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第255回(2011.05.31)
プロジェクトの上位管理者考(2)〜現場力と組織力

◆売り手市場と現場力

前回は、上位管理者の役割が混乱しているという話をしたが、今回はこの問題の背景を考えてみたい。

日本企業の強みの一つは間違いなく、「現場力」である。類まれともいえる現場力で成長してきた。ここで一つ、はっきりしておかなくてはならないのは、その間、売り手市場だったということだ。売り手市場ではよいものを作れば売れる。おまけに日本の高度成長期は規制による横並びの市場だった。言ってしまえば統制経済に近かったので、本当の意味での競争もなかった。このような環境であれば現場力が強いと全体が回っていく。

現場力が強みという話が怪しくなってきたのは、市場も成熟し、いわゆるバブルもはじけ、モノ余りが言われるようになってからである。

ここで多くの企業が考えたのは、モノが売れないのは、良いモノを作る力が落ちている、つまり現場力の低下だと考えた。品質、リードタイム、コスト、・・・

そこで、より一層の現場力向上をしようとした。その一つの施策がプロジェクトマネジメントである。この判断自体が間違いだとは思わないが、そのあとの方向性で致命的なミスをしている。それは、現場力を直接上げようとしたことだ。


◆現場力と組織力
米国的な経営では、現場力は組織力によって変わる。組織力が強いと現場力も強くなるし、組織力が弱くなると現場力も弱くなる。たとえば、経営状況が悪くなると、品質が悪くなる。つまり、現場力を上げるには、組織力を上げなくてはならない。統合的プロジェクトマネジメントはこのような経営を支えるツールだ。つまり、現場をモニタリングし、組織を強くすることにより、環境を変えることにより、現場の機能を活性化し、現場を強くするツールがプロジェクトマネジメントである。

ところが高度成長期の日本では、現場力と組織力は独立していた。上に述べた理由によるものだ。そこに、プロジェクトマネジメントを組織力強化のツールではなく、現場力強化のツールとして使おうとした。これが、落とし穴だった。


◆統合マネジメント

今では少し変わりつつあるが、PMBOK(R)が導入され始めたころには、統合マネジメントという知識エリアはPMP(R)の人でもあまり理解していなかった。現場から上に視線がいかないので、現場でQCDSを統合マネジメントするにはどうすればよいかという発想にしかならない。

PMBOK(R)はドキュメントが多いとか、計画書不要論が起こった理由はこれである。現場でものごとが完結するのだとしたら、PMBOK(R)のドキュメントの多くは過剰である。ソフトウエアのように成果物が見えない分野では多少の違いはあるかもしれないが、大差はないだろう。

日本でも、PMBOK(R)は、プロダクトライフサイクルでいえば、成熟期に入っていると思われるが、現場力を強化するツールという発想は変わらない。つまり、組織的な意思決定の問題や、ステークホルダマネジメントは棚に上げて、相変わらず、みんなでリスクを精緻にしようとか、見積もりの制度を上げようとか、現場のプロセス標準を守ろうとか、一生懸命、現場を強くするように組織が動いている。


◆必要なのは現場力ではなく、組織力の強化

もともと、日本の現場にはこんな支援など必要はなかったのだ。現場力で成果がでなくなった、つまり、一生懸命考えてものを作っても売れなくなったのは、現場力が弱くなったことが問題ではなく、市場が買い手市場になったことが問題なのである。

今までは、「品質」や「機能」でよいものを作れば、売れていた。ところが、それでは売れなくなった。売れないどころか、「ガラパゴス」と揶揄される存在になっている。この状況で組織に求められることは、何を作るべきかを現場に教えることに他ならない。

つまり、必要なのは、現場力の自体の強化ではなく、組織力を強化して、結果として現場力を上げることだ。そして、両者の間にはシナジーがある。


◆現実と統合的プロジェクトマネジメントの必要性

そんなことは言われるまでもなく実践しているという企業もあるだろう。そうかもしれない。プロジェクト活動の中でマーケティングが何を作るかを決めて、プロジェクトに投げ込む。プロジェクトは商品を開発し、生産に渡す。というのは確かにやっている。しかし、このやり方こそが諸悪の根源なのかもしれない。

市場が必要とするものを提供するというのは、一見正しいようだが、本当にほしいものがなければ、そこで調査された人たちがいうのは、facebookの「いいね!」とそんなに変わらない。つまり、「顧客の声」を聞いて作ったものが売れないという現象が起こる。

すると、今度は「売り方」、「作るもの」をセットで考える必要があるという議論になる。さらにいえば、ここにシステム的な意味で、「作り方」も絡んでくる。このように考えると、この議論は現場では収束しない。経営のすべての活動が統合され、プロジェクト活動として機能する必要がある。これが統合的プロジェクトマネジメントであり、現場力の強化ではなく、組織力の強化のためのツールである。

そして、統合的プロジェクトマネジメント成功のカギを握っているのが、プロジェクトの上位管理者である。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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