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第290回(2012.07.24)
「優先順位問題」について考える
◆優先順位はつけれない!?

一つのプロジェクトの中で、スコープや機能、品質、コスト、スケジュールの優先順位をつけることはできるが、2つのプロジェクトの間でどちらのプロジェクトを優先するかは、順位をつけることができない。

このような主張をする人が多いが、マネジメントの本質ともいえる優先順位問題について、優先順位問題について考えてみたい。

まず、上の主張をもう少し、考えてみる。


◆プロジェクト目標間の優先順位

プロジェクトマネジメントはプロジェクトの目的に対して、もっとも適していると思われるQCDSのバランスをとった目標を設定し、その目標を達成することが目的である。これは、多くのプロジェクトマネジャーが理解しており、実行しようとしている。ところが、何が大切かは決めても、優先順位をきちんと決めていないケースが多い。

QCDSの優先順位をつけないと何が起こるか。QCDSはどの要素間でもトレードオフの関係にある。たとえば、スコープとスケジュールの優先順位が決まっていないと、作業が遅れてきたときにどのように対処すればよいかが決まらない。つまり、目標が目標として機能せず、目標を決めていないに等しい。言い換えると、マネジメント(コントロール)をしていないに等しい。

その中で、スコープ「絶対」、品質「絶対」、納期「絶対」、予算「絶対」といった優先順位をつけることがある。プロジェクトで実際につけている優先順位はこのパターンが多い。「絶対」という場合は、他の目標は達成できなくてもいいという意味らしい。このやり方は、気休めにはなるが、目標にならない。他の例にもれず、「絶対」という考え方がもたらすのは思考停止だけだ。

たとえば、品質目標だけは必ず達成するという目標を立てたとしても、スコープの目標と納期の目標の優先順位で、品質目標の実現アプローチは変わってくる。つまり、複数の要素があれば、すべてに優先順位をつけておかないと意味がない。

なぜ、優先順位をつけることができないのか。プロジェクトの目的がきちんと理解できていないからである。逆にいえば、プロジェクトの目的をきちんと理解するということは、QCDSの目標を決め、その優先順位をつけることに他ならない。


◆プロジェクト間の優先順位

次に、プロジェクト間の優先順位の話に移ろう。この問題がよく出てくるのはSIのような受託プロジェクトをやっている場合である。このときの言い分というのは、だいたい、どの顧客のプロジェクトも契約通りに終了しなくてはならないのだから、プロジェクト間に優先順位をつけることはできない。

現実には顧客間に優先順位があるのではないかと訊ねると、それは経営レベルの話であって、現場では顧客に優先順位はないという答えが返ってくることが多い。


◆なぜ、優先順位が必要なのか

このようにプロジェクト目標やプロジェクト自体の優先順位をつけることができない原因はどこにあるのだろうか?優先順位というものに対する理解不足ではないかと思う。

目標にしろ、プロジェクトにしろ、優先順位は足切りをするためにつけるわけではない。つまり、優先順位の低いものはやらなくてよいというわけではない。すべての目標を達成するために優先順位をつけるのだ。個々に対する誤解があるように思う。

では、目標を達成するためにはなぜ、優先順位が必要なのか。

プロジェクトは工場のラインのように計画を作れば、それを粛々と「こなして」いくというものではない。最終的にすべての目標を達成しなくてはならないが、その過程では計画を調整しながら行っていく。調整の基準になるのが、目標の優先順位である。優先順位がないと、どのような調整をするかをすぐに決めることができなかったり、あるいはプロジェクト全体でみたときの合理性を欠く決定をすることになる。そして、結果として、どの目標も達成できないという最悪の事態に陥る。

「絶対」という考え方は、このことをよく分かっている人たちが、機械的に判断をできるようにするために持ち込んでいるケースが多い。ただし、上で述べたように、それ以外の目標に優先順位をつけていないと、結局、同じことが起こる。

プロジェクトの優先順位の問題も同じだ。プロジェクトでは、計画をしっかりと作っても遊び時間が必ず出てくる。その遊びの時間を優先順位をつけることによって、優先順位の高いプロジェクトに投入していけば、トータルでの稼働率が向上し、すべてのプロジェクトを完遂することにつながっていく。


◆すべての目標が達成できないという前提

さらに、重要なのは、すべての目標が達成できなくなった場合である。すべての目標が達成できた場合には、優先順位はあまり意味がないと考える人が多い。言い換えると、すべての目標を達成することを前提にプロジェクトを行うと、優先順位をつける必要はないという理屈になる。ただし、上に述べたように、無駄がでてきて、結果として一部の目標しか達成できなくなる可能性が高い。

また、多くのプロジェクトがそうであるように、すべての目標を達成するという前提で行っても、現実にはできないことが多い。

この場合、優先順位は問題が発覚したところで必要になるものではなく、初期の段階で必要になる。つまり、未達成の目標が生じた場合、そこで優先順位を付け、優先順位の高い目標から達成していくのと、最初から優先順位を付け、優先順位の高い目標から達成していくのでは、積み残しになる目標の重要さが大きく異なる。

後者の場合、その目標はあきらめることができることが多いが、前者の場合、下手をすると優先順位の高い目標を犠牲にしても、達成しなくてはならない場合が出てくる。たとえば、納期の優先順位が高いのだが、残ったスコープは優先順位が高いもので、納期を遅らせてもスコープを実現しなくてはならないようなケースだ。こうなると、プロジェクトとしては失敗である。


◆メンバーの自律性の支援

さらに、ヒューマンリソースマネジメントとして重要なことは、プログラムの中のプロジェクトのように、メンバーが複数のプロジェクトに参加しているケースである。このようなケースでは、時間の使い方や、作業の進め方はメンバーの自律的な判断に任せざるを得なくなる。自律的な判断にプロジェクト全体としての合理性をもたらすのは、目標の優先順位である。

このように、目標やプロジェクトへ優先順位をつけることは、さまざまな局面で意思決定をスムーズにし、ムダをなくし、自立的な判断をするために優先順位は必要である。日本人の思考習慣として、0/1でものを考える習慣がある。つまり、優先順位が高ければ1で、低ければ0である。この思考習慣が、複数の目標がある場合に、目標の優先順位をつけたくない原因になっているように思う。

この思考習慣を改め、すべてのものに優先順位を付け、それによって、全体最適を実現していく必要がある。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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