第5回(2004.09.30) 
戦略的な計画を作る
 

◆戦略的な計画と、戦略的でない計画

 みなさんは戦略的な計画と聞いて何を連想されるだろうか?
 戦略とは「目的を達成するために資源を如何に使うか」であり、そのように考えるとプロジェクトの計画は戦略そのものだといえる。その計画が戦略的とはどういう意味か?

 逆に、戦略的でない計画というのを考えてみると分かりやすい。まったく実行を考えていない計画というのがよくある。例えば、単に予算に見積もりを合わせただけの計画というによくお目にかかる。メンバー一人当たりの作業効率の数字があり、その数字で作業全体を割って、単に数字としての計画を作るケースだ。この通りにプロジェクトが進むことはまずない。もっと問題なのは、計画との差異が生じてきたときに対応が難しく、これが実行できない原因になる。計画の中に作業のイメージができていないのだ。

 これに対して、戦略的な計画とは、「どのように実行するかを明確にした計画」である。言い換えると、「このプロジェクトをこのように実行しよう」という意思であるといってもよい。


◆計画を戦略的にするポイント

 では、計画を戦略的にするにはどうしたらよいか?総じていえば、将来を予測し、手の内で対処することだ。将来を適切に予測するには、3つのポイントがある。

(1)現在、分からないことに対して、適切な仮定をする
(2)プロジェクトと実施環境がどのように変わっていくかを予測する(シナリオ)
(3)予測と現実にギャップを予想し、その対処を想定しておく

 まず、最初は分からないことに対して適切な仮定をすることだ。ITの世界ではよく、ユーザからの仕様が変わるというトラブルがある。これは、えてしてユーザの責任だと見られがちだが、必ずしも正しくない。ユーザの立場からしてみれば、決めていないだけであって、変更したという意識がないケースが多い。SIが「プロフェッショナルサービス」であることを考えると、この問題はむしろ、ベンダープロジェクトが適切に仮定できていない責任をユーザに転嫁していると捉える方がよい。実際に、意思決定行動として、決まっていないのだから作りやすいような方向に仮定するという心理が働く。

 そうではなく、顧客のゴールがどこにあり、そのゴールに到達するためには顧客が何を求めるかという分析をすれば、適切な仮定をおくことが可能になる。これはリスクではないので注意しておいて欲しい。リスクという観点でいうなら、「あえてリスクをとる」という行動として位置づけられる。

 二番目は時間とともにプロジェクトがどのように推移していくかを予測することである。これはプロジェクトマネジメントのいろいろな側面でいえることだが、特に、計画については重要だ。計画は一度策定してしまうと固定化することが多い。絶対に従わなくてはならないもので、従えない場合にはマイルストーンという中間ゴールの辻褄を合わせるために、他は見なかったことにする。

 しかし、現実のプロジェクトでは、計画と策定したときのプロジェクト外部環境が変わらないことはありえないといってもよい。顧客側に目を向ければビジネスの環境は3ヶ月もすれば変わる。社内に目を向ければ、別の大型プロジェクトを受注すれば、それだけでも環境は変わったことになる。

 このような中で重要なことは計画を死守することではなく、計画を柔軟に変更していくことだ。ただ、その場しのぎで計画を変更していくことはプロジェクトを余計に混乱させるだけで、そこで、計画段階での将来予測というのが必要になる。つまり、今後、顧客、プロジェクトの内部、自社組織は、自社の経営環境、顧客の経営環境がどのように変わるかをシナリオとして予測しておけることが重要である。

 三番目は予測したことに対して、どこで現実とのギャップが生じる可能性が高いかを見定め、そのギャップが生じたときにいかなる対応をするかを予め決めておくことが必要である。

◆この行動特性のために必要な
コンピテンシー
 この3つの行動特性は、コンピテンシーとしては戦略的にものごとを進めるコンピテンシーによりもたらされる。

・戦略指向性
  先々の展開を予想し,目標達成にむけて戦略性のある発想ができる

・バランス感覚
  複数のものごとのバランスを保ちながら,全体を進めていく

・リスク管理能力
  リスクをきちんと認識し,そのリスクを踏まえた発想をする

 そして、これらのコンピテンシーの背後に、

・分析思考力
  原因と結果の間の関係を突き止め,それに基づいて考えを展開していくことができる

が必要になる。

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