第30回(2002.01.20) 
経験を客観化する
 

 ◆プロジェクトマネジメントには経験が大切
 プロジェクトマネジメントOS本舗では、年末から年始にかけてアンケートを実施した。詳しい結果はまた、別途フィードバックするが、その中に「PM能力を高めるために必要だと思うもの」という設問があった。選択肢は、経験の蓄積、知識の習得、よい指導者、資格への挑戦の4つの中から一つ選ぶ設問である。回答者のプロフィールを踏まえてクロスの分析をしてみないと詳しいことは分からないが、集計だけを見ると、経験の蓄積を選択した人が6割以上であった。

 まあ、このようなアンケート結果を引くまでもなく、プロジェクトマネージャーの経験がプロジェクトマネジメント重要な影響を与えることは明らかである。レッスンラーンド、組織成熟度など、プロジェクトマネジメントの中では経験が大変重視される。今回はこの経験について議論してみたい。

◆経験はどのように使われるか
 最初に自問してみてほしい。

 「あなたが、経験2年〜3年の要員を使って行う作業の見積もりをするときに、一体、どのようなパフォーマンスを想定して見積もりをするのか」

 これは著者がある企業で実際に調査した結果であるが、驚いたことに、改めてそのようにたずねてみると、やはり、基準は自分なのである。もちろん、組織成熟度が高く、標準的工数が定められている企業であれば、その標準工数が基準になるのであろうが、その企業にはそのようなものはなかった。このような調査をした理由は、その企業では、見積もりのショート率(見積もり工数が実績に較べて低い割合)がなんと80%を越えていた。つまり、8割のプロジェクトは赤字だったのだ。数件のサンプルプロジェクトを抽出し、実績工数と内容をチェックしたところ、そんなに実績工数が大きいということではないことが分かり、プロジェクト作業の進め方より、見積もりに問題があると考え、見積もり方法の分析をしたところ分かったのが「自分を基準に見積もりをしている」という事実だった。

◆錯覚
 これはプロジェクトマネージャーが陥りやすい錯覚の一つである。つまり、自分ならどの程度の時間で作業ができる。そこから、経験年数などのよる割引をするものの、総じて、要員の能力を高く見てしまうのだ。もっときついことをいえば、人間は自分の過去の成功を美化する傾向がある。そのため、成功したプロジェクトでの自分のパフォーマンスを実際より高めに捉えていることが多い。それを基準にすることも多い。つまり、そのときの自分が作業してもできないようなパフォーマンスで見積もりをしてしまう。

 さて、見積もりは顕著な例であるが、プロジェクトの中でプロジェクトマネージャーが自分の経験に基づいてものごとを判断することは多い。そのときに、行動経験だけを重視し、その行動をした環境(条件)を忘れて経験に基づく判断をしようとすることがある。上の見積もりの例もその一例である。能力の違いという条件を忘れ、この作業ならこんなものだろうという判断をしている。このような経験の使い方はプロジェクトにとって決してプラスにならない。

◆経験を「客観化」する
 プロジェクトにおいて重要なのは、「客観化された経験」である。パフォーマンスの判断であれば、当時、自分がどのような能力を持っていたかを、コンピテンシーでも、資格でも何でもいいので、何か定量化してみる。その上で、今、担当させようとしているメンバーの能力を比較し、その見合いでパフォーマンスを決定し、見積もっていく。例えば、プロジェクトが煮詰まってくると誰が脱落者が出てくると経験的に知っている。だからといっていたずらにあわてるのではなく、自分の経験によると、どういうなに煮詰まり方をしたときに、どういうタイプの要員が脱落し、現在のプロジェクト状況、要員でそれが当てはまるかどうかを考えてみるといったことが必要である。これが客観化の意味である。

 プロジェクトマネジメントの組織成熟度というのは、経験をどれだけ、客観化できているかという指標であるが、プロジェクトマネージャー個人においても、はやり、経験を客観化し、コントロールしながらマネジメント行動に生かしていくことが重要である。


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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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