プロセス14:プロジェクトマネジメントクリニック
ケース13:意思疎通ができない

■相談16:(Nさん、SI企業、32歳、PMP)

今回、3回目のプロジェクトマネジメントの経験中です。

今回のプロジェクトだけということではないのですが、メンバーとの意思疎通がうまく行かないのを感じることが多くあります。たとえば、

・顧客からの注文をメンバーに伝えたつもりが、実際には正確に伝わっておらず、
 手戻りが発生する

・問題対処を依頼したのに、期限や方針がうまく伝わっていない

といったことが頻繁に発生しています。

コミュニケーション計画は作っており、実行しているつもりです(ミーティング、伝達などについては計画通りに行っています)

どのような解決方法が考えられるのでしょうか?

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◆好川哲人の問診
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(この相談は、コンサルティングの中であった事例をまとめたものです)

好川「まず、コミュニケーション計画では何を決めていらっしゃるかという点から教えてください」

Nさん「はい、進捗などの定例ミーティングの開催タイミング、マイルストーンミーティング、是正、計画変更の際の調整方法、顧客定例ミーティングのタイミング、内容といったところです」

好川「進捗コミュニケーション、マイルストーン、計画変更コミュニケーション、顧客コミュニケーションについて、タイミング、アジェンダを決めているという理解でよろしいですか」

Nさん「はい、そういうことになりますね」

好川「計画レビューはどうされていますか」

Nさん「やっているかどうかは結果ですので、分かります。メンバーが発信者になるコミュニケーションについては、実施されていない場合には、フォローをして実施させるようにしていますが」

好川「なるほど、形は問題なさそうですね。問題はコミュニケーションの内容ということになります。たとえば、進捗コミュニケーションと、マイルストーンでのコミュニケーションの間にはどのような違いがあるのですか」

Nさん「報告の相手が違いますが、それ以上のことはあまり考えてないですね。進捗報告は1週間に1度行っていますが、その拡張版としてマイルストーンごとに上司や事業部長などを入れて行うといったイメージをしています」

好川「分かりました。まず、各コミュニケーションの目的を明確にする必要がありますね。コミュニケーションでコミュニケーション行動自体は実施しているのにコミュニケーションがうまく行っていないケースはよくコミュニケーションスキルが問題視されます。報告の方法だとか、あるいは、しゃべり方だとかですね。ところが、よく考えてみるとすぐに分かるのですが、コミュニケーションの目的が明確になっていないのに、コミュニケーションがうまくいくというのは考えにくいものがあります。この問題に対処するために、コミュニケーションの際にはよく「目的を確認してから行う」といったことがコミュニケーションスキルの一部として語られます。しかし、プロジェクトマネジメントでは、折角、コミュニケーション計画を作っているわけですから、その中で目的を明確にしておけばよいのです」

Nさん「まず、コミュニケーションの目的を明確にすることですね。分かります。そのように整理してみると、きっと、意味のないコミュニケーションも行っているのでしょうね」

好川「よい点に気づかれましたね。コミュニケーションというのはとにかく重要だ、プロジェクトの失敗はコミュニケーションが原因になっていることが多いと考える人が多いのですが、弊社がある会社で実施した調査では、実は、余計なコミュニケーションというのが悪影響を与えているケースもよくあります。たとえば、顧客からの要求について、営業は現在のプロジェクトの後の話をし、メンバーは現プロジェクトについての話をする。結果として、異なる要求が出てくる。といったことですね。目的が明確になっていれば、このような混乱は減ることになると思います」

Nさん「目的を明確にすれば、だいたい、意思疎通はできますか」

好川「私の経験では、意思疎通の問題は半減します。しかし、ほかにできることはないかというと決してそんなことはありませんでの、できることは、できる限りするというスタンスが必要だと思います」

Nさん「といいますと?」

好川「まず、目的と関係してきますが、コミュニケーションチェックリストを作るという方法があります。コミュニケーションではあまり議論されませんが、コミュニケーションにも明らかに質があります。これが意思疎通云々という問題の本質からもしれませんね。チェックリストというのは、品質チェックリストです。目的が達成できたかどうかを、もう少し、詳細な観点からチェックするのです。項目的には

 ・合目的性
 ・正確性
 ・容易性
 ・タイミング
 ・計画性
 ・納得性

といったことが考えられます。もちろん、チェック項目は自由に設定できますし、もっと、具体的な内容の方がチェックしやすければ、そのような内容にすればよいわけです」

Nさん「そのチェックリストというのは、誰がどのように使うのでしょうか」

好川「まず、すべてのコミュニケーションをそのような形でチェックするというのはナンセンスですので、コミュニケーションカテゴリのプロジェクトの影響度に応じて、選別をする必要があります。その上で、プロジェクトマネージャー、メンバーの各人がセルフチェックしておき、それを進捗会議などの機会をもちいて持ち寄り、突合せを行うことにより、チームとしての意思疎通の問題がないことをチェックし、チームとしてのコミュニケーションの押さえどころに関する共通認識を作っていくというのがよいでしょう。」

Nさん「そのほかに何かありますか」

好川「そうですね、もうひとつ上げるならば、インフォーマルコミュニケーションを推進するというのが大切ではないでしょうか?つまり、コミュニケーション計画に出てこないコミュニケーションを重視するという姿勢ですね」

Nさん「それはよく分かります」

好川「コミュニケーション計画を作ると、コミュニケーションを情報伝達の手段として考える傾向がありますが、本来、コミュニケーションの役割はそれだけではありません。コミュニケーションを行うことそのものが目的になる場合も少なくありません。たとえば、メンバーの愚痴を聞くとか、お客様の想いを聞いてあげるとかすることによって、問題が大きくなることを防ぐことができます。そんなコミュニケーションは充足的コミュニケーションと呼ばれることがあります。このようなケースでは相手は、何か変えたいというよりも、とりあえず、話をしたい、分かってほしいといったところに重点があるからです。このようなコミュニケーションはインフォーマルに行うのがよいと思いますが、普段、そのようなコミュニケーションができていて、初めて、いざというときに、コミュニケーションで意思疎通が可能になる、言い換えると、コミュニケーションを情報伝達、意思伝達の道具として使えるようになると考えるべきでしょうね」

Nさん「なんか、すっきりしました。これも充足的コミュニケーションの効果でしょうか(笑)。ありがとうございました」

 (2005年7月7日号より)
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