第18回(2006.09.15)
感度分析
プロジェクトマネジメントオフィス 鈴木道代 
 
前回は、「定量的リスク分析」のツールと技法であるデシジョン・ツリー分析とモン
テカルロ・シミュレーションを取り上げました。

モンテカルロ・シミュレーション

今回も「定量的リスク分析」のツールと技法である感度分析を取り上げます。

◆感度分析
感度分析は、プロジェクトに最も影響を与える可能性があるリスクを明らかにすることができるツールです。それは、他のすべての不確実要素をベースラインの値(基準値)に固定した状態で、あるリスクがプロジェクト目標に対してどのようなインパクトを与えるかを調べることができるからです。

感度分析は、そもそも予測損益計算書や予測キャッシュフロー表を作成する際に使われる分析手法で、ある要素(変数)が予測値から変動したときに、最終利益やキャッシュフローにどれくらい影響を与えるかを調べ、計画の安定性や危険度などを探るために使われる手法です。

そして、その変動は「予測した数値から上下20%以上外れることはそれほどない」という経験則から、通常上下20%と仮定します。

例えば、為替の変動による利益に対して、何が最もインパクトを与えるかについて、感度分析を行うとします。

ここでは、予測として以下の数値を考えてみます。
売上高:280万円
固定費:150万円
変動費率:0.4(変動費率 = 変動費 ÷ 売上高)
利益:18万円 (売上高180万−固定費150万−変動費280万×0.4)

利益に対して、どの要素(変数)が最もインパクトを与えるかを考えます。

1.変数として売上高を取り上げて、上下20%変動すると考えると
  ●売上高:224万(80%)〜336万(120%)
  固定費と変動費率を一定とすると
  ●利益 :−15.6万〜51.6万

2.変数として固定費を取り上げて、上下20%変動すると考えると
  ●固定費:120万(80%)〜180万(120%)
  売上高と変動費率を一定とすると
  ●利益 :48万〜−12万

3.変数として変動費率を取り上げて、上下20%変動すると考えると
  ●変動費率:0.32(80%)〜0.48(120%)
  売上高と固定費を一定とすると
  ●利益 :40.4万〜−4.4万

この結果からは、利益に対して売上高が最もインパクトを与えるということがわかり、利益を安定させるためには売上高の安定が最も重要であり、そのためには、たとえば、固定客を増やすことが必要があると考えることができます。

感度分析の表示方法には、スパイダーチャートとトルネードチャートがあります。

スパイダーチャートは縦軸に結果(この場合利益)を、横軸に変数(この場合、売上高、固定費、変動費率)を−20%から+20%をとり、計算結果をグラフで表現(この場合、一次関数グラフ)し、インパクトのある変数を図示する表示方法です。
くもの巣のような形状をしているため、スパイダーチャートと呼ばれています。

トルネードチャートは上下20%(合わせて40%の範囲を考える)ではなく、レアケースである上限10%と下限10%を除く80%で変数のとりうる値を考える方法です。

例えば、スパイダーチャートでは、変数として売上高を考える場合、基準値から上下20%を変動としましたが、トルネードチャートでは、売上高の変動は、下限を下回る確率は10%であり、上限を上回る確率は10%であるような上限と下限の売上高を設定し、同様に利益を計算していきます。

つまり、上限と下限の値を関係者間の同意を得て設定することによって、感度分析を行う方法です。
そして、トルネードチャートではインパクトの大きい変数から上から順に並べて図示していき、どの変数がインパクトが大きく、また、コントロールしやすいかを考えていきます。
この形が竜巻に似ていることからトルネードチャートと呼ばれています。

通常は、単純に上下20%の変動をみていくスパイダーチャートの弱点を補い、より現実的な変動を考えるトルネードチャートを使って、感度分析を行います。

定量的リスク分析では、プロジェクト完了日や完了時総コストなどの目標値に対して、それぞれのリスクを変数として、目標値にどれだけインパクトがあるかをトルネードチャートを作成することで感度分析を行い、どのリスクが最も影響があるかを分析します。

次回は、「リスクの監視コントロール」のツールと技法を取り上げます。

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PMBOKは、米国PMIの商標(R)です。
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読者からのコメント
感度分析は、エンジニアリング分野では古くから行われており,重要なエンジニアのオペレーションです。リスク対策などでも,リスクがどちらに振れやすいか、どの程度振れるか−などは、感度分析の基本に同じです。エンジニアリング上も,固有の特性について感度分析を行い,安定条件を探し出し,安定域で使用するのが,ロバストザインであり、6σの基本にもなっています。非常に大切です。参考になりました… 堀内政信(60歳・(株)日立エンジニアリング・アンド・サービス)
エンジニアリング分野のことはあまり、知らず、こちらこそ、大変、参考になります。 鈴木道代

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