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第5回(2002.05.25) 
顧客満足とプロジェクトマネジメント(1)
 

  プロジェクトマネジメントというのは戦争や宇宙開発に必要性を迫られたその発展経緯からも分かるように,大規模な人工物をうまく作るために存在している.それゆえ,スコープ(成果物),コスト,スケジュール,品質を約束どおりに顧客に(オーナー)に提供する大切であり,それを達成するために,調達,リスク,コミュニケーション,組織などをちゃんと管理しなさいという話になる.

 ここで,ふと疑問に思うことがある.それは,「顧客は本当にそれで満足するのであろうか」という疑問である.確かに,顧客からすれば,自分ではとても作れないような大きなソフトウエアやビルを,計画を立て,計画通りに作り上げていくコンストラクターの姿にある種の尊敬の念を抱いていることは間違いない.しかし,このことと,顧客が満足することは別の次元の問題であることも確かである.
 顧客の満足ということに関して言えば2つの側面がある.一つは,成果物が本当に顧客の要求したものになっているかどうかである.この要求の中に当然,納期,品質,コストというのが入ってくるわけであるが,決してそれだけではない.顧客の要求する仕様をきちんと反映できていないこともよくある.もうひとつは,成果物へたどり着くプロセスが顧客の望むものであるかどうかである.この2つは一見,異なる問題のように見えるが,実は深く関係している.

 みなさんは発注者が十分に協力してくれなかったため,プロジェクトがうまく進められなかったという経験はされたことはないであろうか?プロジェクトの非常に厄介なところはプロジェクトのスコープの中に顧客の作業が入ってくるという点である.ここで主客が逆転することがよくある.つまり,顧客からすれば自分のためのプロジェクトであるにも関わらず,いつの間にかコンストラクターの指揮系統の中に入って使われている立場と勘違いするというケースである.

 この問題は結構深刻な問題である.顧客がどのくらいプロジェクト作業にコミットするかは別にして,いつの間にか,当事者でなくなっているケースはよくある.例えば,情報システムの構築で,顧客自身が決めた仕様のものを作ると,なぜこんなものを作ったのだと言い出すようなケースである.

 これが良いか悪いかは別にして,顧客満足ということでは重大な問題があることは確かである.顧客は成果物には満足しても,プロセスには満足していない.だからこそ,このような問題が起こるのである.品質についても,ISOでも絶対品質から知覚品質に関心が行くようになっていることを考えると,プロセスの顧客満足度を向上させることはこれからの流れでは不可欠であろう.
 多くのプロジェクトマネージャーはこの違いを無視しているが,実際にはプロジェクトの成果物が顧客とコンストラクターの共同作品である情報系などではとても重要な問題であるし,一般的に考えても,顧客がプロセスに満足せずに,満足な成果物が生み出せるのであろうかという疑問もある.

 では,プロセスの顧客満足を上げるにはどうするか?顧客には2つのタイプがあるようだ.一つは任せっぱなしにしたい顧客と,もうひとつは一緒にやりたい顧客である.今までのプロジェクトマネジメントのスキームが前者に対して考えられてきたことは間違いない.後者に対してすべきことは一つだけである.プロジェクトのアカウンタビリティ(説明可能性)を高めることである.データだけではなく,方針など,ソフト的な部分についても共有することである.それなら今でも,進捗会議はやっているし,問題ないという方も多いだろう.本当かということをもう一度考えて欲しい.プロジェクトマネジメントの視点は本来顧客視点ではありえない.例えばリスクの問題をとってみれば直ぐに分かる.もし,顧客視点で顧客に進捗の説明をしているのであれば問題ない.しかし,顧客視点でなされていない,つまり,顧客には分からない形での説明しかされていなければ,それは上に述べたように顧客の当事者意識の欠如を招き,それがひいてはプロジェクトの障害になるということを忘れてはならないだろう.

 さらにいえば,より成果物の効率を上げるためには前者を後者に変えていくことも必要であろう.この問題については,また,機会を改めて考えてみた.

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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