プロセス14:プロジェクトマネジメントクリニック
ケース10:PMコンピテンシーを身につけるには

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■相談12:(Tさん、IT企業人材開発部門、37歳)
タイトル:PMコンピテンシーって何?
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最近、PMコンピテンシーという言葉をよく聞きますが、これはどんなものを指して
いるのでしょうか?

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◆好川哲人の解説
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◆コンピテンシーとは

PMコンピテンシーというのは、プロジェクトマネジメントの能力を測る指標です。具体的にどんなものかを説明する前に、コンピテンシーとは何かを説明しておきます。

コンピテンシーとはさまざまな分野での「行動特性」を指しています。もともとは米国で公務員の作業の能率を上げるために考えられた概念です。公務員が効率よく仕事をするためにはどのような行動特性を持っているか研究したのです。

コンピテンシーはよく、「できる人の行動特性」という言い方をされます。これは、実際に必要なコンピテンシー(コンピテンシーモデルと言います)を探し出すときに、できる人たち(業績の高い人)の行動を分析し、その人たちの持っている特性をコンピテンシーとして採用するという方法をとることが多いためです。

コンピテンシーでもっとも研究が進んでいるのは、営業分野です。営業マンのコンピテンシーは、できる営業マンがどのような行動特性を持っているかを抽出し、それをみんなが身につけていこうと考えたわけです。


◆コンピテンシーが必要とされる背景

コンピテンシーという考え方の背景をよく理解しておく必要があります。

たとえば、営業を考えて見ましょう。営業のハウツー本はいやというほどあります。
ところが、そこに書いてあることを実践してもみんながみんなスーパー営業マンになれるわけではありません。まだ、ほかにも何か能力を決めている要因があると考えられ、それをコンピテンシーと呼んでいるわけです。

では、公務員や営業マンの仕事に共通している点はなんでしょうか?こうやれば、みんなが同じようにできるという「方法」がないのです。あれば、それを明確にしていけばよいわけです。ただし、まったくないというわけではありません。たとえば、営業だと提案営業はこういうプロセスで進めましょうといった手法がありますし、店頭販売のトークの進め方も一種の手法かもしれません。ところが、そのとおりにやっても人によって成果が違います。

その原因は何かとなったときに、その手法を使いこなす能力というのが真っ先にあげられます。話し方や相手への接し方のようなヒューマンスキルもありますし、相手が何をほしがっているかを読み取るコミュニケーションスキルもあるでしょう。相手のほしいものを必要なものだという説得ロジックを構築するような能力も必要です。手法を知っていることに加えて、その手法を使いこなすこれらの力が加わって初めて、モノが売れます。


◆プロジェクトマネジメントにも決定的方法はない

さて、「こうやれば誰もが同じ成果を挙げるという方法がない」というのはプロジェクトマネジメントにも当てはまるのではないでしょうか?WBSとか、EVMといったプロジェクトマネジメントの手法があります。しかし、その効果は使い手によって違います。その手法を使いこなす力がコンピテンシーになっているわけです。

ここで、プロジェクトマネジメントと営業活動を較べてみると、決定的な違いがあることを理解しておく必要があります。

それは、手法でどこまでできるかという点です。上に述べましたように、営業にもいくつかは手法と呼べるものがありますが、一般的に成果ははほとんど営業マンの手腕にかかっていると考えられています。つまり、コンピテンシーにかかっているわけです。

これに対して、プロジェクトマネジメントの場合は、手法を知っていれば、ある程度のことができます。たとえば、WBSとPERT、CPM(クリティカルパスメソッド)をある程度知っていれば、スケジュールはそれなりに作れます。このため、大きな比重を占めている手法の知識もコンピテンシーの一部だと考えられています。

ここで、もうひとつ、注意すべきことがあります。それは、知っていることと、やることは別だということです。よく「評論家」と呼ばれる人がいます。これはやり方は知っているけど、実際にはやらない人たちを指した言葉です。

もう一度、営業マンを例にとって考えて見ましょう。ある人がほしがっていることはわかっても、実際にその人のところに売りにいくかどうかは別問題ですし、意外とこのギャップは大きかったりします。この売りにいくという行動ができるというのもひとつの能力です。


