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第274回(2012.01.27)
センスのいいプロジェクトマネジャーへの旅

◆はじめに

この記事は、日経BPのITproに谷島宣之さんの書かれた「「センスのよいSE」とは何か、じっくり考えてみたが難しい」への返事として書いた記事である。まずは、谷島さんの記事を読んで欲しい。

「センスのよいSE」とは何か、じっくり考えてみたが難しい

◆プロジェクトマネジャーになる旅

センスのよいプロジェクトマネジャーになることは旅だ。この旅には、いくつかのマイルストーンがある。

最初のマイルストーンは、どんな小さなプロジェクトでもよい。プロジェクトマネジャーになることだ。プロジェクトマネジャーとしてプロジェクトマネジメントをしないと、プロジェクトマネジャーへの旅は始まらない。

次のマイルストーンは、プロジェクトを「手のうちに入れることができるようになる」ことだ。プロジェクトにはおとなしいプロジェクトもあれば、暴れ馬のようなプロジェクトもある。暴れ馬だから乗らないというわけにはいかない。プロジェクトマネジャーは乗りこなさなくてはならない。

暴れ馬のようなプロジェクトに乗りこなせたら、一人前のプロジェクトマネジャーとして認知されるだろう。したがって、ここに定住する手もある。しかし、安住の地ではないことは覚悟しておく必要がある。プロジェクトの度に、眠れない夜を過ごすことになるだろう。


◆センスのよいプロジェクトマネジャーになる旅(1)

もう少し、楽をしたければ、また旅に出る必要がある。次のマイルストーンは「センス」だ。センスというマイルストーンに向かうには、自己学習によりいくつかの「道具」を得るだけではなく、自己変革が必要である。

真っ先に必要になるのは、ものごとを決める力だ。プロジェクトやプロジェクトマネジメントは意志決定の連続である。そして、ほとんどの意思決定は、プロジェクトマネジャーが行わなくてはならない。

意思決定を行うに当たってもっとも基本的、かつ、重要なことは、自分がプロジェクトにおける意思決定の当事者だと思うことだ。決めることをメンバーに丸投げしたり、上司にエスカレーションしてはならない。自分で決め、判断を仰ぐ、あるいは合意形成をすることが基本である。

逆説的であるが、だからといって、問題を抱え込むのはご法度である。問題をオープンにし、チームや上司と対話を行いながら、彼らの持つ力をうまく使い、自分自身が意思決定していくことも忘れてはならない。そのときに、役立つのがゲームストーミングである。


◆センスのよいプロジェクトマネジャーになる旅(2)

二番目は、価値観を変えることだ。プロジェクトマネジャーのあなたは、担当メンバーだったころから、「汗をかく」ことを良しとしてきた。昼間は会議の連続。顧客との打ち合わせ、メンバーとの打ち合わせ、上司への報告などに忙殺される。そして、寝る間を削って、メンバーの作業のレビューをしたり、スケジュールの確認をしたり、メンバーの個人的な相談にのったりしてきた。

しかし、残念ながらこれらはすべて、メンバーが価値を生み出すための支援であり、プロジェクトマネジャーのあなた自身の価値を生み出すための行動ではない。従ってあなたがいくら忙しくしていても、成果は小さい。いわゆる、「アクティブノンアクション」状態に陥っているわけだ。

この問題を回避するには、汗をかくことへの信仰をやめなくてはならない。忙しいことは恥ずべきことであり、如何に効率よく仕事をするかに誇りを持つ。

そのために、まず何をすべきか。まずは、時間の管理単位を短くすること。時間(Hr)でもいいし、30分単位であっても構わない。

次に、プロジェクトの提供する価値を決め、それをステークホルダと合意すること。プロジェクトマネジャーが提供する価値を見つけることは、メンバーを余計な仕事から守り、メンバーの苦労を最大限に評価されることに直結しており、プロジェクトチームにとっても非常に意義のあるべきことだ。

また、プロジェクトの価値を決めることは、そのプロジェクトを何のためにやるのかという目的を決めることと表裏一体である。同じシステムや商品を開発しても、その目的は全く異なるということは珍しいことではないし、目的が違えばプロジェクトで提供する価値も異なることになる。


◆センスをよくするには、身体ではなく、脳で汗をかく

多くのプロジェクトは、そのプロジェクトは何が大切で、何が大切ではないかを曖昧なままで進めている。だから、「雨にも負けず、風にも負けず」の世界になってしまう。センスを良くするには、プロジェクトを行う目的を明確にして、目的実現の貢献しないことは、それがどんな大義名分があることであってもしないことだ。これによって、プロジェクトはシンプルになり、脳がかく汗は増えるが、身体がかく汗は減る。

目的を決める上で重要なことは、それはすべてのステークホルダで共有されるべきものだということだ。プロジェクトマネジャーが目的を決め、組織が承認してもそれが表面的なものであっては意味がない。プロジェクトマネジャーが決めた目的をステークホルダの間で具体的な成功イメージに落とし、そのイメージを共有して初めてプロジェクトの目的が決まったといえる。

ここでもゲームストーミングが大いに役立つ。


◆センスを決めるのはステークホルダ

注意してほしいのは、センスがいいかどうかは自分たちが決めることではないということだ。SIプロジェクトであれば、担当のプロジェクトマネジャーやプロジェクトがセンスがいいかどうかを決めるのは、顧客である。

つまり、プロジェクトの価値を独断的に決め、その価値に基づいてプロジェクトの活動をシンプル化しても、顧客はセンスがいいとは思わないだろう。ある企業のCIOから聞いた話だが、「○○社(ITベンダー)はなぜ、PMBOK(R)なんてやっているのだろう」といっていた。最初は興味深く見ていたが、そのうち本末転倒になってきたというのだ。

実はこの視点が重要である。プロジェクトの進め方にしろ、システムや商品の仕様にしろ、顧客(ユーザ)の視点でセンスがよいと思われるように決めていったところに、シンプルがある。複雑になるのは、自分たちの視点で、顧客は何を望んでいるかを考えるからである。ここにセンスを考える意味がある。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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