第1回(2003.12.22) 
卓越か、必要最小レベルか?
 

◆PMコンピテンシーの動向

 実は、2002年7月13日に発行した戦略ノート第12号に「エクセレントなプロジェクトマネジメントOSを身につけよ!」という記事を書いている。

 この記事はあまり反響がなかったが、最近出版した書籍の序文に、プロジェクトマネジメントOSという概念を提唱したところ、たくさんのお問い合わせや共感のメールを戴いた。ありがとごうざいます!

 この間に、PMI(米国プロジェクト協会)からPMCD(Project Managemet Competency Development Framework)が発表された。これによって、「PMコンピテンシー」という考え方が普及してきたことが、PMコンピテンシーへの関心を呼んでいるのだと思う。

 「プロジェクトマネージャーの道」で、何回か解説を書いたが、PMコンピテンシーとはプロジェクトマネジメントを行うのに必要な「適性」である。

 プロジェクトマネジメントを行うために必要な適性というのは、運転免許を取得するときの試験をイメージすればよい。視力0.7以上、手足がちゃんと動くといったレベルの運動能力など身体機能、車の動かし方、交通ルールなどの知識、安全運転をする、常に冷静であるといったマインドである。これらは、F1レースで走るために必要な適性ではなく、一般道で車を運転できるのに最低限必要なものである。


◆2種類のPMコンピテンシー

 ところが本来、コンピテンシーには2つの種類がある。人によっていろいろな呼び方があるが、コンピテンシーの大家ライル・スペンサーは、「必要最低レベルのコンピテンシー」と、「卓越を示唆するコンピテンシー」と呼んでいる。上の運転免許の例は「必要最低レベルのコンピテンシー」である。F1であれば、(よく分からないが)、動体視力の高さや聴力、エンジンのメカニズム、他の車の動きの予測、競争心など、はるかに多くのものが必要になるのだろう。こういうものがドライバーとしての「卓越を示唆するコンピテンシー」ということになるだろう。

 PMCDは「必要最低レベルのコンピテンシー」のフレームワークであるが、プロジェクトマネジメントOSは後者の「卓越を示唆するコンピテンシー」である。

 ここでこんなことを考えてみて欲しい。あなたの会社の営業マンで1ヶ月の100個の商品を売る営業マンと、500個の商品を売る営業マンがいたとする。どちらが優秀ですかと聞かれるとどちらを選ぶだろうか?

 あなたの会社の外注先のプログラマで1ヶ月に10個のモジュールを完成させるプログラマと、同規模のモジュール20個を完成させるプログラマがいたとする。どちらが優秀だと聞かれたら、どちらを選ぶだろうか?

 営業マンの場合、まず、間違いなく、500個の方を選ぶだろう。プログラマの場合、商品を売るほど単純に比較はできないものの、おそらくは誰に聞いても20個のモジュールを完成させるプログラマが優秀だというだろう。


◆PMの業績を何で評価するのか

 では、プロジェクトマネージャーの業績を評価するときに、営業マンの商品販売個数や、プログラマの開発モジュール数に相当するものは何か?

 実は、PMコンピテンシーの導入をするときに、必ず、問題になるのはここである。好川が「プロジェクトマネージャーとしてのあるべき姿」にこだわるのもここだ。

 ここがはっきりしなくても、「必要最低レベルのコンピテンシー」は定義できる。

 しかし、ここをはっきりさせないと、「卓越を示唆するコンピテンシー」が明確にならないというのは、容易にご理解戴けると思う。

 この問題はPMコンピテンシーの導入の根幹に関わる問題だ。つまり、何のために、PMコンピテンシーを導入するのか?という問題である。PMCDはPMBOKがプロジェクトマネジメント標準であり、その標準に則ってプロジェクトマネジメントを行うための「必要最低レベルのコンピテンシー」である。つまり、組織の中の誰もが同じようにプロジェクトマネジメントを行える「組織力」を構築することを目的に導入するものだ。

 これに対して、「卓越を示唆するコンピテンシー」を導入するというのは、標準より高いやり方、つまり、「ベストプラクティス」を全員で共有しようという発想である。


◆PMは「攻め」か、」「守り」か
 どちらがいいとか悪いとかではないし、一方のみである必要もない。導入対象職種の性格の問題であり、また、企業の戦略の問題でもある。一般論で言えば、営業マンであれば、ベストプラクティス型の方が多いが、プロジェクトマネージャーであれば「必要最低レベルのコンピテンシー」(スレッシュホールド型)の方が多いだろう。営業マンが攻めの職種(成功を目指す)であるのに対して、プロジェクトマネージャーは守りの職種(失敗しないことを目指す)だからだ。

 しかし、プロジェクトマネジメントOS本舗では、プロジェクトマネージャーを守りの職種だとは考えていない。詳しくは、この連載の中で述べていくが、攻めのプロジェクトマネジメントはソニーやホンダのように創造性を重視する企業戦略では不可欠な要素だからだ。IT企業でも今後、そのようなプロジェクトマネジメントが必要になってくることは明からだ。

 このあと、プロジェクトマネジメントOSのバックグランドになっているプロジェクトマネージャー像(つまり、どういうプロジェクトマネージャーができるプロジェ
クトマネージャーなのか)を紹介していくが、今回はここまでにして、みなさんの意見を募集したい。


◆意見大募集!

 プロジェクトマネージャーのコンピテンシーとして考えるには、「必要最低レベルのコンピテンシー」と「卓越を示唆するコンピテンシー」のどちらが適しているのだろうか?もし、後者の場合、上で述べた営業マンの販売商品個数やプログラマの開発モジュール数に相当するプロジェクトマネージャーの評価指標はなんだろう?

 意見をお待ちしてます!

◆お奨め図書
  好川哲人:プロジェクトマネージャーが成功する法則―プロジェクトを牽引できるリーダーの心得とスキル
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読者からのコメント
プロジェクトマネージャーの評価指標
難しい問題ですね。
田坂広志氏風に考え、
評価には報酬が伴うものとして、
社内的には、採算・メンバー育成(意見はあるだろうが):現物報酬と社内的な人脈報酬
社外的には、評判・リピートオーダ:評判報酬と社外的な人脈報酬
きっちりとした指標で表せないけれど・・
工藤芳朗(45歳)
PMの評価指標は?
簡単で恐縮ですが、基本はQ(品質)、C(コスト)、D(納期)に対し、PJで数値による目標をたて、その目標をどれくらい達成できたかだと思います。守りの場合は、最低限の目標とし、攻めの場合は、Qを最大限まで上げ、Cを最大限に下げ、Dを最大限に前倒しし、顧客の満足度を上げ、次のPJを獲得することでしょう。
岡本(41歳・NCOS)
コンピテンシーという言葉そのものが「優秀な実績を上げている人の行動特性」ですから「攻めか」「守りか」といったら両方という事になりますね。様はバランス感覚ですね。
実際現場を担当すれば、担当プロジェクトで運否天賦が有ります。いいユーザに恵まれればよい実績がでるし、いい部下に恵まれればこれまたよい実績がでる。
ひろ(49歳・ERP導入コンサルタント)
実感として「いいユーザに恵まれればよい実績がでるし、いい部下に恵まれればこれまたよい実績がでる」というのは非常によくわかりますね。読者の方も、共感されるところだろうと思います。問題は、以下に顧客を良いユーザに変え、部下をよいプロジェクトメンバーに変えていくかですね、、、 好川哲人

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