタンスも、問題解決と同様に2つある。一つは可能な限り技術(品質)リスクとして認識していく方法と、可能な限り非技術リスク(組織、コスト、要員スキル、時間など)として識別していくスタンスである。

 さて、このように考えた場合に、技術的なスタンスを重視してプロジェクトマネジメントを実施していく場合には、高いマネジメントクオリティが期待でき、非常に難しいプロジェクトに対して効果的なマネジメントの実行が可能になる一方で、専門分野から離れてしまうとマネジメントできないという事態が発生する。逆に、組織的なスタンスを重視すると、マネジメントできる幅は広くなるが、一方でマネジメントの深さはあまり期待できず、それゆえに、あまり難しい問題には対処できないと考えられる。


◆ある専門分野のスキルを他の分野に活用する
 さて、では、どうすればよいのか?IT系のプロジェクトマネジャーのキャリアパスを考えるとまったく技術的な経験・実績がないままでプロジェクトマネジメントを担当する場合は珍しい。多くの場合、ある程度自分の専門と呼べる分野ができてきたくらいからプロジェクトマネジメントを担当するようになる。

そのように考えたとき、もっとも重要なのは、ある専門分野で修得した知識やスキル、経験を、他の分野に活用していくことだといえる。たとえば、ネットワーク技術での知見を、データベースの開発で、類似性と相違を見つけ、活かしていくといった能力が必要である。つまり、プロジェクトマネージャーを専門性で見ると、プロジェクトマネジメントスキルと、なにかの専門スキルの両方を持っているいわゆるπ型の人材が望ましいといえる。


◆この行動特性のためのコンピテンシー

このような行動を可能とするポイントは、まず、自分の専門分野と、実行中のプロジェクトの専門分野の間でうまく類似性を見つけることができることが必要だ。

次に、その類似性に注目しながら、自分の専門分野ですべきことが、プロジェクトの専門分野ではどのようなことになるのかを考えられることが必要である。

最後にそのような思考をしようと思えば、単に、思考力だけではなく、現象をきちんと観察し、それを多面的に分析していく能力が必要である。

つまり、以下のようなコンピテンシーが必要である。

 アナロジー思考力
  ある分野の現象を,まったく異なる分野の現象に置き換えて考える
 創造力
  新たな発想で事実や技術の活用を考えることができる
 現象観察力
  起こっていることをきちんと観察し,それを多面的に比較し,検討することができる


◆お奨め図書
  好川哲人:プロジェクトマネージャーが成功する法則―プロジェクトを牽引できるリーダーの心得とスキル
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