◆PMコンピテンしーには3種類ある

このような考えた場合、PMコンピテンシーには3つの要素があることがわかります。

一つ目は、知識です。そこには手法だけではなく、ノウハウのように経験から得られた知識も含まれてきます。

二つ目は、行動力です。つまり、自身が持っている知識によって実際に行動に移せることです。

そして、三つ目がいわゆるコンピテンシーで、それは行動をより成果が高くなるように実行できることです。


◆具体的なPMコンピテンシーのイメージ

三番目のコンピテンシーはイメージがにくいかもしれませんので、具体的なPMコンピテンシーのイメージをあげておきます。これは、pmstyleで使っているコンピテンシーモデルの一部です。

・アカウンタビリティ
目標達成のための自己の責任を明確に自覚し,結果に対して責任のある行動をとる

・自信
リスクの高い仕事に挑戦する,あるいは,権力のある人に立ち向かう

・リーダーシップ
メンバーを効果的にともに働くように導いたり,動機付けを行う

・アナロジー思考力
ある分野の現象を,まったく異なる分野の現象に置き換えて考える

・顧客志向性
顧客を大切にし,顧客の関心に最大の注意を払う

・顧客説得性
顧客にとっての真の利益を察知し,顧客の要望とのギャップを埋める行動をとる

・創造性
新たな発想で事実や技術の活用を考える

・戦略指向性
先々の展開を予想し,目標達成にむけて戦略性のある発想ができる

・リスク管理能力
リスクをきちんと認識し,そのリスクを踏まえた発想をする

・バランス感覚
複数のものごとのバランスを保ちながら,全体を進めていく

・実行力
目標の達成を阻害するさまざまな抵抗にひるまず,次々と新たな行動を起こす

・問題解決能力
目標達成を阻害する問題を迅速かつ,適切に処理する

・自己統制力
ストレスやプレッシャーの中でも自己を安定した状態に保つことができる

・徹底確認力
ものごとを体系的に捉え,曖昧さを排除し,詳細にまで注意を払いながら行動する

・現象観察力
起こっていることをきちんと観察し,それを多面的に比較し,検討することができる

・分析思考力
原因と結果の間の関係を突き止め,それに基づいて考えを展開していくことができる


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■相談13:(Tさん、工作機械メーカ品質管理部門長、52歳)
タイトル:チーム系のコンピテンシーを上げるには
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御社のPMコンピテンシーのチェックを継続的に活用させて戴いています。10人くらいのプロジェクトマネージャーがいて、いろいろとPMへの取り組みをしているのですが、どうしてもチームのコンピテンシーがあがりません。弊社はワークショップ形式の工場になっており、チームワークが効率のポイントの一つになっています。何をすればあがるのでしょうか?
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◆好川哲人の見立て
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◆チーム系のコンピテンシーは身につきにくい

具体的に10人のプロジェクトマネージャーの方にお会いしていないのでなんともいえない部分がありますが、おおむね、以下のようなことがいえると思います。

弊社のPMコンピテンシーモデルでは、チームのコンピテンシーは、リーダーシップを重視しています。これは、なかなか、研修などでは身に身につきにくいコンピテンシーですので、いろいろな取り組みをされているにもかかわらずあまり、あがらない理由になっているのではないかと推測します。


◆行動規範を意識して行動しよう

このコンピテンシーを向上させるには、リーダー行動を強く意識し、それを習慣化するという取り組みが必要だと思います。このために、お奨めの行動規範として

メンバーやステークホルダに、自らのコントロールでできることだけではなく、間接的な影響を与える行動を、相手から言われる前に実行する

というのをさまざまな局面で心がけるようにされるとよいかと思います。御社がプロジェクトマネージャーを組織上、どのように位置づけられているかわかりませんが、一般的にいえば、ラインと異なり、メンバーに対する命令はできず、メンバーに動いてもらうという立場になります。すると、メンバー次第ということになりがちですが、ここで、上に書いたことを意識して見ます。つまり、メンバーに対して、自分が動いてほしいように動くように(命令する以外の)何らかの働きかけをします。たとえば、メンバーの分担している役割が如何に会社やプロジェクトにとって以下に重要なものかを説明し、メンバーが意気に感じて行動する。こういう状況を作るです。

このようなメンバーに対する働きかけは、場面や問題によってさまざまなことがありますが、常にそのようにメンバーを自発的に動かす習慣づけをするわけです。このような習慣ができたときには、必ず、プロジェクトメンバーの人のチームのコンピテンシーは向上すると思います。ぜひ、取り組んでみてください!

 (2005年6月9日号より)
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