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第234回(2010.11.02)
ホールシステムアプローチとプロジェクトマネジメント(2)
プロジェクト憲章作成へのホールシステムアプローチの適用

◆プロジェクト憲章を誰が書くのか

10月28日に開催したセミナー「PMO2.0」セミナーのパネルで、プロジェクト憲章を誰が書くかが話題になった。一般的なプロジェクトマネジメントの教科書では、プロジェクト憲章はミッションステートメントであり、プロジェクトのミッションとプロジェクトマネジャーの指名を目的としたドキュメントである。

その意味では、例えば、事業部長など、組織のしかるべき人が書く。プロジェクトによっては、社長が書くようなものがあってもおかしくはない。


◆プロジェクト憲章で決めるのは目標か、制約か

しかし、現実にはビジネスであるので、ミッションの中には組織からプロジェクトに課したい条件が入ってくる。例えば、予算である。ここで問題になるのは、プロジェクト憲章に書いた予算というのは、「制約条件」なのか、「目標」なのかだ。

例えば、予算を100万円だとプロジェクト憲章で定められたとする。これは100万円使えということなのか、それとも100万円以下に抑えよということなのかだ。

予算を書かれている場所が計画書(あるいは管理計画書)であれば、間違いなく前者である。予算100万円という計画で90万円しか使わなかったら、手抜きをしているか、見積もりが不適切であったかのいずれかである。その意味で褒められたことではない。

問題はプロジェクト憲章に書かれることの意味で、これは現実を見ても企業によって異なる。計画と同じように100万円(目標)という企業もあれば、100万円以下にせよ(制約条件)という意味の企業もある。この問題は組織のガバナンスの問題であり、権限委譲の本質に関わる問題である。


◆制約下での意思決定を承認する意味

プロジェクト活動の本来的な意味合いからすれば、目標ではなく、制約条件である。本来プロジェクト憲章には目標は書かれるべきではない。目標は制約条件を守れる範囲で、プロジェクトが自発的に決めるべきものである。つまり、プロジェクト憲章で指名されたプロジェクトマネジャーが組織から与えられたプロジェクトの実施目的に基づき、制約条件の範囲の中で(メンバーと相談しつつ)、目標を自己決定する。このような役割を果たすのがプロジェクト憲章である。

ただ、ここでややこしい問題が出てくる。それは、プロジェクトでの決定事項を組織として承認する必要があると考える組織マネジメントが多いということだ。決定と承認の関係は結構複雑であるが、承認されないとできないということではないと考えると、承認行為は「組織としてプロジェクトの決定を支援できるかどうかの判断」だということになる(もちろん、承認されないものはできないと考える組織もある。ここにも権限委譲の問題が出てくる)。


◆意思決定の支援であれば、ホールシステムアプローチ

承認の問題は本質的に「組織としてプロジェクトの決定を支援できるかどうかの判断」だと思われる。だとすると、プロジェクト憲章を書いて、一度、落とし、もう一度、それを拾うというのは効率がよくない。縦組織に厚い壁(階層の壁)がある米国の組織であれば仕方ないが、縦の壁より横の壁(縦割りの壁)の方が厚い日本の組織にはもっとやりようがある。

日本的な発想でいえば、経営トップから現場担当者までプロジェクトに関わる全員が集まって、プロジェクトの目的を共有しつつ、その中で適切な目標を決めれば、制約条件で与えるといったまどろっこしい方法は必要がなくなる。

かつ、その場に、横の組織、つまり社内ステークホルダも集まれば、横の壁の問題も解消する。その意味で、プロジェクト憲章の策定をホールシステム・アプローチ、特にワールドカフェを活用することは効果的である。


◆ワールドカフェの活用方法

ワールドカフェにはさまざまなメリットがあるが、中でも著者が大きいと思っているのは、ホモジニアス(homogeneous)であることにある。経営からプロジェクトの現場まで、さらには顧客やベンダーなどの社外ステークホルダまでが一同に会すこともできる。集まれない場合にも同じスタイルで話合いをし、話し合いの結果を同じスタイルで伝えていき、混ぜ合わせた上で、フィードバックすることができる。

このような仕組みは意外と作るのが難しいものだが、ワールドカフェという一つの方法で簡単にできてしまう。これはすばらしいことだ。工夫次第では、凄いことができる。特に、プロジェクト憲章のように組織を越えた意思決定においては、有効である。


◆ワールドカフェとセミナーのお知らせ

まず、PMstyleCafeのお知らせ

◆テーマ:誰のために仕事をするのか
http://www.pmstyle.biz/smn/20101208.htm

というテーマで、ビジネスにおける関係性を議論するワールドカフェを開催します。

さらに、11月30日には、マインドエコーの香取一昭さんに今年度2回目となる「ワールドカフェ活用講座」を実施して戴く予定です。

◆ワールドカフェ活用講座
詳細・お申込 http://bit.ly/9U8X3e

さらに、12月2日には、ホールシステム・アプローチ全般についてのセミナーを行います。こちらは、香取さんと好川のコラボです。

━【開催概要】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆ホールシステム・アプローチでブレークスルーする
  2010年12月02日(木)  13:30-16:30(13:10受付開始)
  場所:銀座ブロッサム中央会館 ミモザ(東京都中央区) ◆3PDU取得可能
  講師:香取 一昭(かとり かずあき) 氏(Mindechoe代表)
     好川 哲人(よしかわ てつと)(PMstyleプロデューサー)
  詳細・お申込 http://bit.ly/955eF1
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1.ホールシステム・アプローチでブレークスルーする
  〜問いを変えれば答えが変わる〜
    (講師:香取 一昭氏)
2.プロジェクトマネジメントにおけるホールシステムアプローチの活用
   (講師:好川哲人)
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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