第10回(2004.11.08) 
常に自分をコントロールされた状態に保つことができる
 

◆自分をコントロールするとは
いよいよ、できるプロジェクトマネージャーの行動特性もこれで最後になる。最後は、自分自身をコントロールするとことだ。

プロジェクトマネージャーが自分をコントロールするとはどういうことだろうか?例えば、スケジュールが遅れてきてまずいと思ったときに、冷静に対処する。顧客から突然仕様変更を言われたときに冷静に対処する。イメージはいくらでもあるが、共通的にいえることは、問題が発生したときに、問題発見、問題解決のプロセスをいつもどおり走らせることができ、同時にメンバーに対して、あるいはチームに対して、しっかりと納得性のあるメッセージを発信することである。

このような行動を取るには、自分の感情をコントロールすることが必要だ。しかし、その方法は人によってさまざまであるし、また、人によっては感情を抑えないほうがコントロールできるという人もいるだろう。ここでは、エンジニアからのキャリアパスでプロジェクトマネージャーになってきた人を念頭に置き、著者のメンタリングの経験の中から、比較的、効果的だと思われる方法を紹介する。

◆自分をコントロールする効果的な方法
その方法はそんなに難しい方法ではない。常に目的に立ち返るという方法である。例えば、顧客が無理な仕様変更を申し入れてきたとしよう。これに対して、そのことの是非を考える前に、目的との整合性を考える習慣を付ける。この習慣は、エンジニアであれば、現象に対してその理由を論理的に考えるといった習慣があるので比較的容易に実行できる。

このような習慣を付けることは2つの効果がある。一つは、このような習慣は問題に直面したときに、ふっと自分を客観視することにつながることだ。人間が冷静さを欠くのは、当事者であるが故という場合が多いが、このように相手の立場になり、相手の目線でどう見えるかということを考えると不思議なくらいに冷静になれるものだ。もう一つは副次的な効果であり、顧客満足度が上がる。あるいは、ステークホルダの満足度があがることである。

この構図は一つ間違うと滅私奉公になる。一昔前の日本のビジネスマンには、私を捨てることにより、うまく行動するタイプの人が多くいた。つまり、自分が組織(あるいは組織のマネージャー)であればどうするかということを真剣に考え、それを実行することにより成果をあげてきた。ここでいわんとしていることはこれではない。自分はきちんと持つ。その上で、相手の立場で、自分ならどうするかということを考える。さらには、そのことを踏まえて最終的な意思決定をする。この部分が異なるのだ。

◆コントロールするためのポイント
さて、このような振る舞いをしようとしたときに、何がポイントになるのだろうか?一つは自分を見失わないことだ。例えば、素人がカウンセリングをすると相手に引き込まれて、しまい、自分を見失うことがある。ここが難しい。距離を置いたままでは相手の考えていることは分からない。このような場面で自分をしっかりと保ったままで振舞っていくには、そのこと自体に相当にしっかりとした自己統制ができることが求められる。

それよりも大きいのが自信を持っていることである。ITエンジニアは外部から刺激(例えば、仕様変更)があったときに、反射的に反応してしまう人が多い。だから、このような方法を提案しているのだが、これは自信のないことの現われであることが多い。自信があれば、相手の考えもしっかりと聞けるが、自信がないと相手が何か言い出すと、まず、自分の立場を守るための反応をするのだ。

セルフコントロールに限らず、この自信というコンピテンシーはきわめて重要である。例えば、計画を立てるときに自信があるのとないのでは、出来上がる計画の目配りがぜんぜん違ってくる。

◆リスクを楽しむ自信
もっと、大きく言えば、リスクに対する対処が大幅に変わってくるのだ。よくリスクマネジメントでテンプレートをもち、組織として同じ対応をできるような取り組みをしている企業がある。これはリスク計画をするには有効だが、リスクコントロールをするにはあまり有効ではない。プロジェクトマネージャー、あるいはプロジェクトメンバーの個性によってリスクをコントロールしやすい方法が異なるためだ。その方法を類型化すれば、真っ先にこの自信というコンピテンシーを持つ人と、持たない人で変わってくる。自信がある人はリスクを楽しむことができるが、自信がない人はリスクが邪魔だし、うっとうしいものだ。この議論は、ITのように組織によるプロジェクトマネジメントの支援が大きな効果を持つ分野ではそんなに色濃くないが、例えば、ネットもろくに使えないような場所に行って地域開発をするというプロジェクトを想像してみれば、いかに重要な話か分かるだろう。もちろん、ITでは組織支援ができるからこのような側面は必要がないということではない。プロジェクトマネージャー個人の資質としてあった方がよいに決まっている。


◆この行動特性のためのコンピテンシー

 このように行動できるには、2つのコンピテンシーが重要である。ひとつは

・自己統制力
 ストレスやプレッシャーの中でも自己を安定した状態に保つことができる

であり、そのベースになるのが

・自信
 リスクの高い仕事に挑戦する,あるいは,権力のある人に立ち向かうことができる

である。

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